この作品はこちらと併せてお読みいただくと良いかもしれません。 |
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事務所の一大イベントにもなっている総選挙も終わった土曜日のこと… |
裕美 | 「……うん、急にゴメンね。夕食?夕食は…どうかな?泰葉さん」 |
泰葉 | 「戻れそうな時間に帰ってこれればいいけどね」 |
裕美 | 「もしもし。分からないけど、無理な方が大きいかも。うん、分かったよ…じゃあまた夜ね」 |
寮の玄関で裕美は電話を切った。相手は一緒に昼食を摂る予定だった人のようだ。 |
泰葉 | 「じゃあ千鶴ちゃんのオッケーも出たから行こっか」 |
裕美 | 「でも…いいのかな?」 |
泰葉 | 「いいの…そうだ、聞いてないかな」 |
裕美 | 「聞いてるって…何のこと?」 |
泰葉 | 「あのね、5月に寮の更新あるでしょ」 |
裕美 | 「あ…もう出さないとだね」 |
泰葉 | 「それで部屋変更希望する人に千鶴ちゃんも入ってるんだって」 |
裕美 | 「えっ、千鶴ちゃん違う階になっちゃうのかな?同じ階だったのに…」 |
泰葉 | 「前々から噂になってた…ほら、裕美ちゃん達の館の1階に…」 |
裕美 | 「1階………あっ……」 |
泰葉 | 「だからできれば1階に行きたいって、前にちょっと聞いたの」 |
裕美 | 「そうなんだ…」 |
泰葉 | 「裕美ちゃんって今は誰と?」 |
裕美 | 「今は愛梨さんだよ。バニーガールのグラビアの時にお世話になって、それからずっと…」 |
泰葉 | 「そっか…」 |
駅へと歩く道中で何やら画策し始めた泰葉。 |
裕美 | 「泰葉さん?」 |
泰葉 | 「あっ、うん。何でもないよ、それじゃあどこから行く?」 |
裕美 | 「手芸店からでいいかな?そろそろビーズとかも買い足さないとだから」 |
泰葉 | 「今日は時間が許す限り、裕美ちゃんが行きたいところに付いていくからね」 |
裕美 | 「さっきから何だか泰葉さんに悪い気がして…」 |
泰葉 | 「これはお祝いなんだから、裕美ちゃんは気にしないでいいの」 |
裕美 | 「…はい…」 |
泰葉 | 「これからこうやって一緒に出かけられる機会も減っちゃうかもしれないんだから」 |
裕美 | 「………」 |
泰葉 | 「こういう時はお姉さんに従って…欲しいな」 |
裕美 | 「泰葉さん…そこまで言ってくれるなら…うん」 |
泰葉 | 「実はね、みんなも裕美ちゃんのことをお祝いしたい気持ちはあったんだけど…」 |
裕美 | 「えっ…そうだったの?」 |
泰葉 | 「三人で話して今日のところはGBNSで一番年上の私がってことにしたの」 |
裕美 | 「私はみんな一緒でも良かったけど…」 |
泰葉 | 「これからのこともあるし、お祝いは四人で揃ってしたいから」 |
裕美 | 「じゃあ今日はダメだったってこと?」 |
泰葉 | 「今日はほたるちゃんが茄子さんと外せないお仕事があって」 |
裕美 | 「そっか…」 |
泰葉 | 「だから今日は裕美ちゃんを私が独り占め」 |
裕美 | 「フフッ、泰葉さんに独り占めされちゃうね」 |
……… |
手芸店にて… |
裕美 | 「んー…どっちにしようかな…」 |
泰葉 | 「今作っているアクセサリーの?」 |
裕美 | 「いえ、雫さんから頼まれた方を仕上げたくて」 |
泰葉 | 「今度の新曲用?」 |
裕美 | 「そうみたい。3人分頼まれたから…それにちょっと予想より多くなって」 |
泰葉 | 「…あー、そういうこと」 |
裕美 | 「後で石の店にも寄っていい?」 |
泰葉 | 「大丈夫だよ。今日は一日ちゃんと空けてあるから」 |
裕美 | 「私のために…嬉しい…」 |
泰葉 | 「でも寄る前にお昼ご飯だからね」 |
裕美 | 「はい…」 |
泰葉 | 「あ、そうだ。私もドール用の衣装を裕美ちゃんに作ってもらおうかな」 |
裕美 | 「アクセサリーは作れるけど、服って私が作れるかなあ…?」 |
泰葉 | 「手先が器用だから裕美ちゃんなら大丈夫だと思うよ」 |
裕美 | 「うん…あ、それなら…でもどうしよう」 |
泰葉 | 「ん?」 |
裕美 | 「だって寮で同じ館だと、その千鶴ちゃんの…」 |
泰葉 | 「あっ…それなら余計に聞きやすいんじゃないかな。一緒に行けばどう?」 |
裕美 | 「そっか…今度千鶴ちゃんにも相談してみよう」 |
泰葉 | 「でも私が無理言って頼んでるだけだから、無理しなくてもいいよ」 |
裕美 | 「そんな…泰葉さんのためなら喜んで作るね」 |
泰葉 | 「フフフ、嬉しいな。今度生地を買ったらお願いするよ」 |
裕美 | 「はい……」 |
……… |
その帰り道… |
泰葉 | 「私…決めた」 |
裕美 | 「えっ、決めたって…」 |
泰葉 | 「寮の部屋の変更希望をすることにしたの」 |
裕美 | 「それってどういう…」 |
泰葉 | 「裕美ちゃんの指導担当寮生になってもいいから、一緒の部屋で住みたいなって」 |
裕美 | 「泰葉さん…急にどうして…」 |
泰葉 | 「もっと裕美ちゃんと一緒にいる時間を長くしたいから…じゃダメかな」 |
裕美 | 「私もそうなったら良いなって思ったけれど、それってでも…愛梨さんが許してくれないと…」 |
泰葉 | 「それだけど…出かける時に言ったよね。千鶴ちゃんが1階に移りたいって」 |
その決意の裏に秘められた計算に裕美はハッとした。 |
泰葉 | 「同じ階で1人部屋の空きができそうだから…それなら移ってもらえないかなって思ったの」 |
裕美 | 「でも泰葉さんが動くと他の人も動かないとだよね?」 |
泰葉 | 「それは…寮に戻ったらちょっと考えてみる。私の今の階に強力な味方がいるからね」 |
裕美 | 「泰葉さんの階…泉さんとマキノさん?」 |
泰葉 | 「うん。その結果次第で相談しに行こうかなって」 |
裕美 | 「その時は私も呼んでほしいな」 |
泰葉 | 「…いいの?」 |
裕美 | 「泰葉さんのためだけじゃなくて、私のためでもあるから…」 |
泰葉 | 「ありがとう」 |
裕美 | 「………」 |
泰葉 | 「どうしたの?裕美ちゃん」 |
裕美 | 「…泰葉さん…」 |
泰葉 | 「はい」 |
裕美 | 「こんなにお祝いしてもらったのに、さらに貰ってもいいのかな」 |
泰葉 | 「嬉しいと思うことはどれだけ貰ってもいいんだよ」 |
裕美 | 「泰葉さん…分かりました。私もそれとなく愛梨さんに言ってみるね」 |
泰葉 | 「一緒に住めるようになったら…いいな」 |
裕美 | 「なったら…じゃなくて、なるって決意しておきたいな」 |
泰葉 | 「…うん。だからまずは行動を起こさないと」 |
裕美 | 「はいっ…!」 |
その後これが7人が関わる大変更となること、この時の二人はまだ知る由もなかったという… |