Thank you for your love(愛をありがとう〜紅玲菜BSS〜)

まだ冬の寒さが若干残る頃のこと…
「はい、これ。バレンタインデーありがとね、紅玲菜」
と、ホワイトデーに一人ずつお返しをしていると…
「どういたしましてご主人さま…あ、ちょうど良かった…ちょっといい?」
「ん?何かあったの?紅玲菜」
「ううん、明日のことなんだけど…行きたい所があるんだ」
「明日って紅玲菜の誕生日だったね、いいよ。どこに行きたいんだい?」
「ご主人さまが通ってる大学…行ってみたいんだ」
「明日か…うん、確か大丈夫だったはずだな」
「いいの?ご主人さま」
「うん。確か試験も終わってるはずだし、出入りしても問題は無いはずだな」
「嬉しい…ありがとう」
「どういたしまして、そういえば去年は私の小中学校を見てもらったんだっけ」
「うん。だから本当は今年は…ご主人さまの高専にしようかと思ったけど」
「うーん、それはちょっと遠いよなあ。あの車だとちょっと厳しいなあ」
「だからアタシ、せめて今通ってる大学を見てみたくって…」
「よし、じゃあ明日は…何時にする?7時半以降ならいつでもいいよ」
「ご主人さまが好きな時間でいいよ…それに合わせるから」
「そうだな…それなら9時くらいにしようか」
「うん、そうだね。それならお弁当も…あ、何でもないから…」
「え?う、うん。それじゃあおやすみ、紅玲菜」
「うん、ご主人さま…」
と、帰り際に俄かに紅玲菜の顔が近づいてきて…
チュッ
唇に軽い感触が。紅玲菜の顔も私の顔も仄かに紅く染まる。
「おやすみなさい、ご主人さま」
「え?あ、うん。おやすみ、紅玲菜」
その夜はそのまま静かに更けていった…
 
翌朝…
「行く準備は大丈夫?紅玲菜」
「うん、雅兄。全部持ってきたはず…雅兄こそ大丈夫なの?」
「私?私は大丈夫だよ。財布だろ?携帯だろ?定期入れに…あ…」
「どうしたの…?」
「鍵が無かったよ。これじゃ運転が出来るわけないな、今取ってくるから待ってて」
「まったく…雅兄らしいな…」
数分後…
「ゴメンゴメン、それじゃあ紅玲菜乗って」
「うん…雅兄」
ガチャッガチャッ バタンバタンッ
「よし、今度こそ忘れ物は無いな。じゃあ行くよ、シートベルトかけてね」
エンジンがかけられた車は、大学方面へと走り始めた…
 
その道中…
「あ…雅兄…」
「ん?何だい紅玲菜」
「帰りにここの海岸に寄りたいな…ダメかな?」
「いいよ、紅玲菜がそうしたいんならさ。今日は紅玲菜の誕生日だからさ、いくらでも言って構わないよ」
「ありがとう…優しい雅兄、大好きだよ…」
「えっと…うん、どういたしまして。そろそろ着くよ、最後に曲がるから気をつけてね」
「うん」
私の運転する車はそのまま駐車場へと繋がる路地へと入っていく…
 
「ほら、ここが私の通ってる工学部の建物だよ」
「アタシみたいな部外者が…中に入っても大丈夫?」
「大丈夫だよ、別に文句は言われないはずだから」
「それなら…うん」
棟の中に入った私と紅玲菜。
「雅兄の教室はどこなの…?」
「教室?教室は無いよ。大学だから、いつも移動教室になってるし」
「そっか…それならよく使ってる場所ってある…?」
「それならあるよ。それじゃあ二階に上がろうか」
「うん…あ、雅兄」
「ん?何だい?紅玲菜」
「手…繋いでほしいな…」
「いいよ紅玲菜、ほら」
ぎゅっ
私が差し出した手を、少し顔を赤らめながら紅玲菜は握り返してきた。
………
「この教室はよく使うかな、鍵はさすがに…閉まってるか」
「でも…ここを見れただけで嬉しい…、雅兄はこんなところで勉強してるんだね…」
「うん、まあまだまだ憶える事はいっぱいあるけどね。だけどそれもまた楽しいさ」
「そうなんだ…ありがとう雅兄。何だか逞しく見えるよ…」
「え?あ・ありがとう。それじゃあ次はどこに行く?」
「あ…もういいかな…、あの海岸に行こうよ…」
「もういいのかい?まあいいけど…それじゃあ海岸に向かおうか」
私と紅玲菜は大学構内から出て、駐車場へと戻っていった…
 
ザザーン… ザン…
この日の海は誰もいない、ただ波の音だけが静かに鳴っている場所であった。
「毎年来てるけどさ、どうして紅玲菜は海が好きなの?」
「え…どうしてって言われると…静かだからかな」
「確かにね、こんな寒い時期は誰も来ないからね」
「それに誰にも知られずに、雅兄とぴったりできるから…」
ぴたっ
テトラポットに腰掛けている私と紅玲菜。紅玲菜は私に寄り添ってきた。
「そっか…(紅玲菜も一人の女の子だもんな…)」
「雅兄、一つだけ質問いい…?」
「ん?一つって…何?」
「雅兄にとってアタシってどういう存在なの…?」
「私にとっての紅玲菜?んー、難しい質問だな…」
「うん…アタシを入れて4人の守護天使がいるけど…雅兄にとってアタシってどうなの…?」
「私にとって紅玲菜は他に変えられない大事な一人だな、それは奏歌とかにも言えるけどさ」
「そっか…何だか安心した」
「紅玲菜は一番の年長者だしさ、疲れてるのを癒してあげたいなっていつも思ってるよ」
「そんな…でもありがと。アタシのこと、きちんと気にかけててくれてたんだ…」
「それがご主人さまの役目だよ。みんなに護ってもらってる代わりに、みんなを護ってあげなくちゃ」
「そうだね…。あ、あのさ雅兄。この前の愛緒美の誕生日旅行の時に、愛緒美に何かやったよね…?」
「え?えっと…う・うん。何をやったかは感付いてる?もしかしてさ」
「うん…愛緒美が帰ってきたとき、嬉しそうだったな…うん」
「紅玲菜は私とそういうことは望んでいるのかい?」
「え・えっと…雅兄がしてくれるなら、アタシは…いつでも待ってる」
「う…うん、こんな私でよかったらいつでも相手になってあげるよ」
「大好きだよ…雅兄」
「私もだよ、紅玲菜」
チュゥゥゥゥゥッ
そのままお互い横を向き、長い間唇を合わせていた。
 
その夜…急に部屋の襖が開いた。
すすすすす
「ご主人さま…今いい?」
「紅玲菜、どうしたんだい?こんな夜に」
と、その手には1つの枕があった。
「一緒の蒲団で、寝たいんだ…」
「え?いいよ。早く入りなよ、寒いからさ」
「うん…」
ふぁさっ
私の蒲団に入ってくる紅玲菜。
「今日の紅玲菜は何だか甘えんぼさんだね」
「ご主人さまの匂いが安心させてくれるから…」
「ちょ・ちょっといきなり抱きついてくるなんて…ま、いいけどさ」
「ご主人さま…」
春がだんだんと近づいてくる、そんな日の夜はこうして更けていくこととなった…
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あとがき
3月最初の日曜日、雅です。
このSS、構想は早く出来てたのですが他のSSを書いてたらちょっと…。
今年度のSSも残り1本、来年度も多分書くことでしょう。
最後のSSも確実なものを書いていきたいと思います。
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2006・03・05SUN
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