Thousand Relation(千の繋がり)

ここはとある旅館の前…
「兄くん…なぜ私をこのような場所に連れてきたんだい?」
「千影は毎日毎日閉じこもりだからさ」
「私はそれを好きでやっているのだが…」
「そんなんじゃダメだって、まったくもう」
「兄くんがそこまで言うなら…しかし兄くんも…ミーハーだな」
「え?」
「それを見れば分かるさ」
千影が指した方の先には…
『如月千早ディナーショー』
そんなポスターがあった。
「あれを見に来たのだろう?」
「…バレてたんだな。そうさ、さすがにこんな所だとは思ってもなかったけど」
「まあ仕方ないな…」
「くれぐれも他の子には内緒にしておいてな」
「…ダメだな、もう何人かにはバレているようだ」
「…ったく、鈴凛か四葉か分からないけど…」
「ああ、なかなか兄くんのカンも鋭いな。まったくその通りだ」
「やっぱりか。まあ気にしててもしょうがないし、入るぞ千影」
「うん…」
千影とその兄は旅館へと入っていった。
 
ここは如月千早の控室となっている部屋。
「如月さん、会場に何か問題は無かったでしょうか?」
「特に問題はありません。今回は本当に私みたいな者を呼んでいただきましてありがとうございます」
「そんなご謙遜されなくても…」
「でも本当にここは、海縁で良い場所ですね」
「そうですか…フフフ、そう言っていただけると嬉しいです」
「しかしこの大きな旅館の会長が、女性だとは思いませんでした」
「私は叔父の事業を引き継いだだけですから、私の力によるものではありません」
「そんなことないって、謙遜するなよ千鶴さん」
「耕一さん…」
「千早、声の調子とかは大丈夫か?」
「はい。プロデューサー、衣装の準備は大丈夫ですよね?」
「そのへんは問題ないぞ。今日は一人舞台だからな、いつも以上にしっかりな」
「はい…」
「会長さん、今日はうちの如月をよろしくお願いします」
「はい、こちらとしてもきちんと成功に導きたいと思っています」
「如月さんのプロデューサーさん、照明や音響関係で何かあったら俺にお願いします」
「分かりました…あ、ちょっといいですか?えっと…」
「耕一です、柏木耕一」
「柏木…と言うことは、もしかして会長さんのご親類の方ですか?」
「ああ、千鶴さんの従兄弟だから同じ苗字なんです」
「なるほど、そういうことですか…よろしくお願いします、耕一さん」
「うん、それで何か言いたそうでしたけど…」
「あ、第2幕の照明のことで…」
「………」
プロデューサーと耕一の間で何やら始まったようだ。
「如月…千早さんでよろしかったわね?」
「はい」
「千早さんって呼んでもいいかしら?」
「はい。そちらの方が呼ばれ慣れてますから柏木さん」
「それなら私のことは千鶴って呼んで。混乱しちゃうのもアレでしょ?」
「…良いのですか?」
「私が言ってるのだから良いの」
「それならば…千鶴さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。そうね…ショーが終わったら一緒に温泉に浸かりましょ。今日は泊まっていかれるんですよね?」
「はい、宿泊まで用意して戴けたので、そのご厚意に甘えさせて戴きました」
「それなら、後で時間は合わせますから…ね」
「はい…楽しみにしておきます」
 
そしてショーが始まり…
「やっぱり…綺麗だな、千早ちゃん」
すっかり目は千早の方を向いている。
「しかし兄くんがこんな趣味だったなんて…」
「いいじゃないか、少しくらいこういう趣味があったって」
「否定はしないさ…この人の曲は聴いていて落ち着く」
「確かに、この事務所の子では一番そういうタイプだな」
「兄くんが好きになるのも、分からなくはない」
「でもな…それでも俺は千影の方がもっと好きだからな」
「なっ…」
顔が少し紅くなる千影。
「こんなところで言うことでもないだろう、兄くん」
「だって拗ねそうだったじゃないか」
「でも…ありがとう」
 
ここはショー終了後の婦人専用大浴場…
チャポンっ ジャプンっ
風呂の一つへと入っていく女性が二人。一人、先客がいるようだ。
「ふう…」
「はあ…」
「あらためて、おつかれさま千早さん」
「こちらこそ、ありがとうございました千鶴さん」
「こういう場所で歌うのはどうでしたか?」
「はい。普段だとライブ会場ですし、それこそダンスで表現する部分も大きいので、でもいい勉強になりました」
「とても綺麗な歌声でした。お客様にも好評で、呼んだ甲斐がありました」
ふと千早が周囲を見回してみると…
「あら?あそこの人、確かショーの会場に居た…」
そんな千影も二人の姿に気が付いたようだ。
「…あ、ショーで歌ってた…」
「こんばんは、3番目のテーブルに居ましたよね?」
「…はい。でもあんなに人が居たのに…どうして私を憶えて…?」
「それは…こんなに若い女の方は殆ど居ませんでしたから」
「確かに…フフフそうか、そうですね。」
「こんばんは、本日は我が鶴来屋にお泊り戴きまして真にありがとうございます」
「…え、あなたは…?」
「申し遅れました、当ホテルグループの会長の柏木千鶴と申します」
「私は千影…今日は兄に強引に旅行へ駆り出されて…。でも良かったです…ショーも温泉も」
「ありがとうございます、千影さん。そう言われると嬉しいです」
「千早さんの歌声は…ガラスも清流も敵わないほど透き通っていて…兄が好きになるのも分かるな…と」
「お兄さん…千影さんの隣にいた方ですか?」
「…はい」
「やはり…とても仲が良さそうでしたから」
「千影さんはお兄さまとでしたか、本当に今日は様々な客層の方が来られてこちらとしても喜ばしいです」
「そうでしたか…」
「でも私も安心しました。女性が殆ど、ましてや同じような年齢の方などいないかと思ってましたから」
「フフフ…それは良かった…」
幾千の星の下の露天風呂、三人の取り留めもない話は終わりそうにない…
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あとがき
はい、お久しぶりのクロスオーバーSSです。そう言えば、アイマスをここで出すのも初めてですね。
今回はタイトルにもあるように、名前に「千」がある人を集めてみました。
そしてもう一つ、偶然生まれた共通点がひ…(千鶴・千影・千早からタコ殴り)
それにしても千鶴さんがなかなか難しかったですね…初書きでしたし。
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2009・06・28SUN
琴瑞
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