Happy love to you(幸せな愛をあなたへ)

第三章 ノーブランド・ヒロインズ

時は少し流れて桜の咲く頃…
夏樹「おう、今日までお疲れさん!」
「おお!来てくれてたのか夏樹」
夏樹「ちょうど今日の楽日がオフだったからチケット貰ってきたんだ」
「夏樹んとこは誰か出てたっけか。プロデューサーさんからだろ?」
夏樹「チケットの出処はそこじゃねーけどな」
「ん?じゃないとすると…」
そこに二人の出演者の姿が…
菜々「ぐすっ…終わっちゃたよぉ…」
「お、ここにいた。楽屋の方に来るっていうから探してたんだぞ☆」
「あれ?どうしたんですかはぁとさん」
「いやさ、そこにいるこいつのフィアンセに」
「ああ、そういうこと…」
菜々「えっ…な、なつきちさん!?来てたんですか!?」
「ほら、胸に飛び込んでこいよナナ先輩」
ドンッ
心は菜々の背中を優しく突き飛ばした。
菜々「わっ…わわっ…」
夏樹「おっと!」
ぼふっ ぎゅうっ
菜々はその勢いのまま夏樹の胸の中へと飛び込んだ。
「んじゃ、はぁとは清良達のとこに戻るから♪」
菜々「お手数お掛けしました、はぁとちゃん…」
「言わなくても分かったけど、チケットの出処ここか」
菜々「本当に来てくれてたんですね」
夏樹「チケット貰ったんだし当たり前だろ、むしろなかなか来れなくてゴメンな」
菜々「いいんですよ。なつきちさんもなつきちさんのお仕事があるんですから」
夏樹「公演のタイトルだけ見た時はこんな子供っぽいのとは思ったもんだけどさ」
「ああ、アタシも仕事請けた時にはそう思ったぜ」
夏樹「全部通してみれば、結構こんな歳でものめり込める感じだった」
「そう感じてもらえればやったかいがあったってもんだよ」
夏樹「あのフレデリカ、だいぶ台本とかも引っ掻き回されたように見えたけどな」
「アイツは本当に自由奔放な天才型だなって思ったよ。毎日少しずつセリフ変えやがってさ」
夏樹「分かる気がするぜ。アタシも一度共演したことあるけどよロックなヤツだよ本当に」
「一部のセリフなんて原型留めてないどころかセリフの内容自体も微妙に変わってたしな」
夏樹「本当におつかれさん涼。それに菜々もな」
菜々「はい…」
「ってお前らいつまで抱きしめ合ってるんだよ」
夏樹「いいじゃねーか別に。減るもんじゃないんだから」
「見られて冷やかされても知らないからな」
菜々「それでもいいですよね、なつきちさん」
夏樹「そうだな、菜々。ま、でもそろそろ離れとくか」
菜々「…胸貸してくれてありがとうございます」
「本当に見てて砂糖吐きそうだぜ…」
菜々「冷やかしはさっきのはぁとさんにだってされてますから」
「やっぱりはぁとさんもお前らのこと知ってたから連れてきてたのか」
夏樹「そういえば菜々、この後は打ち上げか?」
菜々「スタッフさんのはこの後みたいですけど、出演者の方は後日です。ありすちゃんとか小さい子もいますから」
夏樹「それでこの後は?」
菜々「ナナ達346プロ組はバスで事務所に戻ってから解散です」
「夏樹も乗ってくか?たぶん席は空いてると思うぜ」
夏樹「そう言いたいけどアタシはバイクだからな」
「まあそう言うとは思ってたけど」
そこにさらに出演者が…
李衣菜「あー!なつきちだー!」
みく「夏樹チャン来てたんだー」
「おっと、じゃあアタシもちゃんと帰れるように着替えて来るか」
夏樹「おう、また事務所でな」
李衣菜「なつきちも見に来てくれてたんだ。私の演技どうだった?」
夏樹「あのなあロックの方がロックって意味分かんないぜ」
李衣菜「だってわけの分からないセリフをフレデリカが急に入れてくるんだよ。それも出番直前になってさー」
みく「今回の舞台はフレデリカちゃんの自由さに振り回されたにゃ…」
夏樹「みんなして大変だったんだな。演者に入らなくて本当に良かったぜ」
みく「そういえばチケットって渡してたかにゃ?Pチャンからかにゃ?」
夏樹「いや今日はオフって決まってたから菜々から貰った。アタシ達のとこも行きたがってた人多かっただろ?」
