Verbal Fermata(言葉のフェルマータ〜奏歌BSS〜)
ここはとある温泉の家族風呂…
「何でウチをこんなところに連れて来たん?」
「誕生日プレゼントっていうのもあるけど…ちょっと思うことがあってね」
「ん?何や?気になるやんか」
「それはさ…」
月日は少しだけ遡って誕生日の前の日曜日。
「奏歌ー、ちょっと来てくれる?」
「何や?ご主人さま」
「奏歌の誕生日なんだけどさ、ちょっとお願いがあってさ」
「いったい何や?」
「ちょっとプレゼントの代わりに行きたい所があるんだよ」
「ん?どこやろ?」
「前にさ、愛緒美と一緒に行ったところなんだけど」
「それでどないしたん?」
「だからさ、誕生日プレゼントは土曜日でいいかな?当日は旅行とかは難しいしさ」
「んー、ウチはええけど」
「良かった、じゃあ当日はそこに行く前に遊んでからだね」
「ん?そんな遠くなん?」
「ちょっとね、隣の市だけど奥地の方だから」
「そうなんか…そうなると遊ぶとこはどこになるん?」
「んーと…考えているのはいくつかあるけど、思い切り遊べるところにしようか?」
「せやな、ウチもぎょうさん身体動かしたいわ」
「それだと…うん、ちょっと遠回りになるけどあの場所がいいかな」
「ん?どこや?」
「それは当日までのお楽しみってことでね」
「うー、何か意地悪やなご主人さま」
「そうかなあ?」
「そんなんするご主人さまには、こうやっ!えいっ!」
ぎゅむっ ばたんっ
私は奏歌に押し倒される形になった。
「白状しろー、ご主人さまー!」
「えー、どうしようかなあ」
「えいっ!えいっ!」
「く…苦しいっ!苦しいってばっ!」
「白状せーへん限りやめんでー」
「分かった、分かったから。長岡の大きな公園だってば」
「ん?それって…あー、分かったわ」
「じゃあ当日はそこに寄って遊んでから、その温泉に行くからね」
「分かったで、そういえばウチの誕生日当日はどないするん?」
「その日にまず誕生日を祝って、私からのプレゼントは別って感じになるかな」
「そか、楽しみにしとるで」
………
「それはさ、他のみんなとは奏歌より一緒にいる時間が短かったからさ」
「せやったな、ウチが来るより1年以上も前にみんな来たんやから」
「だからこそ、こうして二人で居る時間を私は望んだんだよ」
「んー、分かるような分からへんような…」
「つまりはさ…」
ぎゅっ
「んっ!」
私は湯船に浸かっていた奏歌の身体を引き寄せた。
「こうして奏歌と二人だけで一緒に色々話してみたいって思ったんだよ」
「雅兄やん、恥ずかしいんやけど…」
「私たち二人だけなのに、恥ずかしがることなんかないよ」
「せやけど…」
「ん?どうしたの?」
「愛緒美姉やんに聞いたんやけど、姉やんとここに居る時に…」
「え…その話も聞いちゃったの?」
「話から薄々感付いたわ。姉やん紅い顔で嬉しそうやったもん」
「そっか…まあそういうことは今回は無い…って何を言わせてるんだよ」
「スマンな…って兄やんもノリがええなあ」
「まあね、これでも色々なことで鍛えられてきたしさ」
「そんなもんなんか、よう分からへんけどなあ…」
「愛緒美からは他にも聞いた?」
「んー、特には聞かへんかったけど…寒い場所言うてたくらいやけど」
「確かに愛緒美の時は真冬だったしさ、今だと逆に暑いくらいだね」
「せやな」
と、他愛の無い会話をして…
少し暑くなって湯船に足だけ浸けている私と奏歌。
「そういえば、これだけは聞いておきたいってことがあったんだ」
「ん?何や?」
「奏歌は私のところに来て幸せかい?」
「え…?」
「これだけは聞いておきたかったんだ。ご主人さまとしての私ってどうなのかなって」
「せやな、幸せや」
「良かった…」
「理由はよう分からへんけど、幸せでない理由なんて無いと思うで」
「そうかな?」
「ご主人さまが想っていてくれへんかったら、ウチはここに居らへんからな」
「えっ…」
「ご主人さまの強い想いが無いと、守護天使は召喚されへんのやで」
「そうなんだ…」
「ウチがここに来てからも、ウチを雅兄やんは護ってくれたんやから…」
ぽふっ
その後の言葉が告げられる時には、奏歌の頭は私の胸にあった。
「ウチの二重人格になる性格も、ご主人さまは受け入れてくれたんや…」
「奏歌…」
「ウチは本当に不安やったんや、こんなウチを受け入れてくれるかが…」
「………」
「もしこれが原因で拒否されると思うたら…本当に不安で不安で…」
「そっか…ゴメンねこんな話をさせちゃって」
「ええんや、ホンマにありがとな…ご主人さま」
「お礼を言われることは無いよ、奏歌」
「ううん、とにかく言いたいんや」
「でも本当のことが聞けて良かったよ」
「あ、ご主人さま」
「ん?」
奏歌は一言だけ、こう付け加えた…
「幸せやで…」
その言葉は私の心の中にフェルマータのように長く響いていった…
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あとがき
オリジナル守護天使誕生日SS、今回は奏歌です。
もうお分かりかと思いますが、今年は全て音楽記号です。
今年は遅れても良いので確実に書く方針にしました。
色々遅れるかもしれませんが、よろしくお願いします。
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2007・06・24SUN
雅