とある日の765プロ… |
伊織 | 「こら亜美っ!出てきなさいっ!」 |
765プロの真っ暗なレッスン室へと伊織の叫び声が響く。 |
伊織 | 「おかしいわ…この部屋に逃げ込んでいるはずよね…」 |
キョロキョロと見回すが、気配が見当たらない。 |
伊織 | 「ま、いいわ。せっかくあのお菓子を食べさせてあげようと思ってたのに、残念ねえ…」 |
亜美 | 「わー、いおりん!ここ!亜美はここにいるよん」 |
ドアの陰から亜美が姿を現した。 |
伊織 | 「まったく…本当にお菓子って言葉にはすぐ反応するんだから」 |
亜美 | 「うー…だって食べたいもん」 |
伊織 | 「まあいいわ…お菓子は持ってきたからあげるわよ。でも、まずはねえ…」 |
亜美 | 「どしたの?」 |
伊織 | 「どうしたのじゃないわよ、私の化粧ポーチ勝手にいたずらして!」 |
亜美 | 「あ、そっか…いおりん、ごめんなさーい」 |
伊織 | 「へえ、やけに素直じゃない」 |
亜美 | 「それじゃあいおりん、お菓子お菓子ー!」 |
伊織 | 「はあ…結局そういうことね…」 |
亜美 | 「だって、食べたかったんだもん」 |
伊織 | 「分かったわよ、あっちに置いてあるから付いてきなさい」 |
……… |
事務所のテーブルにて、美味しそうにシュークリームを食べる亜美。 |
亜美 | 「美味しー、これ美味しいよいおりん」 |
伊織 | 「当たり前でしょ。私が選んだんだから不味いとかあるわけないじゃない」 |
亜美 | 「これどこで買ったの?」 |
伊織 | 「○○の□□□□□だけど?」 |
亜美 | 「あのすんごく高い店の!?へー、こんなに美味しかったんだー」 |
伊織 | 「昨日行ったついでよ、ついで。でもそこまで喜んでくれるなら嬉しいわね」 |
亜美 | 「この皮の厚みが絶妙だね、クリームも甘すぎなくてちょうどいいし」 |
伊織 | 「ほら、クリーム付いてるわよ」 |
亜美 | 「え?どこどこ?」 |
ツツツ パクっ |
伊織は亜美の頬に付いていたクリームを指で拭って、そのまま口へと入れた。 |
亜美 | 「い、いおりんっ!?」 |
伊織 | 「何よ亜美」 |
亜美 | 「だっていきなりそんなことされたら、ビックリするに決まってるじゃん」 |
伊織 | 「あら、でも美味しそうだったからいいじゃない」 |
亜美 | 「美味しそうって…亜美が?」 |
少し顔を紅くした亜美。 |
伊織 | 「クリームに決まってるじゃないの、まあでもちょっとアンタの味も入ってたわね」 |
亜美 | 「亜美…の?」 |
伊織 | 「甘さだけじゃなかったわね。そういえば逃げ回ってた間の汗かしら」 |
亜美 | 「そうかも。ちょっと汗かいちゃってたもんね」 |
伊織 | 「べ、別にアンタのこと嫌いとかじゃないからいいわよ」 |
亜美 | 「あー、いおりん紅くなってる」 |
伊織 | 「そ、そんなことないから!」 |
亜美 | 「分かってる分かってるよ」 |
伊織 | 「もう…」 |
亜美 | 「でもこんなに美味しいの、亜美だけじゃ勿体ないなー」 |
伊織 | 「そういえば…真美はどうしたのよ?」 |
亜美 | 「今日は兄ちゃんと一緒だよ」 |
伊織 | 「で、アンタは一緒じゃなくていいの?」 |
亜美 | 「んー。2人で行けないような場所なんだってー、だから亜美は居残りだよ」 |
伊織 | 「そうなの…まあ、全員の分はあるから帰ってきたら食べてもらえばいいわね」 |
亜美 | 「あれ?そーいえばいおりんは食べないの?」 |
伊織 | 「私はいいのよ。昨日そこでケーキを買って食べたもの」 |
亜美 | 「本当は食べたいんじゃないの?」 |
伊織 | 「…いいわよ、食べたくないから」 |
亜美 | 「だって顔に書いてあるよ。『それも美味しそうだわ』って」 |
伊織 | 「アンタってそういう洞察力は鋭いわよね…」 |
亜美 | 「はい、いおりん」 |
そう言いながら亜美は伊織へと食べかけの半分を差し出した。 |
伊織 | 「い、要らないわよ」 |
亜美 | 「本当は食べたいくせにー」 |
伊織 | 「…本当にいいのね?」 |
亜美 | 「いいに決まってんじゃん。なかなか無いよー、亜美のこういうとこが見れんの」 |
伊織 | 「それなら貰っておくわ」 |
伊織はそのシュークリームをようやく受け取った。 |
亜美 | 「ほら、食べて食べてー」 |
伊織 | 「はいはい…」 |
それを口へと運ぶ伊織。 |
伊織 | 「ん、美味しい…って、私が買ってきたんだから当然じゃないの」 |
亜美 | 「あ、そうだったよねー」 |
伊織 | 「でもこのクリームの味に皮が負けてないから美味しいのよね」 |
亜美 | 「うん、分かる分かる」 |
伊織 | 「ふう…美味しかったわ、ごちそうさま」 |
亜美 | 「あ…いおりん、クリーム付いてるよ」 |
伊織 | 「え?どこかしら?」 |
ツツツ パクっ |
亜美もさっきの伊織と同じようにクリームを指で拭って、そのまま口へと入れた。 |
伊織 | 「亜美っ!?」 |
亜美 | 「へへーん、さっきのお返しだよん」 |
伊織 | 「ま、確かにさっき私もやったわね…」 |
亜美 | 「いおりんのクリーム美味しかったー」 |
伊織 | 「そ、そんな味わうものじゃないでしょ」 |
亜美 | 「でも、これでおあいこだね」 |
伊織 | 「そうね…はあ、アンタの相手してると疲れるわ…」 |
亜美 | 「そうなの?亜美は楽しいけどね」 |
伊織 | 「そりゃアンタはいいわよ。こっちは化粧ポーチいたずらされるわ、逃げ回るわで疲れるわよ」 |
亜美 | 「だって、暇だったんだもん。みんな忙しそうだったし、真美は帰ってこないし」 |
伊織 | 「だからって何で私が相手しなくちゃなのよ」 |
亜美 | 「でもさ、そう言っても相手してくれるいおりんって優しいんだね」 |
伊織 | 「そんなことないわ。私も暇してたからちょうどいい暇潰しだったのよ」 |
亜美 | 「ふーん、亜美って暇潰しにされてたんだ」 |
伊織 | 「そうよ。でもまあ持ってきたお菓子の感想も聞きたかったから良かったわ」 |
亜美 | 「そっかあ。でも今日はありがとね」 |
伊織 | 「どういたしまして。ほら、お皿とか片付けるからよこしなさい」 |
亜美 | 「あー、まだクリームとか残ってんのに」 |
伊織 | 「そんな意地汚い食べ方止めなさい、アンタもアイドルでしょ?」 |
亜美 | 「むー…じゃあ我慢する」 |
伊織は亜美のそんな表情に少しだけ頬笑みを見せていた… |