Happy love to you(幸せな愛をあなたへ)

終章 秋がくれた贈り物は…

時は戻って現在へ…
菜々「…ナナの話、聞いてもらえますか?」
夏樹「…ああ、こんな体勢でも良かったらな」
菜々「はい…。ナナは…勢いだけであのユニットに入れてもらって…でも本当にこれで良かったのかって悩んでた時もありました…」
夏樹「あの時は突然だったもんな。おまけにアイツらに解散芸まで見せちまったし」
菜々「いえ、違うんです!皆さんにも快く迎え入れてもらえて、楽しくやらせてもらってますから…」
夏樹「それでも…悩んでたのか」
菜々「はい…。何がナナをそこまで動かしたのか…どうしてか分かんなくなっちゃって」
夏樹「アタシはだりーとの関係があったけど、菜々はそうでもなかったよな」
菜々「みくちゃんとは少しはあったりなかったりくらいでしたけれど」
夏樹「アタシみたいににガッツリとした関係ではなかったんだな」
菜々「そうですね…べ、別にユニットに入って心地悪いとかそういうのも一度も思わなかったですよ」
夏樹「そうだったな。何だかんだいつもてんやわんやしてたけどさ」
菜々「あはは…そうでしたよね。それでバイトしてる時に分かったことがありました」
夏樹「………」
菜々「夏樹さんが来ない日は淋しいって感じていたナナが居たんです」
夏樹「……菜々…」
菜々「他のアイドルや事務所スタッフの皆さんも来てくれますけど、夏樹さんが来ない日は気持ちが違ってて…」
夏樹「アタシのこと、ずっと前からそんな風に思っててくれてたのか」
菜々「だからナナが入りたいって思ったのはあんなこじ付けな理由なんかじゃなくて…」
夏樹「………」
菜々「本当は夏樹さんともっとずっと居られるって思ったからだったんです」
夏樹「そうまじまじと言われると恥ずかしいな…」
菜々「だからあの時、夏樹さんに告白されたの…驚きましたけど本当に嬉しかったんですよ」
夏樹「何だよ…ったくさ」
夏樹は菜々の膝枕から起き上がってベンチに座りなおした。
夏樹「アタシは菜々のこと、最初は何だコイツって思ってたよ」
菜々「えっ…」
夏樹「こことかでよくギターの練習してたから、カフェは目に入ってたしな」
菜々「確かによくここのベンチで弾いてましたよね」
夏樹「でもな、気が付くと結構目で追ってる自分がいたんだ」
菜々「ナナのことをですよね…?」
夏樹「何かアピールしてたりイジられてムキになってたりさ」
菜々「あう…お恥ずかしいところを…」
夏樹「カフェに通うようになったのはその頃からだったな」
菜々「そうだったんですね。ナナは来てくれたのが嬉しかったですけど」
夏樹「それで初めて聞けたちゃんとした菜々の声、耳につくどころか心地良かった」
菜々「ナナも夏樹さんの歌声はよく届いてましたけど、声をきちんと聞けてドキッてしました」
夏樹「アタシの中に自然と溶け込んで…その時だったんだろうな、今までに無かった何かが芽生えてたんだ」
菜々「きっとナナもそうだったのかもしれません。その頃はまだ気が付いていませんでしたけど」
夏樹「こういうの、何がきっかけになるのか分かんないもんだな」
菜々「はい…あれ?それってことはナナ達ってもしかして…」
夏樹「ああ…さっき言ったろ。『こうなるのは時間の問題だった気がする』って」
菜々「そうでしたね…」
夏樹「ただあの頃のアタシはまだだりーの方に…」
菜々「夏樹さん、それはもう言いっこなしです」
夏樹「そうだな」
二人にはそれ以上の言葉はいらなかった。もう心は通じ合っているのだから…。
李衣菜「おーい、なつきちー!」
夏樹「やっぱり彼奴ら、いつも通りだったな」
みく「ナナチャーン!」
菜々「そうですね、これくらいで崩れるような二人じゃないですもん」
夏樹「それで、ちゃんと仲直りできたのか?」
李衣菜「本当に半分は菜々ちゃんの言う通りだったよ」
みく「でもナナチャン、よく大阪のこと知ってたねー」
菜々「前に何かのテレビ番組で特集されてたのを見たんです」
みく「そっかー。みく、本当に我慢して食べる時もこっちの作り方だと嫌なんだもん」
李衣菜「そんなに違いがあるものなの?」
みく「今度みくが実家に帰る時にもし一緒に来たら食べさせてあげるにゃ」
李衣菜「え、ホント?約束!絶対だからね!」
みく「言ったからにはちゃんと食べてもらうまでこっちには帰さないからにゃ!」
夏樹「何だよ結局イチャイチャしやがって」
李衣菜「う…そんなことないけど…だよね、みく」
みく「も、もー、夏樹チャン何言ってるのにゃ…!」
夏樹「結局ただのいつもの痴話喧嘩じゃねーか。だよな、菜々」
菜々「はい、もう見ているだけでいつもの二人の日常にしか…」
李衣菜「菜々ちゃんにまで言われた…もー、みくのせいだよ!」
みく「いーや、最初に原因を作ったりーなチャンのせいにゃ!」
李衣菜「みく!」
みく「りーなチャン!」
李衣菜・みく『…………解散だ(にゃ)!フン!』
夏樹「はいはい、だりーもみくも本当に成長しないな」
菜々「これで何回目でしょうかね…」
夏樹「さあな、このコントを見せられる方の身にもなってほしいぜ」
菜々「まったくです。本当に仲直りできたって言ってたのは誰だったんでしょうね」
みく「…ゴメンね、みくも悪かったにゃ…」
李衣菜「…私もついカッとなって…ゴメン」
みく「もうアレで仲直り…ね」
李衣菜「えっ…ここで?なつきち達も見てるのに」
みく「ナナチャン達ならいいにゃ…みく達のこと、言わなくても分かってるはずにゃ」
李衣菜「…分かったよ…」
チュッ チュッ
李衣菜とみくは互いの頬へ一度ずつ唇で触れ合った。
夏樹「お前らなあ…2つだけ言わせてもらうぜ…」
菜々「たぶんナナもなつきちさんと同じ事を考えていると思います」
夏樹「1つ、みくの言う通りお前たちの関係は周知の事実だ。思っている以上に広まってる」
李衣菜・みく『………』
菜々「それからもう1つです。二人ともこんな公共の場所でそんなことやって恥ずかしくないんですか!」
李衣菜・みく『!?!?!?』
夏樹「ほとんど人がいなかったからいいけどよ、やるんならそれくらいちゃんと気に掛けろ!」
李衣菜・みく『はーい…!』
タッタッタッタッタッタッ
李衣菜とみくはそう言われてようやく過ちに気付いて顔を赤くしながらその場から走り去っていった。
夏樹「ああいうのにはあれくらい灸を据えておいた方がいいよな」
菜々「喧嘩するほど仲が良いっていう、そのままの二人ですから」
夏樹「アイツらとはまだまだ長い付き合いになりそうだ」
菜々「ナナ達が望む限りは一緒にいられると思います」
夏樹「アタシ達が要らないって言われないようにしないとな」
菜々「はい…。だってあの二人のおかげで…ナナ達もこうなれたんですし…」
夏樹「菜々を選んだこと…後悔してないぜ」
菜々「夏樹さん、これからも…飽きさせたりなんかしませんからね!」
秋がくれた贈り物。それは季節が巡っても色褪せることなく二人の中に…

