ここはとある事務所近くの駅の前… |
春香 | 「まだ…かな?」 |
そこに待ち人がいる少女が一人、寒空の下で待っていた。 |
春香 | 「フフフ、今日は何して貰おっかなあ」 |
何やら妄想に耽りかけている。 |
春香 | 「プロデューサーさんに迫っちゃうのもアリかな。よしっ」 |
そんなことをしていると… |
P | 「春香ー!」 |
お待ちかねの人の声に… |
春香 | 「プロデューサーさーん!」 |
ブンブンブン |
ケーキの箱を持っていない方の手を振り、自分の存在を示した。 |
そこにやってくる待ち侘びた人。 |
P | 「おはよう春香。ん?もしかして持ってるのって…」 |
春香 | 「はい!今日のためにケーキ焼いてきちゃいました」 |
P | 「それならそれを車に置いてから街を歩こうか」 |
春香 | 「そうですね。プロデューサーさん、車はどこですか?」 |
P | 「事務所だよ。さすがに駐車料金は痛いからなあ」 |
春香 | 「そうですよね。それじゃあ早く行きましょうよ」 |
と、春香が歩きだしたその時… |
コケっ |
予想通り転んでしまう春香。 |
春香 | 「ふわあっ!?!?」 |
ガシッ |
蹴躓いた春香の身体をガッシリと腕で包み込むプロデューサー。 |
P | 「まったく…春香らしいな」 |
春香 | 「もう…そんな風に言わないで下さいよぉ。もう、このケーキ食べさせてあげませんからね」 |
P | 「ゴメンゴメン。ほら、そろそろ身体起こしてさ」 |
春香 | 「ああっ、ゴメンなさいプロデューサーさん」 |
腕に引っ掛かった体勢から立ち上がる春香。 |
春香 | 「ありがとうございました。ケーキも何とか無事みたいです」 |
P | 「それは良かった。ほら、それじゃあ行くぞ」 |
春香 | 「あの…プロデューサーさん…」 |
P | 「どうした?春香」 |
春香 | 「手、繋いでもらってもいいですか?」 |
P | 「…ああ、それくらいならお安い御用だよ」 |
春香 | 「じゃあ…」 |
ギュッ |
プロデューサーの右手に左手を握った春香。その顔は少し紅くなっている。 |
P | 「よし、行くぞ春香」 |
二人はクリスマスの景色を横目に事務所への道を急いだ。 |
……… |
再び街へと出てきた二人。 |
P | 「本当は昨日の方が良かったんだろうけどな」 |
春香 | 「昨日は雪歩の誕生日なんですから、しょうがないじゃないですか」 |
P | 「まあ雪歩にも悪いと思ってるけど…」 |
春香 | 「確かに…クリスマスのお祝いと誕生日のお祝いがいっぺんでしたからね」 |
P | 「他のみんなは別々だけど、一人だけ一緒だもんな」 |
春香 | 「でもプロデューサーさん、あの後何か渡してましたよね?」 |
P | 「さすがにあれだけじゃな…って見てたのか」 |
春香 | 「ちょうどトイレに行こうと思った時に、見てました」 |
P | 「これだけは許してくれよな」 |
春香 | 「今日のこれで帳消しにしてくれるなら、許しちゃいます」 |
P | 「分かってるって。よし、まずはどこに行く?」 |
春香 | 「それならあのアクセサリーショップ入りましょうよ」 |
P | 「了解」 |
春香 | 「あの…プロデューサーさん」 |
P | 「ん?どうした春香」 |
春香 | 「また手、繋いでください」 |
P | 「さっきからだけど、そんなくらいでいいのか?」 |
ぎゅっ |
有無を言わさず春香と自分の腕を絡めるプロデューサー |
P | 「こっちの方がいいだろ?」 |
春香 | 「え?あ、はいっ!」 |
いきなりのことに少し茫然としていた春香。 |
P | 「寒いから早く行って入ろうか」 |
春香 | 「そうですね、行きましょう」 |
……… |
