短編連作〜漢字編5−2〜

ある秋の日のこと…
「えっと…何やったっけな…」
「どうしたんだい?ピピ」
「何やろ、何か頭の中に引っかかっとるんやけど」
「この、今作っている料理のこと?」
「せや、何か忘れてるような気がするんやけどなぁ…」
「ま、味は後で足せるしさ。とりあえず火からは離そうよ」
「せやな、足りなかったら後でつければいい話やな」
………
「「いっただっきまーす」」
ぱくっ あむっ
「ピピ、何か分かったよ。さっき足りないって言ってたものがさ」
「ウチもなんとなく分かった気がするんやけど…」
「これ、酢を入れ忘れてない?」
「せやったな。酸味が全然足りてへんな、これ」
「どうする?酸味は付け辛いよ、なかなかさ」
「忘れていたのはしゃーないやん、これで代用やな」
と、出てきたのはポンス醤油。
「うん、しょうがないな。それかけようか」
少し味が変わったとは言え、ピピの料理は美味しかったというのは後日談である…


ある秋の日のこと…
「ご主人さまー、早く早くー」
「ちょ・ちょっと待ってよななー」
夕方の河原を駆けていく二人の姿があった。
「何をそんな急いでるの?なな」
「この時間だけしか見れないものがあるんだよ」
「で、それはいったいどこで見れるんだい?」
「あともう少し、あの高い場所だよ」
………
「ほら、ご主人さま。街の方見てみて」
「うわあ、朝靄か…綺麗だな…」
街は朝靄に包まれ、朝日で反射した光が幻想的な世界を仕立て上げていた。
「だよね、だよねっ。ご主人さまにこれを見せてあげたかったんだよ」
「そっか。でも何でこんなことを知ってるんだい?」
「えっと、この前あゆみお姉ちゃんが言ってたのを聞いてたんだ」
「そういえば、あゆみが朝早く出てた時があったな。なるほどな、これだったんだ」
「でもやっぱり寒いよお、まだこんな時間だもん」
「よし、じゃあ近くのコンビニで温かい物でも買って帰ろうか」
「うんっ!」
晩秋の朝の帰り道、2本の飲み物がとても温かかったという…


ある秋の日のこと…
ガラガラガラ
ふとベランダに出てみると、そこに奏歌の姿があった。
「どうしたんだい?奏歌。ベランダに出てるなんて」
「あ、ご主人さま。何でもないで、何でも」
「そんなことはないだろ、もう一人の奏歌が出てるんだしさ」
「やっぱりバレてたんだ。ご主人さまには隠せないよ、うん」
「だって、いつもより関西弁に何かが足りないしさ。それにいつも見てるからね」
「あ…ありがとう、ご主人さま」
「それにしても、何かあったのかい?」
「ううん、ただ精神的にどこか不安定になってただけみたい…」
「そっか…」
ぎゅっ
私は奏歌を後ろから抱きしめてあげた
「ご・ご主人さまっ!?」
「でもさ、私はどっちの奏歌も奏歌だと思ってるから」
「う…うん。ありがとな、ご主人さま」
「戻ったみたいだね、いつもの奏歌に」
「せやな、落ち着いてきたみたいや」
秋の夜長のゆっくりとした時の流れを私と奏歌は二人で感じていた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
短編連作の第7シーズン、1ヵ月半ぶりの2作目です。
今回は関西弁キャラが2人。こうなるとは思いもよらなかったです。
心に秘められた想いとでも言いましょうか、「心」はやっぱり深いですよ。
次はそろそろオリジナル守護天使紅玲菜BSSかな…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2006・02・23THU
短編小説に戻る