Rainbow Sneaker(虹色のSneaker〜杏珠BSS〜)

それは神無月の始めのこと…
「ご主人さま〜」
ぽふっ
私があぐらをかいて座っている所に、杏珠が飛び込んできた。
「何だい?杏珠」
「ご主人さま、杏珠の誕生日の日って休み?」
「えっと、10月6日か…んー、学校があるな」
まあ、仮にも学生の身分である以上、水曜という平日に学校がないはずがない。
「えーっ、去年もそうだったー」
「しょうがないだろ…杏珠…。ご主人さまは学生なんだから…平日に休みにはならないさ…」
「あ、紅玲菜。洗濯干しお疲れさま」
「でもぉ…」
「確かに…10月の頭は、めったに休みにならないですしね」
「愛緒美、お皿洗いおつかれ。うん、10月はちょうど後期の入りばなだから、休みになりにくいんだよね」
「う〜…」
「また、休みの時に一緒に遊ぶんじゃだめかな?」
「んー…杏珠の誕生日、半日だけでもダメなの?」
上目使いで私に聞く杏珠。
「半日か…ん?ちょっと待てよ…えっと…あ、大丈夫かも」
「本当っ?」
突如、眼が輝き出した杏珠。
「うん、午後からの授業が研究だけだしね。出なくても差し支えはないからさ」
「え…いいんですか?ご主人さま」
「まあ一回くらいなら構わないさ。次の日もその次の日も卒研はあるしね。それにさ…」
「それに…?」
「去年は一緒に居てあげられなかったからさ、今年は誕生日に一緒に居てあげたいんだ」
「ご主人さま…ありがとっ!」
チュッ
と、杏珠は私の唇へと口付けをしてきた。
「「あ〜っ!」」
「まあまあ、二人とも」
「ご主人さま、大好きだよっ」
ぎゅっ
杏珠はそんな二人のことを気にせずに、そのまま私へと抱き着いてきた。
「ま、いいか…」
なでなで
私はそんな杏珠の頭を優しく撫でてあげた…。
 
その当日…
「はぁ…あんまり良くなかったな、今日返却されたテスト…」
と、私が溜息交じり言いながらバス停に向かっているとそこに…
「お兄ちゃ〜んっ!」
栗色の髪の元気な女の子の声、杏珠である。
「あれ?杏珠、どうしてこんなところに?」
「早くお兄ちゃんに逢いたくて、バスに乗って来ちゃったんだ。そろそろお兄ちゃんの授業が終わる頃だと思ったから」
「そっか…よし、このままどっかに行こうか」
「うんっ!」
「よしっ、じゃあまずは一緒に駅まで行こうか」
「そうだね、お兄ちゃん」
私と杏珠は一緒に長岡駅へと向かっていった。
 
トントンっ
「杏珠、起きて起きて」
「ん…んーっ、どうしたの?お兄ちゃん」
「もうすぐ新潟に着くよ」
「あれ?もう着くの?」
「うん、よく寝てたね杏珠。寝顔が可愛かったよ」
「え…う…」
少し頬を紅く染める杏珠。
「あ、次で降りるからね」
「え…どうして?」
「ちょっと寄っていく所があるからさ、いいかな?」
「うんっ。杏珠、お兄ちゃんについてく〜」
「ありがとう、杏珠」
「じゃあ杏珠がボタンを押すね」
ピンポーン
『次、停まります。』
電子的な音と声、そして…
プシュー
バスは停留所へと停まり、ドアが開かれた。
ウィーン
「ありがとうございました」 「ありがとうございました〜」
カードリーダーへとバスカードを通して、私と杏珠はバスを降りた。
「ご主人さま…じゃなかった…お兄ちゃん、これからどこに行くの?」
「えっとね…あ、ちょっとだけ歩こうか」
「う・うん」
一つの長い横断歩道を渡って、歩いた先はとある店の駐車場。そこには…
「あれ?どうしてご主人さまの車があるの?」
「なるべく長い時間、杏珠と一緒に居たかったから車を移動させておいたんだ。だから今日の朝は車だったんだよ」
「そっかぁ、ありがとっ!ご主人さま」
「じゃあ杏珠、鍵開けるから乗って」
「うんっ!」
バタン バタンっ
そして車へと乗り込んだ私と杏珠。
「えっと…杏珠、どこに行きたい?」
「んー、どこでもいいの?ご主人さま」
「うん、私のお金がゆるす範囲ならならね」
「んーと、じゃあ…水族館はダメ?」
「ううん、いいよ」
「じゃあ水族館にするー」
「よし、じゃあ行こっか」
「うんっ!」
かちっ かちゃっ
「それじゃあ行くからね」
「うん、れっつご〜っ!」
ブルン ブルロロロロロロ
私と杏珠を乗せた車は、駐車場を出て新潟市を北東の方向へと走り出していった…。
 
「もうすぐ着くね、ご主人さま」
「うん。えっと今は…2時半か…」
「どうしたの?ご主人さま」
「お昼ごはんも軽かったしさ、ちょっとお腹空かない?杏珠」
「え…あ、うん」
と、そこに…
くぅぅぅぅ ぐぅぅぅぅ
二人のお腹の音が鳴り響いた。
「ちょっと、そこのスーパーに寄ってから行こうか」
「う、うん…ご主人さま」
スーパーでとりあえず食べ物を買って、再び水族館へと車を走らせていった。
 
そして…
「入口はここだね、ご主人さま」
「うん、じゃあ入ろうか」
水族館の駐車場へと車を停めて、水族館前まで来た私と杏珠。
「うん、早く早く〜」
入場料を払って水族館内へと入った。
「何から見る?杏珠」
「えっと…イルカショーにする。そろそろイルカショーの時間だって、受付のお姉さんが言ってたからね」
「あ、そうなんだ。じゃあ、そこにしよっか」
「うんっ」
………
館内巡りも終わって、車へと戻った杏珠と私。
「楽しかった?杏珠」
「うん、去年よりも何倍も何倍も楽しかったよっ!」
「え?どうしてだい?」
「だって…大好きなご主人さまと、誕生日に一緒に居られたんだもん」
「そっか…」
なでなで
私はそんな杏珠の頭を撫でてあげた。
「く…くすぐったいよぉ、ご主人さま」
「でも、気持ちいいでしょ?杏珠」
「うん…」
「あ、そうだった。これ、誕生日プレゼントだよ」
と、私は後部座席から少し大きめな箱を出して杏珠に手渡した。
「開けてみていい?」
「もちろんだよ」
ぱこっ
「あれ?これって…」
「うん、新しい靴だよ。杏珠には、いつまでも私の周りを駆けていて欲しいからね」
「う…ありがとっ!ご主人さま」
チュッ
杏珠の感謝の唇が私の唇へと重ねられた。
「この靴、大切にするね」
「うん。よし…そろそろ帰ろうか、二人も心配してるかもしれないしね」
「そうだね、ご主人さま」
二人を乗せた車に、家へと向かうためのエンジンが掛けられた…
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あとがき
ひっさびさのBSSですね、雅です。
またもや、当日仕上げ。悪い傾向だなぁ…。
そろそろ卒研も忙しくなってきまして、こんなことをやっている余裕も少なくなってきました…。
ま、息抜きに書きましたこのSS、何だか出来が微妙な気がします。
それはともかく…誕生日おめでとう、杏珠。
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2003・10・06WED
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