P | 「俺としては、春香にその色はどうかと思うぞ」 |
春香 | 「そうですか?ちょっと大人っぽさを狙ってみたんですけどぉ」 |
P | 「それならこっちの色の方がいいんじゃないか?」 |
春香 | 「うーん、でもこの色は近い物があるんです」 |
P | 「そうか…だったらいっそのことこの柄はどうだ?」 |
春香 | 「ちょっと待って下さい…」 |
シュシュシュシュシュ |
試しに右のリボンをプロデューサーの選んだ柄に変えてみる春香。 |
春香 | 「どうです?」 |
P | 「俺は良いと思うけど、鏡見てみたら?」 |
春香 | 「…これってちょっと大人過ぎません?」 |
P | 「いや、今の春香なら大丈夫じゃないかと思うよ」 |
春香 | 「そこまで言ってくれるならこれにしちゃいますね」 |
P | 「どうせだったらここで着けてくか?」 |
春香 | 「そうですね。折角ですしそれもいいですね」 |
P | 「じゃあレジはさすがに恥ずかしいから、はいこれ」 |
春香 | 「え?私のなのに悪いですよ」 |
P | 「いいんだよ。今日はお姫様を満足させてあげないとだろ?」 |
春香 | 「お姫様だなんてそんな…」 |
少し頬を染めた春香。 |
P | 「ほら、行ってこいよ」 |
春香 | 「わ、は、はい。ちょっと行ってきますから待ってて下さい」 |
P | 「先に外出てるからな」 |
春香 | 「分かりましたー」 |
……… |
春香 | 「お待たせしました、プロデューサーさん」 |
P | 「お、ちゃんと着けてきたんだな」 |
春香 | 「はい、せっかくですから」 |
P | 「うん、似合ってるぞ。さっきの色より落ち着いていて、少し大人っぽい感じが出てるな」 |
春香 | 「そうですか?ありがとうございます」 |
春香の顔は、それはもう満面の笑みで包まれている。 |
P | 「でもどうしてリボンなんだ?」 |
春香 | 「え?」 |
P | 「髪に付けるのだったら他にもあるんじゃないか?」 |
春香 | 「んー、でも前から着けてましたから。何かこのスタイルが自然になっちゃって」 |
P | 「確かに春香のトレードマークでもあるからな」 |
春香 | 「そうですよね。私、これ以外で個性なんか無いですし…」 |
P | 「そんなことないじゃないか」 |
春香 | 「事務所の他のみんなに比べたら、私なんて…普通すぎますよぉ…」 |
P | 「それでいいんじゃないか?」 |
春香 | 「えっ?」 |
P | 「春香には等身大の女の子でいて欲しいんだ」 |
春香 | 「等身大…ですか?」 |
P | 「ああ。普通の何でもない女の子がある日突然アイドルになったとしたら、春香はまさにその通りじゃないか」 |
春香 | 「プロデューサーさんまで普通って言ってるしい…」 |
P | 「いやいや。世の女の子たちに夢を持たせてくれるのが春香なんだぞ」 |
春香 | 「そう…なんですか?」 |
P | 「自分でもこうなれるのかな?って自信に繋がるんだ」 |
春香 | 「それって…私にメリットあります?」 |
P | 「いや、でもな…」 |
ぎゅうっ |
春香の身体を引き寄せるプロデューサー。 |
P | 「俺にはそういう女の子が良かったみたいだ」 |
春香 | 「プロデューサーさん…」 |
P | 「だから普通とかそういうことは関係ないんだよ、少なくとも俺にとってはな」 |
春香 | 「ありがとうございます…そう言われるだけで嬉しいです…」 |
……… |
時は移りて昼食… |
P | 「今日は何でも好きな物でいいぞ、但しカロリー調整は忘れずにな」 |
春香 | 「う…そうですよね」 |
P | 「それに今日の夜はケーキもあるんだろ?」 |
春香 | 「あ…そうでしたね。じゃあ…」 |
|
春香・P | 「「いただきます」」 |