菜々「ナナのところは大人が多いから観に来るって人が少なかったんです」
みく「みくもアーニャちゃんとか美波ちゃんとかにプレゼントしたっけ」
李衣菜「私も蘭子ちゃんとか未央ちゃんに渡してたなー」
夏樹「ま、みんな役が様になってたのは確かだったぜ」
みく「夏樹チャンありがとにゃ」
李衣菜「それでなつきちはこれからどうするの?」
夏樹「アタシか?アタシは先にバイクで346プロに戻る予定だけど」
みく「そっかあ、その後時間はあるのかにゃ?」
夏樹「無いことはないけどどうしたんだ?」
菜々「カフェでナナ達だけのささやかな打ち上げみたいなのをしようかなって思ってたんです」
夏樹「そうか、それなら菜々もさっき言ってくれれば良かったのによ」
菜々「あの場は涼さんも居たんですから」
李衣菜「それでなつきちはどうする?」
夏樹「そう言われたら俺も行かないなんて言わないぜ…お!そうだ菜々、ちょっといいか?」
菜々「はい、何でしょう?」
夏樹は菜々にしか聞こえないように耳打ちをした。
夏樹「………………けどどうだろう?大丈夫か?」
菜々「んー、はいたぶん。ナナから連絡入れておきますね」
夏樹「ん、助かるよ。じゃあ、先に事務所のカフェの方に行ってるからな」
李衣菜「なつきち待っててねー」
………
そしてカフェにやってきた3人。
みく「あれー?夏樹チャンって先に行くって言ってたよにゃ?」
李衣菜「いないねー、どうしたんだろ。連絡は………つかないし」
みく「ナナチャンは知らない?」
菜々「今一緒に来たナナがどうして知ってるんですかー」
李衣菜「とりあえず先に座って待ってよっか」
そこに来たのは…
夏樹「いらっしゃいませ、空いているお席へどうぞ」
李衣菜「…なつきちー!?」
みく「夏樹チャン何してるのにゃ!?」
夏樹「ハハハ、さっき先に行くって言ってたろ」
メイド服を着た夏樹だった。
李衣菜「言ってたけど、ただ待ってるだけって思うじゃん」
みく「ナナチャン、さっきの耳打ちってもしかしてこれのことー?」
菜々「はい!さっきの電話もマスターにお願いの連絡だったんです」
夏樹「まあ座ってくれよ。それで注文はどうする?」
李衣菜「え?本当にいいの?」
夏樹「飲み物くらいはアタシでも出せるぜ、食べ物はマスターが作るけどな」
みく「それならみくはねー、チョコバナナワッフルと紅茶にゃ」
菜々「ナナは…いつも見ているメニューですけどこうして見ると目移りしますね…」
李衣菜「私はこのフレンチトーストにしようっと。あとカフェオレで」
夏樹「菜々はどうする?」
菜々「ナナはですね…じゃあロールケーキとココアをお願いします」
夏樹「えっとちょっとメニュー貸して。アタシは…コーヒーでいいか」
李衣菜「え?なつきちもなの?」
夏樹「4人で打ち上げって言ったのはどこの誰だよまったく。アタシは別にここの従業員じゃないんだからな」
菜々「なつきちさんもここでバイトします?」
夏樹「いや、それはちょっと遠慮しとく。じゃ、今頼んでくるから」
………
夏樹「でもあの撮影以来、久しぶりにコレ着たぜ」
夏樹は全員の注文の品を持ってきて自らも席に着いた。
李衣菜「あのなつきちのグラビア、執事もメイドも良かったよねー」
みく「夏樹チャンのメイドのウインクなんてもう今後無さそうだにゃ」
夏樹「あれは恥ずかしかったから、さっさと撮影終わらせたくて必死だったな」
菜々「それだったから一日で終わらせちゃったんですね、納得しました」
みく「ん?夏樹チャンの撮影…何か引っ掛かるんだけど何かにゃ…?」
夏樹「みくが忘れてるのも無理はないぜ。菜々もあの時は大変だったよな」
菜々「えっと…ああ、はい!あれもあの日のことでした」
李衣菜「何かあったっけ?なつきちと菜々ちゃんに関係してるなら私も関係することだよね?」
夏樹「アタシもプロデューサーに聞いただけだからよく知らないけど、二人とも風邪で寝込んだんだろ?」
みく「風邪…あー!何か思い出したかも…Pチャンにお礼しといてって言ったような気がするにゃ」
李衣菜「寝込んだのって…ん?」