おまけ イツマデモ×ドコマデモ

夏樹「早く来いよ菜々!」
菜々「そんなこと言ってもぉ…ナナこういうの苦手だって…」
夏樹「ここは今週一杯は事務所で貸切なんだから知らない人は来ないぜ?」
菜々「お腹だけは…お腹だけは他の皆さんに見せたくないんですぅ…」
夏樹「…ったく…そんな恥ずかしがってたら来月の本チャンどうすんだよ」
菜々「それは、そこまでに覚悟決めるつもりでしたから」
夏樹「去年だってグラビアやったんだろ?」
菜々「あれは…何とかしてなるべくお腹隠しながらやってたんですよぉ…」
夏樹「今日は今度の練習だと思ってだな」
菜々「そんなぁ…」
夏樹「菜々がそんなんじゃさ…アタシも今日のこのプール、楽しめないぜ」
二人は色々な雑誌でのグラビア撮影ができるように事務所が貸し切ったプール施設に来ている。
菜々「夏樹さん…」
夏樹「ほらこの時間だからまだ人少ないんだし」
菜々「わ、分かりました…分かりましたから引っ張らないでくださいー」
………
ザバンッ
夏樹「ふぅーっ!今日は夏みたいな暑さだから気持ちいいぜ」
ジャブンッ
菜々「ぷはぁっ…でもこんなに泳いだら筋肉痛が…」
夏樹「あんなこと言っておいて、菜々も結局楽しんでるじゃないかよ」
菜々「水の中に入っちゃえば逆に見えないですし」
夏樹「ふーん、そういうものなんかな…よく分からないぜ」
菜々「でもやっぱりその黒い水着、夏樹さんによく似合ってますよね」
夏樹「ああ、この黒いの気に入ってんだ。菜々だってそれ、菜々らしい感じしてるよ」
菜々「そうですか?ありがとうございます…」
夏樹「それにしてもそっちで撮影している何個かの撮影隊以外は本当に静かなもんだ」
菜々「今日は平日ですからね。夏樹さんもこんな日が授業参観の振替休日だなんて…」
夏樹「今日撮影しているのは…成人してる奴らだな。早苗さんとかレナさんとか、あっちは…真奈美さんか」
菜々「ナナ達は夏樹さん達の夏休みまではできませんからね」
夏樹「来月までは摂生しないとってのが辛いぜ。アタシ達の撮影も水着があるからな…」
菜々「またあの地獄の特訓だけは…」
夏樹「ああ…二度とゴメンだよ」
菜々「ライブに向けたレッスンで何とか維持できればっ…」
夏樹「また一緒に頑張ろうぜ。楽しみだな、沖縄」
菜々「…はい!」
夏のような初夏の日差しが射し込むプール、そこには心が躍る二つの笑顔が輝いていた…
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2016・06・24FRI
飛神宮子
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