Three Color's Spa Diary [5](三色の温泉日記〔5〕)

『次は終点会津若松、会津若松です。磐越西線喜多方方面、只見線、会津鉄道はお乗り換えです』
会津若松へと電車が入っていく。
「みんな忘れ物無いね?」
「大丈夫れす」
「ご主人さま…これ忘れてる」
「僕が忘れてたのか。ありがとう、あかね」
「ご主人さまー、くるみおなかペコペコなの」
「降りたら10分くらいバスに乗ってそれから昼食だから」
「うー…分かったの」
………
四人は駅を出てバスターミナルへと向かった。
「まずはどこに行くの…?」
「ちょっとお城の方だけど…分かる?」
「お城ってなんれすか?」
「江戸時代より前にその地域で一番偉い人が住んでいたところかな」
「ご主人さま、ご飯はそっちでなの?」
「そういうことになるね。それまで我慢できる?」
「10分くらいなら我慢できるの」
「よし、バスが来たから乗るよ」
「うん…」 「はいれす」 「乗るのー」
………
目的地のバス停で降りた四人。
「ご主人さま、これは何て読むんれすか?」
「これは、『つるがじょう』だよ。ここからはちょっと見えないけどあそこにお城の天守閣があるんだって」
「ご主人さまはこれを見に来たの?」
「違うよくるみ。ご飯を食べに来たんだよ、この近くの店にさ」
「どこなの?」
「ここから少し歩いたところにあるから、じゃあ行こうか」
「うん…」
………
「いらっしゃい。おや?何か前に見たことがある顔だけど、気のせいかね」
「あの…8月に一度来たんですが憶えてます?」
「ああ、あの時のかい。あの暑い時期の若松によう来たリュックの」
「はい。憶えていてくれたんですね」
「まあねえ。あのホールに○山さんの演奏会聴きにきたんだろう?」
「そうです。とても良い演奏でしたよ」
「ところでそっちの嬢ちゃん達は誰だい?」
「僕の親戚の子ですよ」
「そうかいそうかい。で今日は何にするんだい?」
「この前と同じソースカツ丼を4人前で」
「この子たちはお前さんと同じ量で大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ。あ、お味噌汁にキノコとか入ってます?」
「今日のは…ああ、入ってない入ってないな」
「じゃあそのまま4人前でお願いします」
「へい、じゃあちょっと待ってな」
まあサイズも大きなカツだったのだが…
「これがご主…じゃなくて兄さんが食べさせたかったの…?」
「うん。大きいけど…」
「くるみ姉さん、こんなに熱いのに大丈夫なんれすか?」
「美味しいのー!くるみ、卵以外のカツ丼って初めてなの!」
いただきますをしてから1分も経たないうちにも、くるみの丼から半分は消えていた。
「確かに普段食べるのは卵と玉ねぎで閉じたやつだもんね」
「このソースが濃厚で、これだけでご飯何杯でもいけそうなの」
「みどり、あかね、もし全部食べられそうに無かったら、くるみに分けてあげて」
「だから兄さん4人前のままでって…」
「そういうことなんだ。いやまさかここまで勢いよく食べられるとは思わなかったけどさ」
「くるみ姉さん、みどりさんの半分くらいあげるんれ、丼くらさいれす」
「みどりちゃんの貰ってもいいの?ありがとうなの」
「いまのうちにあかねもやっておけば?」
「そうだね…みどり、次私にまわしてくれる…?」
「分かったのれす、えっと…これくらいれいいれすね。はい、あかねさん」
「ありがとう私は…これくらいかな」
「もう1杯カツ丼ができちゃったの。じゃあいただきまーすなの」
「ゆっくりもうちょっと味わって食べた方がいいよ、くるみ」
「でもゆっくり食べても速く食べても美味しいのは変わらないの!」
結局2杯目もみんなが食べ終わる前に食べ終わり、ご主人さまが追加注文した3杯目までペロッと食べ尽くしたくるみなのであった…
………
会津若松駅の方に戻ってきた4人。
「ご主人さま、次は宿れすか?」
「そうだよ。次はあのバスに乗って行くみたいだね」
何やら昔のボンネット型バスのようなバスが待っていた。
「それでどんな宿なの…?」
「聞くところによると老舗らしいね」
「そうなんだ…名前しか聞かなかったから」
「でもあかねのおかげでこうして来れたんだからさ」
「うん…」
「ご主人さま、バスのドアが開いたの」
「よし、じゃあ乗っていこうか」
「そうだね…」
………
そしてその旅館にて…
「お待ちしておりました。ご予約の○○様ですね」
「はい」
「お部屋は山吹の間になります。それではご案内いたします」
「あ、あの家族風呂があると聞いたのですが」
「はい、ございます。家族風呂の方をご希望でしょうか?」
「できればお願いします」
「それでは空いております鈴の湯をお取りいたしますので」
「ありがとうございます」
「では、お荷物は私どもにお任せください」
 
「ふう、やっと落ち着いたねみんな」
「そうだね…ご主人さま」
「ご主人さま、まずはお風呂にするれすか?」
「そうしようか。まずはこの汗とかも落としたいしね」
ススススス
一つ物置を開けてみたくるみ。
「ご主人さま、こっちに浴衣が入ってたの」
「あ、じゃあ持ってきてくれる?」
「はいなの」
持ってきた浴衣をそれぞれに手渡すご主人さま。
「僕は向こう側でこれに着替えてくるから、3人ともこっちでこれに着替えてね」
「はいれす、終わったら呼ぶれすよー」
「はいなの。ご主人さま、すぐにお風呂に行けるようにご主人さまの分も下着とか準備しておくの」
「ご主人さまが、一緒に着替えようって言わないで良かった…恥ずかしいから…」
「うん、じゃあちょっと着替えてくるね」
その後、3人の衣擦れの音にご主人さまがドキドキしていたのはまた別の話である…
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あとがき
温泉はまだかい!ども、雅です。
会津若松なのでどうしてもこれを書きたくて。次か次の次で完結ですかね。
くるみを連れてきたので、予想通り昼食だけで1回になっちゃいました。
今年ももう…終わりですね。まったく、温泉が恋しい季節です。
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2010・12・22WED
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