二人仲好くの号令。 |
春香 | 「…………美味しい〜っ、これはレベルが違いますね」 |
P | 「そうだな。これだけのランクとなるとさすがだな」 |
春香 | 「予約までしないとですから…高いんですよね?やっぱり」 |
P | 「他ならぬ春香のためじゃないか。それくらいは何とかしたさ」 |
春香 | 「本当にありがとうございます」 |
P | 「なあ春香、それ一口くれないか?」 |
春香 | 「これですか?いいですよ」 |
P | 「ありがとう春香。そっちも実は食べてみたかったんだよ」 |
そこで春香は… |
春香 | 「はいプロデューサーさん、アーン」 |
P | 「えっ!?」 |
春香 | 「プロデューサーさん、いらないんですか?」 |
P | 「いや、だからってそれは…」 |
春香 | 「むー…折角こういう機会なんですから、いいじゃないですか」 |
P | 「…まあ、そうか。じゃあ貰うぞ」 |
春香 | 「どうぞ、アーン」 |
パクっ |
P | 「こういう味付けか。組み合わせは不思議だけど美味しいな」 |
春香 | 「ですよねー。プロデューサーさんもそっち食べさせてください」 |
P | 「ああ、いいぞ。じゃあこっちも、アーン」 |
パクリっ |
春香 | 「これ、ちょっとだけアルコールが残って大人の味って感じですね。でも美味しいです」 |
P | 「でもこれがいいんじゃないか。帰るくらいまでにはアルコールも消えるだろうけどな」 |
春香 | 「だけど家だとこの味がなかなか出せないんです」 |
P | 「そこはプロとの違いだろうな。でも、春香の作るお菓子は美味しいじゃないか」 |
春香 | 「ありがとうございます、そう言ってもらえるとどんどん腕が上がっちゃいます」 |
P | 「また今度、何か作ってきてくれよ」 |
春香 | 「はい、今度は正月明けかそれとも…バレンタインにしますね」 |
……… |
さて、昼食も食べ終えてここは男性物の雑貨屋。 |
P | 「え?俺に?」 |
春香 | 「だってプロデューサーさんから貰ってばっかりじゃ悪いですよぉ」 |
P | 「そんなこと、今日は春香のための日なんだぞ」 |
春香 | 「でもでも、これだと私の気が済まないです」 |
P | 「そうか?」 |
春香 | 「だから…クリスマスですから何かプロデューサーさんにもって」 |
P | 「じゃあどれが似合うか選んでくれよ」 |
春香 | 「分かってますよ。あ、だけどそれなら…」 |
P | 「それなら?」 |
春香 | 「私のプロデュースの時にはそれを持ってきてください」 |
P | 「…いいぞ。大事なプレゼントだから、それくらいどうってことないし」 |
春香 | 「じゃあ、うーん…でもプロデューサーさんって、どの色でも割と似合っちゃうからなあ」 |
P | 「そうか?じゃあ春香の好きな色にしたらどうだ?」 |
春香 | 「そうですね、だったらやっぱり赤ですよ赤!」 |
P | 「だよな。やっぱりそれが春香らしいや」 |
春香 | 「あとは模様だけど…赤も色々あるんですね」 |
P | 「まあ1種類だけじゃつまらないだろうしさ」 |
春香 | 「プロデューサーさんはどんなのが好きですか?」 |
P | 「特に好みは無いけど、使い勝手がいいやつじゃないと困る」 |
春香 | 「それならプロデューサーさん、ちょっと手を出して下さい」 |
P | 「ん?いいけど」 |
春香に手を差し出すプロデューサー。 |
春香 | 「これくらいですね、分かりました。それならこれくらいがちょうどいいかな?」 |
P | 「手の大きさだけで分かるものなのか?」 |
春香 | 「そうですよ。じゃあ、ちょっと買ってきますから待ってて下さいね」 |
P | 「どこで待ってればいい?」 |