みく「りーなチャン忘れたの?テレビ収録で風邪貰ってきて二人で寮のみくの部屋に隔離された時にゃ!」
李衣菜「あの時かー!なつきちがお仕事だからって私たち二人だけでプロモーションに行ったんだっけ」
みく「その時のスタッフさん、みんな調子悪そうにしてたにゃ。収録立て込んでたんだってー」
夏樹「それで結局、午後のラジオの生放送にアタシと菜々で行かされてな」
菜々「そうでしたね。レッスン前になつきちさんから聞いてびっくりでした」
夏樹「アタシもだよ。朝にアイドルルーム入ったらプロデューサーが青ざめてたくらいだったし」
みく「その節は本当にゴメンなさいにゃ」
李衣菜「本当に助かったよー。なつきちも菜々ちゃんもありがとね」
菜々「いえいえ、ナナもレッスンだけでカフェもちょうどシフト入ってなかったですし」
夏樹「そーいえば、どうして夏樹チャンはナナチャンと一緒にレッスンしてたの?それならみく達も一緒のはずにゃ」
李衣菜「そうだね。起きてラ○ン見たけど写真は二人だったなー」
菜々「ナナがどうしても上手くいかないところがあって、特別に空いてるコマに入れてもらったんです」
夏樹「聞いたらアタシと一緒のとこだったから、撮影用の待機時間とか勿体無いだろ?それで一緒にな」
みく「あの難しいコーラスパートだよね?前よりとっても綺麗だったのはそういうことだったんだにゃ」
李衣菜「二人とも息ピッタリになってたもんね」
みく「あれはみく達が完全に負けてたにゃ」
夏樹「二人だけだったから結構特訓できたもんな」
菜々「そうですね。みっちり指導されたのでかなりレベルアップできました」
李衣菜「その後のラジオの生放送はどうだったの?みくは覚えてる?」
みく「みくもよく憶えてないかも。ゲストだった時間帯は気が付いたら寝過ごしてた気がするにゃ」
菜々「色々と詮索はされましたけど、ちゃんとシングルとライブの宣伝しましたよ」
夏樹「スタジオに行くまでに心積もりはしていったつもりだったけど、お互いに緊張はしてたよな」
菜々「そうでしたねぇ。でもファンの反応があんなに間近で見られるのも、ああいうスタジオならではですし」
夏樹「登場の時はかなりどよめいてた感じだったぜ」
李衣菜「へー、やっぱり行ってみたかったなー」
みく「今度は病気貰わないようにしないとねー」
夏樹「ハハハ、もう代打はこっちもカンベンだからな」
菜々「もー、ナナも偶然来てたから良かったですけども」
夏樹「あ、そうだ。せっかく打ち上げなんだから舞台の話聞かせてくれよ」
菜々「そうですよね、ここは舞台の打ち上げだったんですよね」
李衣菜「なつきちのメイド服のせいですっかり忘れてた」
みく「んーと、今回この中で一番メインだったのは菜々ちゃんにゃ!」
夏樹「それなら菜々から話を聞くとするかな……」
四人はそのまま遅くなるまで談笑をしていたという…

間章《三》 好きのカタチは不定形。

みく「李衣菜チャン、今日は帰らなくても良かったの?」
李衣菜「もう春休みだし、うちの親も寮だったらいいって言っててねー」
その日の夜、李衣菜は寮のみくの部屋にいた。
李衣菜「じゃああらためて…」
李衣菜・みく『カンパーイ』
チンッ
李衣菜「……ぷはっ…舞台お疲れさま」
みく「………はぁっ…お疲れさまだにゃ」
二人はグラスに入っていた飲み物を一気に飲み干した。
李衣菜「大変だったね。練習とか入れたら1ヶ月くらい舞台漬けだったし」
みく「李衣菜チャンの役、難しそうだったけどあの役ってどうだったの?」
李衣菜「役の内容聞いた時はどうすればいいか分かんなかったよ。役作りも全然検討つかなかったしさー」
みく「結構悩んでたにゃ。それでどうしたの?」
李衣菜「原作読んだり時子さんとかに話聞いたりして何とか仕上げたってカンジだったなー」
みく「納得したにゃ」
李衣菜「みくの方は簡単だったの?」
みく「ネコの感じはいつも通りだったから、それほどでもなかったよ」
李衣菜「でも結構厳しかったよね演出家さん」
みく「フレデリカチャンが自由奔放すぎて手に負えないからって、あれじゃみく達とばっちりにゃ」
