Large-flowered smile(大輪の笑顔〜奏歌BSS〜)

少し暑くなってきた夏至の日のこと…
ブロロロロロロロロ…
私と奏歌の二人を乗せた車が東の県外へ向けて走っていた。
「雅兄やん、今日はどこに連れてってくれるんや?」
「んー、ちょっと秘密にしておこうかな」
「えー…うー…うん、分かったで。雅兄やんがそこまで言うなら聞かんどくわ」
「まあ秘密にしておくほどでもないけどさ。奏歌がこの前行きたいって言ってた場所だよ」
「そうなん?あ…もしかしてあそこに連れてってくれるんか?」
「うん、せっかくの奏歌の誕生日だし、それに私も行ってみたい場所だったしさ」
「そうやったんか、ウチ嬉しいで」
 
と、このような会話になったのは6月半ばの日曜日に遡る…
「なあご主人さま、ご主人さまは動物園って行ったことあるんか?」
「え?うん。一度だけ東京に行ったときにあるよ。どうかしたの?奏歌」
「ウチ、一度行ってみたいんやけどなあ…」
「そうだなあ…と言っても新潟県には無いしなあ…」
「ん?新潟には無いんか?動物園」
「うん、水族館は多いんだけど確か動物園は無いんだよ」
「そうなんか…」
その奏歌の表情はどこか寂しそうだった。
「まあちょっと考えてみようかな、せっかくだしさ」
「ええんか?ウチが言うのもなんやけど…」
「いいよ、だって大事な守護天使の願いだもん。聞いてあげなきゃご主人さま失格だよ」
「ん、ありがとなご主人さま」
チュッ
次の瞬間、私の頬へと奏歌の唇がそっと触れていた…
 
「雅兄やん、そろそろ休憩せーへんか?」
「うーん、そうだね。一応2回くらい休憩する予定だったし、次のSAで休憩にしよっかな」
「せやな、次はこの地図からすると…阿賀野川SAやな」
「よし、じゃあそこまで行ったら休憩にするからね」
「ええで、あと5kmくらいやな。雅兄やん任したで」
「うん」
車は阿賀野川SAへと進んでいった…
………
「着いたー!着いたな、雅兄やん」
「うん、じゃあここで10分くらい休憩だから。トイレとかも済ましておいて」
「分かったで、ほんなら先に行ってくるわ」
「私は自動販売機のとこにいるからさ。ジュースとかも多少買っていこ」
「せやな、そんなら行ってくるで」
「うん、行ってらっしゃい奏歌」
………
チャリンチャリンチャリン
「奏歌は何にする?」
「んー…雅兄やん、次はどこで休憩なんや?」
「えっと次は福島に入ってからだよ。確か磐梯の方にSAがあるはずだからそこかな」
「せやったら、2本くらい買うてええか?」
「うん、いいよ」
「そんなら、これとこれにするわ。雅兄やんはどれにするん?」
「私はこれとコーヒーかな。眠たくならないようにね」
がたんっ ごとんっ がたんっ ごとんっ
4本の飲み物を買って、私と奏歌は車へと戻っていった…
 
「やっぱり長いなあ、このトンネルも」
「そうだね、さすがに県境のトンネルだしさ。山を越えてるからね」
「せやけどなんで、このトンネルの光はこんなに黄色っぽいんやろ」
「えーっと確か…この光が一番透過力が強いからだったかな。学校で習ったけどよく憶えてないな」
「そうなんや、やっぱり雅兄やんは物知りやな」
「そうでもないよ、これでも奏歌より十何年も人生を長く生きているから知ってるだけさ」
「んー、そんなもんなんかなあ…でも…お!県境やな」
「そうだね、やっと福島県か。ここまででやっと半分ってとこか、よーしっ一気に行くよっ」
「ん、安全運転で頼むで雅兄やん」
白い軽自動車がトンネルの中を東へと駆け抜けていく…
 
つんつんっ
「ん…んーーーっ!な・何や?雅兄やん」
「もうすぐ着くよ、奏歌。これから東北道に入るからさ」
「そうなん…って磐梯のSAはもう通過したん?」
「うん、奏歌が寝ちゃってる間に着いたんだけど、そのまま素通りしちゃったよ」
「んー、何やすまんなあ雅兄やん。ウチ、話し相手にもなってやらんから暇やったろ?」
「そんなことないよ。大事な奏歌を乗せてるしさ、安全運転しなくちゃと思うと必死だよ」
「そ…そんなウチがなんて…でもありがとな」
少しだけ頬を紅くする奏歌。
「おっと、ここから2つ目だったっけ?あそこの近くのインターって」
「んー、よく分からんのやけど、確か二本松いうところやったと思うで」
「それだけ分かってればいいかな。インター近くになれば表示が出てるしさ」
「せやな、雅兄やんは休み無しで大丈夫なんか?」
「ん?私は大丈夫だよ。まあ途中のPAでちょこっと休みはとったしね」
「ウチは寝とったから大丈夫やけど…せやったらちょこっと元気回復のおまじないや」
「え?元気回復って?」
「雅兄やん、ちょっと顔こっちに近づけてくれへんか?」
「うん、いいけど…」
チュッ
「そ・奏歌っ!?」
また少し顔を紅くしてしまう私と奏歌。
「こ・これで元気になったやろ?雅兄やん」
「う・うん。ありがとう奏歌、よしっ、あと少しだし頑張ろうっと」
二人を乗せた車は二本松ICで降り、東北サファリパークの方へと進路を変えて行く…
………
「よし、お金も払ったし今日は楽しもう、奏歌」
「うんっ、今日はいっぱいいっぱい楽しむで、雅兄やん」
その奏歌の笑顔は、今まで私にほとんど見せたこともないくらいの大輪の笑顔になっていた。
そして二人を乗せた軽自動車はそのまま園内へと進入していく…
 
「やっぱり寝ちゃったか奏歌、だいぶはしゃいでたからな」
チュッ
私は寝ている奏歌の頬へとそっとキスをして、家に帰るために再び東北道へと車を乗せていった…
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あとがき
オリジナル守護天使誕生日SS、今回は奏歌です。
今年のオリ天の誕生日SSは、全て頭が「大」になっています。
何だかんだで鬼の居ぬ間の洗濯状態でこのSSを書いていたりします。
もうゆっくりこうして書いていられるのも今だけなんだろうなあ…
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2006・06・13TUE
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