短編連作〜漢字編4−4〜

それはとある夏の夜のこと…
「ご主人さま…ごめん…こんな夜中に…」
「いや、いいんだよ紅玲菜」
空は曇天、灯す明かりが何もない闇のベランダに、私と紅玲菜はいた。
「でも…いいの?明日も…早いんでしょ?」
「いいんだよ、どうせ重要な物でもないしさ。それに…」
「それに…?」
「君たちの悩みを聞いてあげられるのは、私くらいしかいないんだからさ」
「う…うん…」
「それで、何なんだい?悩みってさ」
「うん…ご主人さまって…アタシ達のこと…好き…?」
「えっ?」
「それとも…嫌い…?」
「えっと…」
ぎゅっ
私は答える代わりに紅玲菜を後ろから抱きしめた。
「ご…ご主人さま…」
「好きだよ…うん」
ぽっ
その言葉に紅玲菜も、そして私自身も紅くなってしまったそんな夜であった…


「あれ?らん、何を作ってるんだい?」
「あ、ご主人さま。ちょっとクッキーを焼こうと思いまして」
とある秋の昼下がり、台所にらんとご主人さまの姿があった。
「へえ、クッキーかぁ」
「こうして手作りの方が自分好みにできますから」
「そうだね、じゃあ今量ってるのは小麦粉だね」
「はい。今日のおやつもありますし、ちょっと多めに作らないとです」
「みんな食べ盛りだしね、特にるる達は」
「そうですね、くるみちゃんもですけど」
「アハハっ、そうだったね」
「でもいっぱい食べてくれる人がいると、作りがいもありますから」
「そうなの?」
「はい、食べてくれる人の笑顔を見ると、作って良かったって感じがします」
「そうなんだ…」
「えっと…ご主人さま…」
「ん、何だい?」
「クッキー作り…手伝ってもらえます?」
「え?うん、いいよ。僕もみんなの笑顔が見たいしね」
「ありがとうございます、それじゃあ手を洗ってくださいね」
秋風にたなびく雲の絶え間より見えた太陽が、二人を優しく照らしていた…


それはとある春の日のこと…
「なあ、ご主人さま」
「何だい?ピピ」
「ウチの部屋のドアの動きが悪いんやけど、見てもらえへんか?」
「いいけど、どうしたんだい?」
「何やろか、朝から変な音するようになったんや」
「うん、じゃあちょっと待っててね」
ご主人さまとピピは工具などを持ってピピの部屋まで行った。
………
カチャッ ギギギギギ
「あ、本当だ。どうしたんだろう?」
「うん、ウチも心当たりが無いんやけど…」
「ん?もしかして…」
「何か分かったん?」
キュッキュッキュッキュッ
ご主人さまは蝶番のネジを締め直した。
「これでどうかな?」
カチャッ
「お、直ったみたいやな。ありがとな、ご主人さま」
そのままご主人さまへと抱きついたピピの姿が、そこにはあったという…
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あとがき
短編連作の第5シーズン、4thです〜。
今回のは下に置いた形、「闇」はそうだかが自分でも疑問だったりして…(苦笑)
あと2作、このシリーズで100本越えになる可能性が大ですね。
諦めたら、そこで先へは進めなくなってしまいますし…頑張りたいと思いますです。
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2005・01・28FRI
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