プロデューサーさん…それは私がただ一人愛した人。 |
春香 | 「あ、あのっ、プロデューサーさん」 |
P | 「何だい?」 |
春香 | 「私ってプロデューサーさんにとって、どんな存在ですか?」 |
P | 「そうだな…空気かな」 |
春香 | 「えっ…それって、どういうことですか?」 |
P | 「どんなに近くに居ても、気にならないってことさ」 |
春香 | 「そんな…ありがとうございます」 |
P | 「でもどうしたんだ?急にそんなこと言うなんてさ」 |
春香 | 「だって、最近私に冷たいなって思って…」 |
P | 「そうか?そんなことは無いと思うけどな」 |
春香 | 「でも、他の子に随分と肩入れしている気がするし…」 |
P | 「そう見えるだけじゃないのか?俺はいつもこんな感じだぞ」 |
春香 | 「むー…だってこの前のライブの時、私よりあの娘の方ばっかり見てましたよね?」 |
P | 「まあアイツはダンスが心配だったからな」 |
春香 | 「私のことなんか心配もしてくれなかったし…」 |
P | 「でもできていたのはちゃんと観ていたぞ」 |
春香 | 「何だかなあ…」 |
P | 「それよりあのライブ、少し音程が狂ってたよな」 |
春香 | 「え…そ、そうですか?」 |
P | 「ああ。何だかずいぶんと浮ついた感じでさ、どうしたんだ?」 |
春香 | 「プロデューサーさん、気にしてくれていたんですね」 |
P | 「それはまあ一緒にやってるからな。でも本当に最近音が不安定だぞ」 |
春香 | 「だって…気持ちがあの娘に移っちゃうんじゃないかって思って…」 |
P | 「まったく…」 |
ぎゅうっ |
その男性は、その少女を胸へと引き込んだ。 |
P | 「俺がいつ、アイツのことが好きだなんて言ったか?」 |
春香 | 「プロデューサーさん…」 |
P | 「俺が好きなのはあくまでお前だけだ」 |
春香 | 「その言葉、信じていいんですよね?」 |
P | 「信じてくれないか?」 |
春香 | 「…はい」 |
……… |
しかし、彼女は見てしまった。ここは夜の帳の落ちた事務所… |
アイドルA | 「プロデューサー、私に…私だけを見て…ください」 |
P | 「でも俺にはアイツが…」 |
アイドルA | 「そんなの関係ありません!私を…私だけを愛してください!」 |
P | 「…ああ」 |
そして応えてしまった禁断の約束… |
アイドルA | 「証拠…ください。私だけを愛してくれる証拠を…」 |
P | 「待て!それは…」 |
アイドルA | 「あの娘なら、あの娘は遠いからもう帰ってるでしょう?」 |
P | 「そうじゃない!俺の立場でお前を傷つけることなんて…できない」 |
アイドルA | 「いいんです。私が良いって言っているんですから」 |
P | 「でも…んんっ!」 |
強引にその娘に唇を奪われる男性。最早それに堕ちていくしかなかった。 |
そして、もう一人の少女は暗黒面へと堕ちていく… |
……… |
数日ののち、その男性は過ちに報いることとなる。 |
春香 | 「この桜が…どうしてこんなに綺麗か知ってます?」 |
P | 「…っ!!」 |
桜吹雪…それは時に人を狂わせる… |
春香 | 「ここには貴方と…私だけ。いいえ、この下にはあの娘も…」 |
P | 「た、助けてくれっ!」 |
春香 | 「助けて?嘘を吐いた貴方が助けて?そんなの、許されるとでも思ってるんですか?」 |
P | 「ひ、ひいっ!」 |
春香 | 「それにそんなに叫んだって、貴方の叫び声なんてどこの誰にも届かないんですよ…」 |
P | 「許してくれ!俺が悪かった!!」 |
春香 | 「自分のやったこと…それに報いてください…」 |
いよいよ首に日本刀が突き付けられた。 |
春香 | 「さようなら…」 |
勢いよく振り下ろされる刀。辺りの大地が血の色へと染まっていく… |
春香 | 「フフ…フフフ…アハハっ…アハハハハハハハっ!」 |
血の香りが咽ぶ中、狂気染みた笑いをする少女。 |
春香 | 「だって…貴方が悪いんですよ…。私には、貴方しか居なかったのに…」 |
少女の目から一粒の涙が零れ落ちていた。 |
春香 | 「天国で、私と一緒になりましょう」 |
その刀をそのまま自らの首へと滑らせた。そして紅い液体が少しずつ重なり合っていく… |
……… |
監督 | 「カーーーッット!」 |
その声に血糊の血溜まりの中から一人の青年と少女が起き上がった。 |
春香 | 「大丈夫でした?監督さん」 |
監督 | 「一発OKよ。天海さん、迫真の演技だったわね」 |
春香 | 「そ、そうですか?」 |
監督 | 「それに貴方のプロデューサーさんも、とても素人とは思えなかったわ」 |
P | 「あ、ありがとうございます」 |
春香 | 「プロデューサーさん、私の演技どうでした?」 |
P | 「いや、本当に死ぬかと思ったぞ。でもこういう役で本当に良かったのか?春香」 |
春香 | 「イメージ…悪くなっちゃいますか?」 |
P | 「どうだろう?こればかりは放送されてみないと分からないところだな」 |
春香 | 「ドラマですけど、こんな役はもういいかなあって思います」 |
P | 「そうだよな。でもこのドラマが放送されたらもっと増えたりしてな」 |
春香 | 「んー、それならそれでもいいですけどぉ…」 |
監督 | 「あの、お二人さん。そろそろシャワーとか浴びた方がいいわよ」 |
P | 「はい。それにしてもお互い血糊がべったりだな」 |
春香 | 「フフフ、何だかこんな格好で会話なんて変な感じですね」 |
P | 「そうだな。早く行って着替えような」 |
春香 | 「はいっ」 |
……… |
シャーーーー シャーーーー |
隣同士の個室に入った二人。壁越しに会話しているようだ。 |
P | 「しかし参ったぞ。本番直前になって相手役が大怪我だなんてさ」 |
春香 | 「私もですよぉ。それでプロデューサーさんが相手役に抜擢されるなんて…」 |
P | 「まあ一応台本は目を通していたけどなあ…」 |
春香 | 「でもプロデューサーさんだから余計に気持ちが入っちゃいました」 |
P | 「だろうなあ。そんな感じに見えてたしさ」 |
春香 | 「だって誰にも取られたくありませんからね」 |
P | 「何だよ春香。いつも可愛がってるじゃないか」 |
春香 | 「もっともっと愛して欲しいんです!」 |
P | 「分かったよ…これからもっとな、春香」 |
春香 | 「はい、プロデューサーさん」 |
P | 「そうだ、この後軽い打ち上げがあって終わりだけどどうする?」 |
春香 | 「事務所に一回帰るんですよね?」 |
P | 「そのつもりだけど、その後だな」 |
春香 | 「明日から何かありましたっけ?」 |
P | 「自分のスケジュールくらい憶えておいてくれよ。明日から5日間はオフだぞ」 |
春香 | 「それなら、今日はプロデューサーさんの家へ行きたいなあ」 |
P | 「…あのなあ、春香はオフでも俺は仕事があるんだぞ」 |
春香 | 「だったら、私がご飯作っちゃいます」 |
P | 「はあ…家の人は何も言わないのか?」 |
春香 | 「連絡さえすれば、プロデューサーさんなら信用してくれてますから大丈夫です」 |
もう何も言うまい、そう思ったプロデューサーなのであった… |