The Kiss over the Sequel(帰結への口付け)

夏希(春香)「ねえ…キスして欲しいな」
匡(涼)「ええっ!い、いきなりっ!?」
夏希「気持ち…ちゃんと確かめたいから。ダメ?」
それに返事なんて言う前に…
「んんっ!」
僕は唇が塞がれちゃったんだ。
………
それは少し前へと遡る…
春香「れ、れれれ…恋愛ドラマですかっ!?」
春香は思わず立ち上がってプロデューサーへと迫った。
「落ち付け春香。スペシャルドラマなんだけどさ、まずは座ってくれ」
春香「は、はい…」
「それでだけどさ、この前の雪歩のドラマは見たか?」
春香「はいっ。雪歩が凄く綺麗でしたね」
「それが好評でまたうちの事務所で作りたいってことでさ」
春香「そうだったんですか。でもどうして今度は私なんですか?」
「どうやっても撮影期間に日程を空けられそうなのが春香だけだからさ」
春香「そんなことで私が選ばれたんですか?」
「まあ今回の役、合いそうなのは雪歩か伊織か春香くらいだからな」
春香「あれ?そのメンバーだと律子さんでも良さそうな気がするんですけど…」
「従姉弟同士っていうのはさすがに倫理上な」
春香「と言うことは相手は涼ちゃんですか?」
「ああ。特に秋月さんの演技がかなり好評で、本当は雪歩でもう一回録りたかったらしいんだけどな」
春香「そんなあ、それなら雪歩に頼んでくださいよ!」
少し怒っている春香。
「さっき日程がって話しただろう?ああ、じゃあいいんだ」
もう一部の書類を出すプロデューサー。
「それなら前のドラマのイメージに近い役も来てるけどこっちにするか?」
春香「え゛…あの狂気染みた役みたいなのですか…?」
「ああ、そっちも来てるんだよ。サスペンス物のオファーも結構あってなあ…」
春香「やっぱりイメージが付いちゃったってことですか?」
「そういうことだな。じゃあそっちを受けるって連絡してくるぞ」
プロデューサーが立ち上がろうとした瞬間…
春香「プロデューサーさんストーップ!」
「ん?どうした?」
春香「まだやらないなんて言ってないじゃないですか」
「でも雪歩の日程も少し無理言えば空けられなくないしさ」
春香「ダメですっ!そんなプロデューサーさんが無理するなんて」
「いいんだよ、それがプロデューサーってもんだ」
春香「ああもうっ!やります、やらせて下さいっ!」
「最初からそう言えば良かったじゃないか、春香」
春香「だってプロデューサーさんが雪歩の方が良いって言うから…」
「まったくなあ…俺はいつ『雪歩にオファーが来た』と言ったんだ?」
春香に書類を見せるプロデューサー。
春香「あれ?私の名前以外どこにも無い…」
「俺は伊織とかの名前も出したけど、『うちの事務所で』としか言ってないぞ」
春香「やっぱりプロデューサーさんにもて遊ばれてたんだ…」
「あまりにも春香が突っかかってくるからついな」
春香「もう…グスン…」
プロデューサーを驚かそうと泣きマネをしてみる春香。
「お、おいおい。悪かったって、ゴメンな春香」
春香「本当に反省してますか?」
「反省してるって。さすがに今までのは俺が悪かった」
春香「プロデューサーさん、本当に私が泣いてるって思ったんですね」
「え?今のって泣きマネだったのか?」
春香「そうですよ、ちょっとくらい私からからかってもって」
「やられたな…ま、でもそれくらいの演技力があれば大丈夫だな」
………
それは罰ゲームの冗談から始まったんだ。僕は放課後の校舎裏に夏希を呼びだした。
夏希「匡くん、それで話って…」
「夏希さん…ぼ、僕と付き合ってください!」
これを片想いの人に言うっていうのが、僕に課せられた罰ゲームの内容だった。みんな隠れて見てるし…
夏希「えっ…きょ、匡くん…」
「あ、え、えっと…驚かせちゃってゴメンっ!これ、実は罰…」
ここで種明かしをしようと思ったんだけど、でも…
夏希「こ、こんな私でもいいの?」
「え?夏希さん…」
夏希「まさか…匡くんから告白されるなんて思わなくって…」
「な、夏希さん…いいの?」
コクンっ
夏希は一つ頷いた。
夏希「匡くんって何だか一人違う雰囲気がする男の子で…だから惹かれちゃったのかな」
「夏希さんだって…僕にとっては他の誰とも違う、魅力的な女の子だよ」
夏希「実はね…匡くんに今日呼び出されて無かったら、私が匡くんを呼び出すつもりだったの」
「えっ…そうなの?」
夏希「私も罰ゲームで同じこと言われてたから」
「それじゃあ、もしかして…」
よく周りを見渡せば、僕の仲間だけじゃなくて夏希のグループの人も隠れているのが見えた。
夏希「きっと…そうだよね。みんな、後押ししてくれたのかな」
「そう…だと思うよ。だけど僕たち片想い同士だったんだね」
夏希「うん…あ、あの…匡くん」
「どうしたの?夏希さん」
夏希「キス…して欲しいな」
「ええっ!い、いきなりっ!?」
夏希「気持ち…ちゃんと確かめたいから。ダメ?」
それに返事なんて言う前に…
「んんっ!」
僕は唇が塞がれちゃったんだ。その時にやっと気が付いた、夏希の明るい中の乙女な部分を…。
「………ぷはっ…な、夏希さん…」
夏希「………はあっ…匡くん…」
「夏希さんって…積極的な人だったんだね…」
夏希「これが本当の私…だから」
「何だかもっと夏希さんのことが知りたくなっちゃったよ」
夏希「これから…私のことをいっぱい知って…匡くん」
「夏希さん…」
夏希「匡くん、夏希さんって…もうちょっと変えて欲しいな」
「じゃあ…どうしよう?」
夏希「………って呼んで?」
「そっか、うん。じゃあ…」
僕は周りに居たみんなにも聞こえるような声で言ってやったんだ。
「これからよろしくね、なっちゃん!」
………
監督「…カーット!OK!一発で決めてくれたね、天海さん、秋月君」
春香「大丈夫でしたか?監督さん」
監督「やっぱり天海さんでイメージ通りだったな。天海さんも萩原さんも本当に765プロの子は上手いね!」
「うう…二股って言われそうで本当に怖いなあ…」
監督「男優ってのはそんなもんだ。気にするこたあないさ秋月君」
春香「涼ちゃんだったら本当に恋人でも…って本気で思っちゃいました」
「ええっ!?春香さん…」
監督「でもいい感じで成長してくれたね。凛々しい感じは前よりも上だな」
「ありがとうございます!」
監督「天海さんもこっちのコンセプトそのまま、いいやそれ以上だな」
春香「はいっ、ありがとうございます!」
監督「二人ともこの調子で撮影頼むよ」
春香・涼「「はいっ!」」
二人は互いに顔を見合わせて頬笑みながら返事をした…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
ドラマパートは今回、涼(匡)の一人称にしてみました。私のSSではかなり珍しい形です。
珍しいも何も、前に書いたのは実は2年も前の話ですから。
真ん中のPと春香のやり取りでノリノリになってしまったのはご愛敬ですが(苦笑)。
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2010・11・10WED
飛神宮子
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