短編連作〜漢字編2−1〜
新
それは春のある日の夕方の事…
「あれ?それは新しいエプロンかい?」
「はい、前のエプロンが穴が空いてダメになってしまいましたので」
「そのエプロン、可愛いね」
「そ…そうですか?」
らんは少し顔を紅くした。
「うん」
「でもこれは、安物なんですけど…」
「安物か安物じゃないかなんて関係ないさ」
「えっ…!?」
「安くたって高くたって、着る人が着ればどんなのでも可愛いんだからさ」
「えっと…それって…」
「可愛いよ、らん」
チュッ
ご主人さまはらんの頬へとキスをした。
「さてと、じゃあ僕も夕食手伝うよ」
「え…いいんですか?」
「うん、いいよ」
「あ、じゃあまず手を洗ってくださいね」
二人は仲良く台所に並んで料理をし始めた…。
ひゅうんっ
「あっ…」
「燕だね、つばさ」
「うんっ」
「こんなところで珍しいね」
「んー、ほんとだね」
「どこに巣を作ってるんだろうね?」
「さあ、どうだろうね?近くだろうけどね」
「うん」
と、ここでご主人さまが立ち止まった。
「ん?ちょっと待って。今の燕、けっこう低く飛んでたよね?」
「うん、ご主人さま」
「もしかして…」
ポツンっポツンっ
「やっぱり…っ」
ザーーー
「あ・雨だよっ、ご主人さまっ」
「うん。急ぐよっ、つばさ」
「うんっ」
突然の夏の夕立の中、急いで家へと戻るご主人さまとつばさであった…
「遅いです…ご主人さま…」
立夏も過ぎた玄関に一人の少女、ゆきである。
「こんな夜明け前に…いったい何なのでしょう…?」
この日、ご主人さまは徹夜をして起きていた。そこに偶然起きていたゆきがいて、今に至ったわけである。
「ごめん、ゆきさん。待った?」
「…はい…」
「じゃあ、行こうか」
「え…どちらにです?」
「ついて来れば分かるよ」
ゆきはご主人さまに連れられ、まだ真っ暗な道を歩き出した。
………
長く歩いて、少し小高い丘へと着いた二人。
「んーと、そろそろかな」
「え…何がです?」
「ほら…西の方の空…」
「え…あ…月が…」
西の空に浮かんでいた月が徐々に欠けていく…皆既月食である。
「何だか…神秘的です…」
「うん…そうだね…」
そんな天体のショーに酔いしれていた二人であった…。
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あとがき
短編連作、第2シーズンです。
今回は12人による、12個の漢字でいきます。
つまりあと9個…んー、いけるかな?
勘の良い方は残りの漢字が何かは分かったと思います。だから重複漢字が一個有るんですよ。
あ、皆既月食については
私のブログを参照のことです。
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2004・04・29THU
雅