Farness Million Light Year (100万光年の彼方)

それは秋も長月の終わりのこと…
「ご主人さま…」
「何だい?あかね」
「ちょっと…いいかな?」
「何かは分からないけど、どうしたんだい?」
「ちょっと…話を聞いて欲しいんだ…」
「どんな話なんだい?」
「本当に…ちょっとした話なんだ…」
「まあ、みんなも居ないことだし聞いてあげるよ」
「ありがとう…ご主人さま…」
ぽふっ
あかねはご主人さまの膝を枕に寝転んだ。
「あかねっ!?」
「ご主人さまの脚…温かい…」
「あかね…まあいっか。それで、どんな話なの?」
「えっと…ご主人さまは…私たちがこんな風な姿で…戻ってくると思ってた?」
「えっ!?」
「どうなの…?」
「正直言えば、戻ってくるとは思ってなかったけど…」
「けど?」
「えっと…その前にちょっと膝、いいかな?ちょっと痺れてきちゃったよ」
「あ、うん」
何だか名残惜しそうに頭を上げるあかね。
「じゃあ僕も寝転がろうかな」
ごろんっ ぽんっ
と、寝転がり腕を差し出すご主人さま。
「あかね、ここに頭乗せなよ」
「え…いいの…?」
「いいよ、膝の代わりだからさ」
「それなら…」
ぽふっ すりすり
あかねは頭を乗せついでに、ご主人さまの腕にほお擦りした。
「く・くすぐったいよ、あかね」
「だって…ご主人さまの腕が…気持ちいいから…」
「まあ、いいけどさ」
「それで…さっきの話の続きは…?」
「うん、確かに戻ってくるとは思わなかったよ。でもさ…」
ぎゅっ
「!?」
ご主人さまは腕枕の腕をそのまま引き寄せて、そのままあかねを抱きしめた。
「こうして戻ってきてくれたみんなが現実にいる、だから…」
「………」
「だからさ、思ってたとか思ってなかったじゃないんだ」
「…そっか…」
ぎゅぅっ
あかねもご主人さまを抱きしめ返した。
「私…ここに来る前は不安だったんだ…」
「え!?」
「母さんを銃で殺されて…私自身だって撃たれて死んだから…」
「………」
「だから…他の人を信じることが出来なかった…」
「………」
「だけど私は、遠くに居るご主人さまのために…なりたかったんだ…」
「そっか…」
「ご主人さまの居る世界が…100万光年の彼方にあったとしても…」
「まあ、今の僕たちは100cmも離れてないけどね」
「そんな、ちゃかさないで…ご主人さま」
「ごめんごめん、話を続けて」
「でも…私は一つだけ、めいどの世界に居た時に…悪い想像をしてしまったんだ」
「どんなだい?」
「ご主人さまのことも…信じれないんじゃないか…って」
「………」
「でも、転生してきた時に…それが杞憂だって分かったんだ…」
「どうしてだい?」
「ご主人さまが…私の名前を覚えててくれたから…」
「………」
「それから…抱きしめてくれた時のご主人さまの温もり…昔のままだった…。だから…」
ピタッ
ご主人さまはあかねの唇を人差し指で制した。
「それ以上は言わなくていいさ、あかね」
「ご主人さま…」
ぎゅうっ
あかねはご主人さまを抱きしめる力を一層強めた。
「僕だってさ、あかねが死んじゃった時に…ものすごく泣いちゃったんだよ」
「えっ…!?」
「それはもう、山中に響き渡るくらいにね」
「ご主人さま…そんなに私のこと…」
「だって、目の前であかねの命が奪われたんだから」
「………」
「でも…今、そのあかねがこうしてすぐそばに居る…あの時の涙が、形になったのかなってね」
「フフッ…ご主人さま…もしかしたらそうかもしれないかな…」
「だから…今、本当に幸せだなって思ってるよ」
「うん…私も…」
二人はしばらく言葉も無く抱き合っていた…。
「あ、そういえばご主人さま…私たちが強制的に…めいどの世界に戻された時のこと…覚えてる?」
「ん?うん、覚えてるさ。だって突然みんながいなくなっちゃうなんて…」
「私も…突然ご主人さまから引き離されるなんて…思ってもみなかった…」
「あの時ほど、悲しかった事は無かったさ」
「あの時…私たち8人は必死になって祈ったんだ…『ご主人さま…4人のことを思い出してあげて…』って」
「ゆきさん達のこと?」
「うん…」
「そっか…僕の頭の中に突然飛び込んできたビジョンは、その祈りからだったんだ」
「だって…ご主人さまに、思い出して欲しかったから…それと…」
「それと?」
「ご主人さまの許に…戻りたかったから…」
「そっか…」
くしゃくしゃくしゃ
ご主人さまはあかねの頭を撫でてやった。
「く・くすぐったいよ…ご主人さま…」
「でも君たちのおかげで、みんなが戻ってきたんだと思う」
「そんな…私たちのおかげだなんて…」
「みんなが戻ってきてくれなかったら、僕は今…生きていられるかなって思ったりしたし」
「ご主人さま…」
「だから…ありがとう…」
チュッ
ご主人さまはあかねへとそっと口付けをした。
「う…ご・ご主人さま…(ぽっ)」
ぽふっ
あかねは紅くなった顔を見られないように、ご主人さまを強く抱きしめたままご主人さまの胸へと潜り込んでいった。
それは空が秋の澄んだ茜色になった夕刻のことであった…

あとがき
どうも、雅です。
書き下ろし第3弾です。
あかね祭りに参戦ということで、あかねとアカネの誕生日の真ん中に書き上げました。
実はテスト3日目くらいから書き始めた代物でして…ふう、九月中に間に合ってよかった。
この作品のタイトルは、私の好きなアーティストの曲名(日本語の方)のまんまです。
何だかいい感じの曲名なので使ってしまいました。実は随所に曲の内容が練りこまれています。
まあ兎にも角にも、読んでいただきありがとうございました。
 
2004/09/30 THU Written by 雅