Gearwheel of Love(恋の歯車〜杏珠BSS〜)
風もすっかり秋色になり、澄んだ空気が心地良い頃のこと…
「ねえご主人さま」
「ん?杏珠、どうしたんだい?」
私が明日のことを考えていたところに、考えていたことの張本人の杏珠がやってきた。
「明日、休みじゃないんだよね?」
「うん、残念だな…。だってこれで3年連続だからね…」
「ご主人さま、その日は何時間目まであるの?」
「えっと4時間目までだけど、実験の1日目だから早く終わるか分からないんだよ」
「そうなんだ…」
「ごめんね杏珠。他の二人は休みの時だからさ、杏珠ばっかりに損をさせている気がするよ」
「ううん、ご主人さまが謝ることなんてないよ」
「杏珠…」
ぎゅうっ
私の腕は自然と杏珠の背中へと伸びていた。
「え!?ご・ご主人さま…」
「あ、ごめん杏珠。ちょっと嬉しかったんだ、そういうこと言ってくれてさ」
「だってご主人さまのこと、大好きだから」
「ありがとう、杏珠」
ぎゅむっ
「ご主人さま…あったかいな…」
「杏珠…うん、あったかいよ」
私の腕はさらに杏珠を抱く力を強めていた。
「あ、そうだご主人さま」
「何だい?杏珠」
「明日なんだけど…行きたいところって夜でもいいの?」
「ん?杏珠が望むなら、それでもいいよ」
「ご主人さまと二人だけで星が見たいなって、ダメかなぁ?」
「んー…うん、いいよ。パーティーが終わったら一緒に行こうか」
「うん、行こうね」
そして翌日…
「はあ、やっと終わったか…」
私は4限目の授業を終え、友達と別れて帰路につくための車へと向かった。
「プレゼントは…あったあった」
車の中で先週末に買っておいたプレゼントを確かめて、私は車での帰路を急いだ。
………
「ただいまー」
「おかえりなさい、ご主人さま」 「おかえり…ご主人さま」 「おかえりやー、ご主人さま」
家に帰ってきて聞こえたのは3人の声…
「あれ?愛緒美、杏珠は?」
「杏珠ですか?…あれ?さっきまでここに居たんですけど…って、あーっ!」
「杏珠姉やん、何やっとんのや…」
「またか…ま、杏珠らしいといえば…杏珠らしいけどな…」
ふと台所を覗くと、そこに居たのは…
「んぐっ、おかえりだよ、ご主人さま」
「ただいま、杏珠…って…」
こつんっ
台所でつまみ食いをしていた杏珠に、ちょっぴりだけ拳を当てる私。
「んっ!ご主人さまぁ…」
「こーら杏珠、後で食べるんだからダメだろ」
「だって美味しそうな匂いがしてたんだもん」
「ま、杏珠らしいけどね」
「どうします?ご主人さま。パーティーがあと少しで出来るように準備はしたのですが」
「そうだね、愛緒美。んー、ちょっとお風呂入ってくるからさ、その間に仕上げてくれる?」
「分かった…あ、杏珠はご主人さまに着替えを持って行ってあげて…」
「うん、分かったよ紅玲菜お姉ちゃん」
「せやな、ほんならウチはテーブル片付けとくわ」
「ご主人さま、カバン持ってくよ」
「あ、ありがとう杏珠」
………
パーティーも終わり…
「杏珠、行こっか」
「うん行こっ、ご主人さま」
「夜の運転、気をつけてくださいねご主人さま」
「うん、出来るだけ早めに帰ってくるようにするさ」
「はい杏珠姉やん、上着いるやろ」
「ありがと、奏歌。もう寒いしあった方がいいよね」
「ご主人さま…上着…財布も一緒に入れておいたから…」
「このウィンドブレーカー出しててくれたんだ…ありがと、紅玲菜」
「ご主人さま早くー」
「あ、うん。じゃあ行ってくるね、みんな」
「「「行ってらっしゃーい」」」
バイパスに乗って着いた先の公園…街灯も少なく、虫の声のみが夜の静けさを際立たせていた。
バタンッ バタン
「ちょっと寒いね、お兄ちゃん」
「うん、上着を着てきて良かったよ」
「でも…」
ぎゅっ
嬉しそうな笑顔で私の腕に抱きつく杏珠。
「!?杏珠!?」
「こうしてた方があったかいもん、いいよね?お兄ちゃん」
「(まあいいか…)いいよ、杏珠の誕生日だしさ」
「ありがと、お兄ちゃん」
「じゃあ行こうか」
「うんっ」
私と杏珠は夜の園内を進んでいった。
………
芝生の上で寝転んだ私と杏珠、空には三日月と星々が輝いていた。
「あらためて誕生日おめでとう、杏珠」
「ありがとっ、お兄ちゃん」
「はいこれ、プレゼントだよ」
「あ、うん…ありがと…開けていい?」
「もちろんだよ、気に入ってもらえればいいけど」
パカッ
その箱の中に入っていたのは、小さな箱型のネジが付いた物体であった。
「これって…オルゴール?」
「そうだよ、気に入った曲が無くて作ってもらったんだけどさ」
「聴いてみていい?お兄ちゃん」
「うん、気に入ってもらえればいいな」
カチチチ カチチチ カチチチ
♪タントンタントンタントンタントンタタン… タンタンタントンタンタントンタントトン…
トントントンタントンタントンタントトン… トントントンタントトントトン…♪
「あ、お兄ちゃんがいつも聴いている曲だね」
「うん、どうかな?気に入ってくれた?」
「うん、大切にするねっ」
「良かった…」
ぎゅうっ チュッ
私は杏珠にしていた腕枕をそのまま引き寄せて口付けをした。
「お兄ちゃん…ありがとっ」
「どういたしまして。それじゃあそろそろ遅くなるし、家に帰ろうか」
「そうだね、お兄ちゃん」
私と杏珠が去りし後も、空には星々が輝き続けていた…
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あとがき
ふう、前期最後になりましたか、雅です。
今回のプレゼントはタイトルに引っ掛けてオルゴールにしました。
タイトルの共通点、そうだなぁ…つばさらへんまで行ったら公表します。
久方振りの月間4本ですよ。来月もこの調子で行けたらなと思います。
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2005・09・30FRI
雅