短編連作〜漢字編2−4〜

それはある日の昼間の事…
「ご主人さま、見てなの〜」
「ん、どうし…って…それはどうしたんだい?」
そのくるみが持ってきたお皿の上には…
「くるみが作ったの、一度こんなの食べてみたかったの」
「え゛…そんな大きい卵焼きをかい?」
そう、かなり大きいお皿が小さく見えるほどの卵焼きが乗っていたのだ。
「これって…卵いくつ使ったんだい?」
「えーと、1パックなの」
「10個か…そんなに使っていいのかなぁ…」
「らんちゃんが、今日までに食べないと期限が過ぎちゃうからってくれたの」
「あ、そうなんだ」
「ご主人さま、一緒に食べるの」
「え、いいのかい?」
「うんっ。くるみの料理、食べて欲しいの」
「よし、じゃあ食べようかな」
「あ、ご主人さま。今、箸持ってくるの」
「うん、ありがとう」
………
そんなちょっぴり甘い卵焼きも、くるみにかかれば一溜まりも無かったという…。


ある春の日、ご主人さまとみどりは芝生の上に寝転んでいた。
「んー、面白いれす…」
「ん?何か面白いものでも見つけたのかい?みどり」
「はいれす、今は空の雲さんを見ていたのです」
「雲…かぁ…」
「雲さんは面白いれすよ」
「ん、そうかい?」
「色々な形の雲さんが、空にはいっぱいあるれす」
「そっか…」
「あの雲さんは、何だかたぬきさんに見えるれす」
「あ…本当だね」
「あの雲さんは、きつねさんみたいれす」
「え、どれだい?」
ぽふっ
と、ご主人さまはみどりに寄り添っていった。
「あれれす、ご主人さま」
「あ、あのタヌキの形の隣の雲のことだね」
「何だかみどりさんとあかねさんみたいに、寄り添っているれすね」
「うん、本当だね」
ご主人さまとみどりは一緒に空を見上げながら、ゆっくりとした時の流れを過ごしていた…。


それは冬の朝も6時半のこと…
「ご主人さま〜、お散歩行こっ!」
「えー、こんなに寒いのにかい?」
「うんっ、だってこの時間じゃなくちゃダメなんだよっ」
「んー…うん、分かったよ。ちょっと待ってて」
「やったあっ!」
ご主人さまは出かける準備を始めた。
………
「「行ってきま〜す」」
がちゃんっ
二人はみんなを起こさないように小声で言って、家を出た。
「うわ…まだ暗いね」
「うん、でももうそろそろ明るくなるよっ」
「そっか、そろそろ日の出の時間か…」
「うんっ、もうすぐ昇ってくるよ」
「あ、東の空から昇ってきたみたいだね」
「本当だぁ…」
「綺麗だね、なな」
「うんっ」
二人の顔は、冬の朝焼けと寒さに仄かに紅く染まっていたという…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
短編連作、第2シーズンラストです。
もう、言わなくても分かってると思いますが、今回の連作テーマは上越新幹線駅名の頭文字です。
新潟−燕三条−長岡−浦佐−越後湯沢−上毛高原−高崎−本庄早稲田−熊谷−大宮−上野−東京
本庄早稲田駅が開業しなかったら、こんなSS書かなかっただろうなぁ…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2004・05・30SUN
短編小説に戻る