Big New Wave(新しき大波〜奏歌BSS〜)

「あいつが死んじゃって、今日で9年か…」
6月のある日のこと、私はある一羽の雀のことを思い出していた。思えばこれは、今日のことを予感していたのかもしれない。
「ご主人さま、どうしたんです?」
「何でもないさ愛緒美、ちょっと昔のことを思い出しただけだよ」
「昔のことって…何のことだい…?」
「ん?昔飼ってた雀のことさ」
と、卓袱台に3人居るところに…
「ん〜、ご主人さまおはようだよ〜」
寝ぼけ眼の天使がやってきた。
「おはよう、杏珠」
「ご主人さまぁ…杏珠、何だか変な夢を見たんだよ」
「どんな夢…なんだい…?」
「めいどの世界に居た時の夢で、2歳下の友達の守護天使と遊んでたんだよ」
私はその言葉に、妙な感覚を抱かずにはいられなかった。
「杏珠、その子って何て名前だったの?」
「んー、忘れちゃったよぉ…」
「ま、まあいいか。杏珠、そろそろ着替えたら?」
「あ、うんっ。じゃあ着替えてくるね、ご主人さま」
「じゃあ愛緒美、そろそろご飯にしよっか」
「そうですね、ご主人さま」
いつもとちょつぴり違った一日が動きだした…。
 
「それじゃあ行ってくるね」
「「「行ってらっしゃーい」」」
私は心に妙な違和感を抱きながら、大学へと行く車に乗り込んだ。
………
授業を二コマ終わらせ帰宅の途につくため、車を停めてある駐車場に向かう私。
「夏至も過ぎたばかりだから、太陽も出ててまだまだ暑いな…」
時は昼の2時半、天には真っ白に輝く太陽が空に浮かんでいた。
「さて、帰るかな」
ばたんっ
私は車へと乗り込んで、天使の待つ家へと車を走らせ始めた。
 
「ただいまー」
「おかえりだよっ!」 「おかえりなさい、ご主人さま」 「おかえり…」
家に入ると、三者三様の出迎えの言葉、ここまではいつもと同じなのだが…
「おかえりやー、ご主人さま」
「えっ!?」
と言う間に…
ぎゅうっ
私の身体に抱き付いてくる一人の少女、杏珠よりも小さいようだ。
どんっ
私の身体はその加速度に耐え切れず、そのまま背にしていたドアへとぶつかってしまった。
「もしかして、君は…」
「そうや、ウチやウチ。雀の、雀の奏歌や」
「やっぱり…やっぱり、奏歌なんだね(今日の予感はこれだったのか…)」
「やっと会えたで、ご主人さま」
「うん…」
 
奏歌が現われたのは、どうやらお昼くらいのことだったらしい。
………
「んー?何だろう?」
私の部屋の掃除をしていた杏珠、彼女はそこである物の異変に気が付いた。
「あれ…?ご主人さまのタリスマンが光ってる」
杏珠はそれを持って紅玲菜と愛緒美の許へと向かった。
………
「どうしたんでしょうね?」
「ああ…もしかしてまた…」
「あれ?何か杏珠たちの名前が動いてるよ」
ふと文字盤を見ると、タリスマン上に書かれている3人の名前と宝石が移動していた。
「やっぱり、ご主人さまの新しい守護天使なのかしら?」
「みたい…だな…」
「何か新しい文字が浮かんできてるよ」
それはとある言語が使って書かれていて読めないが、何やら5文字であることは見てとれた。そして緑の宝石がタリスマン上に浮かび上がってきたその瞬間…
ピカーーっ
「うあんっ!」 「んっ!」 「くっ…」
まばゆいばかりのタリスマンからの光に、3人は眼を瞑った。そのおびただしい光束の中から出てきたのは…
「ん…やっと来れたんやな、ウチ…」
黄白色の髪色をした女の子であった。
「き…君は…?」
いつも物静かな紅玲菜も、どこか落ち着かない様子。
「ウチ・ウチか?ウチは…」
名前を告ごうとしたその時、思いもしなかった所から横槍が…
「奏歌…奏歌だよね?」
「ん?そうやけ…もしかして、杏珠姉やん!?」
「うんっ。杏珠だよ、奏歌」
「ど・どうなってるんでしょう?紅玲菜姉さん」
「さあ…?でもたぶん、朝言ってた夢の友達が…彼女のことなんじゃ…」
「奏歌、そろそろお姉ちゃんたちに自己紹介したら?」
「そうやね杏珠姉やん、ほんなら自己紹介させてもらうわ。ウチは奏歌、雀の奏歌や。歳は今日が誕生日の9才や。トラウマは悪い空気なんや」
「奏歌、いい名前ね」
「うぅ…そんなん言われたら照れてまうよ…」
奏歌は少しだけ顔を紅く染めた。
「あと言うとくことは…あ、そうや。ウチが得意なんは、杏珠姉やんが苦手な裁縫や。あとウチが苦手なんは、杏珠姉やんが得意な掃除や。悪い空気があかんからな」
「そういえば…めいどの世界の頃、杏珠と遊んでたな…奏歌は…。まさか同じご主人さまの…守護天使だとはな…」
「杏珠姉やん、ウチに姉やん達のこと教えてくれへん?」
「あ・うん、そうだね。えっと、杏珠のことは知ってると思うから、紅玲菜お姉ちゃんと愛緒美お姉ちゃんだけでいい?」
「ん、それでええよ」
「うーん、でも杏珠が紹介するよりも、お姉ちゃんが自分で紹介した方がいいかも」
「それもそうね、杏珠」 「そうだな…杏珠…」
「それじゃあ私から。私は愛緒美、元は奏歌と同じ鳥の梟なの。料理は私がしてるから、嫌いな物とかあったら私に言ってね」
「うんっ、えっと…愛緒美姉やん」
「えっと…アタシは紅玲菜…狼の紅玲菜…。アタシは洗濯を担当してるから…裁縫とかアイロンは…任せるよ…」
「うん、ええで。任しといてな、紅玲菜姉やん」
「奏歌、これからよろしくねっ!」
「よろしくね、奏歌」
「よろしく…奏歌…」
「これからよろしゅうな!姉やん」
ぎゅうっ ぎゅむっ ぎゅっ
奏歌は3人が差し出した手を、一つ一つ力いっぱい握り返した。
 
「おかえり…奏歌」
「ただいま…ご主人さま…」
ぎゅうっ
私はその身体をしっかりと抱きしめてあげた。
「奏歌」
「何や?ご主人さ…」
ひょいっ チュッ
私は奏歌をそっと持ち上げて、その唇へとそっと口付けをしてあげた。
「ご主人さま…」
「うん。あ、お風呂沸いてるかな?ちょっと汗かいちゃったからさ」
「うん、一緒に入ろっ!ご主人さま」
「お着替えお持ちしますね」
「カバン…預かるよ…」
こうして新しく一人加わった、4人の守護天使との日常が幕を開けた…
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あとがき
と言うわけで雅です。ついに新守護天使“奏歌”の登場です。
今回は、ちょっとだけ杏珠をお姉さんらしくしてみました。
奏歌の詳しいプロフィールは「オリジナル守護天使の設定ページ」を御覧下さい。
タイトルの日本語ですが、奏歌の一人称が“ウチ”なのでそうしました。タイトル差し替えました。
こんなことより、早くレポートを書かなくちゃいけないんですけどね…(現実逃避中)
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2005・05・21SAT 初版
2005・07・09SAT タイトル差し替え
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