春香 | 「それなら入口のところでお願いします…」 |
……… |
春香 | 「今日はプロデューサーさんの家に泊まっていいんですよね?」 |
ここはプロデューサーの車の中。 |
P | 「春香の方の都合はどうなんだ?」 |
春香 | 「大丈夫です。お母さんには小鳥さんの家に泊まるって言ってきましたから」 |
P | 「それはさすがに…もしバレたらまずいだろ?」 |
春香 | 「大丈夫ですよ。きちんと口裏も合わせてきましたから。ケーキ半ホールで頼んじゃいました」 |
P | 「…そこまでしたならいいけどさ。ん?半ホール?」 |
春香 | 「残り半ホールは律子さんですよ。もし事務所に電話が来た時に困りますし」 |
P | 「なるほどな…」 |
春香 | 「でも行くのっていつ以来でしたっけ?」 |
P | 「夏の夕立の時以来だろ?あの時は事務所じゃなく俺のとこに避難したから」 |
春香 | 「そうでしたね。あの時着たプロデューサーさんのワイシャツの薫り…」 |
P | 「ああ、あの格好は可愛かったな。女の子がそういう格好なのって、やっぱり男としてはだな…」 |
春香 | 「プロデューサーさんのエッチ…」 |
P | 「いや、男としては当然だぞ。一度は女の子に自分のブカブカのを着せてみたいってだな」 |
春香 | 「あの…そんなに力説されても困りますよぉ…」 |
P | 「そんなこと言って、春香も良かったんだろ?」 |
春香 | 「…うう、そうですけど」 |
P | 「だったらここはおあいこってことでな」 |
春香 | 「何だか違う気がするけど…それもそうですね」 |
P | 「でもこういう関係になってからは初めてってことだな」 |
春香 | 「私の家が遠くてなかなか時間が取れませんでしたからね」 |
P | 「ま、家に帰ったらゆっくりしような。料理は温めるだけにしてあるしさ」 |
春香 | 「はい!」 |
春香の顔は満面の笑みへと変わっていた。 |
……… |
そしてプロデューサーの住むマンション…残すはケーキだけ… |
春香 | 「プロデューサーさん、ナイフはどこですか?」 |
P | 「そこの流し台右下の引き出しに入ってるはず」 |
春香 | 「あ、ありました。持って行きますね」 |
台所からリビングへやってきた春香の右手にはケーキを切るナイフが握られている |
春香 | 「プロデューサーさん、隣に入れて欲しいですけど…ダメですか?」 |
P | 「いいけど、それ持って言わないでくれ…」 |
春香 | 「いいんですね、じゃあ…」 |
春香はプロデューサーに寄り添うように炬燵へと入った。 |
春香 | 「切りますね、どれくらい食べます?」 |
P | 「そうだな…春香が好きなだけ取っていってくれ。残りを貰うから」 |
春香 | 「分かりました、では…」 |
見た目3人前といったサイズのケーキにナイフが入る。 |
春香 | 「半分こでいいですか?」 |
P | 「うん。皿はこれ使って」 |
春香 | 「はーい」 |
二つの皿に二つのケーキが載せられた。そして… |
コポポポポ コポポポポ |
プロデューサーがカップへと紅茶を注ぐ。さらに… |
つつつ つつつ |
少しだけブランデーも注ぎ入れた。 |
P | 「こういう日だからちょっとだけな」 |
春香 | 「いいんですか?」 |
P | 「家の中だから治外法権だ…本当はダメだけどな」 |
春香 | 「このことは誰にも秘密にしますね…」 |
チュッ |
春香はプロデューサーの頬にそっと口付けた。 |
P | 「ああ、約束な」 |
チュッ |
プロデューサーもお返しとばかりに春香の頬に口付けた。 |
P | 「じゃ、食べようか。春香のケーキと…春香を」 |
春香 | 「食べてください、私のケーキと…私のこと…」 |
二人の夜は、まだまだ終わりそうにない… |