李衣菜「フレデリカだけには自由にやらせといて、後のみんなには厳しくとか本当ね」
みく「アレはもうみんなでカバーしろってことだったんじゃないかにゃ」
李衣菜「それでハイレベル求めたのかな。ありすちゃんとか一時期大泣きしてたよね」
みく「見てて可哀そうだったにゃ…ありすチャンとか、文香チャンとかは特にクローネで一緒だし余計にね」
李衣菜「まあでも、終わり良ければ全て良し…でいいのかな?」
みく「今度の打ち上げで労ってあげようにゃ…」
李衣菜「でもやっとこれでしばらくは舞台からも解放だね…」
みく「李衣菜チャン…」
李衣菜「みく…」
二人にそれ以上の言葉は必要なかった。お互いの想いはまるで複写されたかの如く一致していた。
みく「李衣菜チャン…せめて、せめてベッドの上に行くにゃっ」
李衣菜「ベッドの上でなら…本当にいいの?」
みく「みくだって…李衣菜チャンのこと我慢してたもん…!」
李衣菜「みくだけじゃなくて私だってそうなんだから」
みく「今日は李衣菜チャン分をいっぱい補給させてもらうにゃ」
李衣菜「私もたっくさんのみく分貰っちゃうから、覚悟しててね」
二人の夜はそう早く終わりそうはない…
 
一方もう一組は…
夏樹「おい菜々、大丈夫か?」
菜々「…んん…大丈…夫…ですぅ…」
夏樹「これは自力は無理っぽいな。菜々のヘルメットとか持ってきといて良かったぜ」
幸いにも今日の菜々はズボン姿だった。
夏樹「いざとなったら衣装とかでどうにかしたけど、今日のなら大丈夫そうだな」
カチャッ カチャンッ
夏樹は菜々と自らにタンデム用のベルトを巻きつけた。
夏樹「菜々、一応言っておくけどここ掴んでてくれよ」
菜々「…ふぁーい…」
菜々は舞台での疲れと満腹感からかすっかり眠そうである。
夏樹「よしっ…」
カポッ ズポッ
夏樹は菜々と自らにヘルメットを被せた。
夏樹「いつもよりはゆっくりめで行くか…」
夏樹と菜々を乗せたバイクが公道へと走り出していく…
………
夏樹「着いた…何事もなく着けて良かった…」
夏樹はベルトを外して菜々をバイクから下ろした。
夏樹「菜々、菜々、起きろ、着いたぞ」
菜々「んんーっ…ふえ…ここはどこ…?」
夏樹「どこって見りゃわかるだろ、菜々の家だぜ」
菜々「えっ…えっ?えっ…ええっ!?ナナ、いつの間に!?それに夏樹さんどうしてここに!?」
驚きにすっかり目を覚ました菜々。
夏樹「すっかり寝ちまってたな。その分だとアタシとベルトで繋げてたのも憶えてないだろ」
菜々「はい…お手数お掛けしました」
夏樹「舞台に出てないアタシができるのはこれくらいだからさ」
菜々「すみません夏樹さん。ナナの家に寄っていってください」
夏樹「いいや、そのつもりはないんだけど」
菜々「えっ…そんな…」
夏樹「もうこんな時間なんだぜ」
菜々が時計を見ると時計は既に夜九時を指していた。
夏樹「時間が時間だから寄るだけのつもりじゃなかったんだよ。泊まってくぜ、いいよな?」
菜々「…は、はいっ!」
夏樹「ほら、家入れてくれよ。さすがにこの季節の夜は冷えるしな」
菜々「そ、そうですよね。今開けますから」
………
菜々「お風呂はどうします?」
夏樹「このままだとアタシも疲れて風呂で寝ちまいそうなんだよな」
家に入った二人。布団だけは何とか眠気に抗って二組敷いた。
菜々「明日の朝にしましょうか。朝に沸くように予約しておきますけど」
夏樹「菜々がそれでもいいならいいぜ」
菜々「大丈夫ですよ。それは夏樹さん専用の布団ですしシーツはこの前洗ってありますから」
夏樹「それならその言葉に甘えさせてもらうかな。んーっ!」
菜々「じゃ、ナナもお風呂の予約をしてメイクを落としたらもう寝ちゃおっと」
十数分後には菜々の家の布団には仲の良い寝顔が二つ並んでいた…
 
終章へつづく
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2016・06・24FRI
飛神宮子
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