Skyglow (夜空の輝き)

それは真夏のとある夕方…
「ただいまー…って、二人ともその浴衣はどうしたんだい?」
ご主人さまはあかねとみどりの姿を見てびっくりした。出迎えた二人が浴衣姿なのだから…。
「これはれすね、ゆき姉さんたちが作ってくれたのれす」
「今日…花火大会だから…」
「そっか、今日は祭の花火の日だったっけか」
みどりは緑色の、あかねは茜色の浴衣に包まれていた。
「もしかして、みんなは先に行っちゃったのかな?」
「うん…るる達がせがんでたから…私たちだけ残って…ご主人さまを待ってたんだ…」
「あ、ご主人さま。早くお風呂に入って来るれすよ」
「え、どうしてだい?」
「ご主人さまの浴衣もあるのれす、ご主人さまも一緒に行くれすよ」
「うん…お風呂を上がるまでに…用意しておくから…」
「それなら、お願いね」
「はいれす」
 
風呂を上がって…
「これか…僕の浴衣って」
その浴衣は濃紺に染められていた物であった。
スススススス キュキュキュッ
その浴衣を着るご主人さま、するとそこへ…
カチャッ
「ご主人さま、まだれすか?」
「どうだい…?ご主人さま…」
二人の天使がドアから顔だけ入れてご主人さまの姿を見た。
「うわぁ、似合ってるれすよ」
「そうかい?」
「うん…とっても…」
「ありがとう、二人とも。髪を乾かしたらそっちに行くね」
「うん…」
 
ご主人さまの準備も整い…
「二人ともいいかい?」
「はいれす」 「うん…」
「じゃあ行こうか」
「「うんっ!」」
「あ、でもその前に…」
「ふえ?何れすか?」
シューーーーー シューーーーーー シューーーーーーーー
ご主人さまはみどりとあかねと自身に虫除けスプレーを掛けた。
「あ…ありがとう…ご主人さま…」
「ありがとうれす、ご主人さま」
「どういたしまして、今度こそ出発しよっか」
「そうだね…」
カチャッ ばたんっ ガチャンっ
家のドアの鍵が下ろされた。
「じゃあ行くよ、二人とも」
「あ、ご主人さまぁ」
「ん、何だい?みどり」
「手、つないで欲しいのれす」
「ん、どうしたんだい?」
「何らかご主人さまと、手をつなぎたいんれす」
「うん、いいけどさ」
ぎゅっ
みどりはご主人さまの差し出した左手を、自分の右手でしっかりと握り締めた。その姿を恨めしそうに見ている天使が一人…
「あかねも繋ぐかい?」
「え…あ…私はいいよ…」
「そんな、遠慮しなくたっていいさ…ほらっ」
と、ご主人さまは余っていた右手を、あかねに差し出した
「ご主人さまがそこまで言うなら…」
ぎゅっ
あかねもご主人さまが差し出した手を、自分の左手で握り締めた。その顔は満更でもなさそうである。
「さて、そろそろ行かないとだね…花火が始まっちゃうだろうし」
「そうだね…ご主人さま…」
「それじゃあ、れっつらごーれす」
カラン コロン カラン コロン カラン コロン…
3つの下駄から発される音が、夜の闇に響いていった…
 
そして途中のお店で飲み物を買って着いた場所、それは花火会場とは正反対の小高い丘であった。
ぽふっ すとんっ ぽふんっ
三人はとりあえず花火の方向を向いて、芝生の上へと座った。
「ご主人さま…どうしてこんな場所に?」
「間近で見るのもいいけどさ、ちょっと遠くの方が綺麗なこともあるんだよ。それに…」
「それに、何れすか?」
「ここの方が、花火の音が小さくていいでしょ?あかね…」
「うん…(本当は…花火は音が出るって分かってるから…近くでも大丈夫だけど…ご主人さま、心配してくれたんだ…)」
「まあ何にしろ、この穴場の場所に誰かと一緒に来たかったんだ」
「そうらったんれすか…」
と、その時…
ドンっ ヒューーーっ パッ…
空に輝きし大きな光…
「綺麗…だな…」
「お空が輝いてるれす…」
「幻想的だ、とっても」
近くで見るよりは小さな花火…でも3人の心には花火への距離など関係は無かった…。
 
パッ…
最後の花火が夜空へと散っていき、また辺りは静けさを取り戻した。
「じゃあ帰ろっか、二人とも」
「そうれすね」 「うん…」
「二人とも、忘れ物は無いかな?」
「無いけ…あ、一つだけ…あるかな…」
「ん、どうしたんだい?あかね」
「また…手を繋いで…欲しいな…」
「みどりさんも…れす」
「うん、いいよ」
ぎゅっ ぎゅぅっ
ご主人さまの二つの手は、再び二人の手によって包まれた。
「じゃあ行こう。みどり、あかね」
「うん…」 「はいれす」
そして3人は夜道を仲良く帰っていった…

あとがき
どうも、雅です。
書き下ろし第2弾です。
テーマが『浴衣』という事で、ちょっと離れましたが『花火』で一作書きました。
ご主人さま達が家に帰ったときに、他の守護天使が怨むような目つきで玄関前にいたのは言うまでもありません(笑)
そのあと三人がどうなったかは、ご想像にお任せします。
まあ兎にも角にも、読んでいただきありがとうございました。
 
2004/08/11 WED Written by 雅