Vermilion's Repose(朱色の安らぎ)
雪も盛りが過ぎたが、まだまだ寒いある日…
「ふにゃ〜、火燵が気持ち良いです〜」
たまみは一人、火燵で体を丸くしていた。するとそこに、
「あれ?たまみ、一人かい?」
ご主人さまが火燵に入ってきた。
「あ、ご主人さま。はい、そうですが」
「それじゃあ、一緒に入ってようかな」
「え…あ…(え、ご主人さまと二人きりで…)」
たまみは少しだけ顔を紅らめた。
「どうしたんだい?たまみ」
「こ…珈琲をいれてきますっ!」
恥ずかしさからか、たまみはその場から逃げ出すかの様に台所へと去っていった。
5分後…
コポポポポ
2人の粉の入ったカップに、今し方沸騰したばかりのお湯が注がれた。
「ご主人さま、お砂糖と牛乳は要りますか?」
「あ、それじゃあ牛乳だけもらえるかな」
「はい、それではお持ちしますね」
火燵の上に2つのカップが置かれた。
「それじゃあ戴くね」
「どうぞ、ご主人さま」
フーフー ゴクッ
「うん、美味しいよ、たまみ…ってそうか、たまみは猫舌だったっけか」
ご主人さまの向かい側には、カップを懸命に吹いているたまみの姿があった。
「え…フーフー…ご主人さま…フー…ありがとうございます」
ゴクッ
たまみはようやく珈琲に口をつけた。
「うっ…熱っ!」
「だ…大丈夫かい、たまみ。ちょっと口の中見せて」
「え…は・はい」
たまみはご主人さまの隣に移って口を開けた。
「あ、ホントだ。舌が赤くなってるよ」
「やっぱりそうですか…」
「じゃあ早く治る様におまじない」
チュッ レロレロッ
ご主人さまはたまみの口の中に舌を差し入れた。
「ご…ご主人さま…」
「よしっ、これで大丈夫だね」
「は…はい」
そんな擦った揉んだがあって10分後、
「あ、そういえば明日はたまみの誕生日だよね」
「はい、そうですけど」
「何か欲しい物ってある?」
「え…欲しい物…ですか?」
「うん、たまみが欲しそうなそろばんとか電卓とか色々と見たんだけど、いまいちしっくりとくる物が無くてね…」
「欲しいもの…ご主人さまとの時間…なんて無理ですよね」
ポフッ
そう言いながらたまみは、ご主人さまの膝に頭を預けた。
「それでもいいんじゃないかな」
「え?」
「たまみが明日、一人だけで僕をお守りするっていうのはどう?」
「えっ…いいのですか?」
「たまみの誕生日だし、たまみがそれでいいなら…ねっ」
「でも…たまみだけがご主人さまのお世話を独占するなんて…またみんなに怒られちゃう…」
「そんなこと、気にしなくてもいいよ。みんなには僕から言っておくからさ」
「そんな、ご主人さまに手間を掛けさせてまで…」
「いいってことだよ。たまにはそういうのもありかと思ってたしね」
「じゃ…じゃあお願いします(素直な気持ち…言ってみて良かった…)」
その夜、2人はその旨をみんなに話した。みんなは少し渋った者もいたが、快く承諾してくれた。
「みなさん、ありがとうございます」
「たまみ、それじゃぁ明日はよろしくね」
「はいっ!」
そして翌日の朝6時…
「ご主人さま、起きて下さい」
ガバッ
たまみはご主人さまの蒲団を思い切り剥いだ。
「うっ…たまみ、もう少しだけ眠らせてよ〜」
「だめですよ、健康のためにはこれくらい早く起きた方がいいんです」
「じ…じゃあ起きようかな…」
「はい、それでは蒲団をおたたみしますね」
「う…うん。あ、朝ご飯は出来てるの?たまみ」
「はい、もう出来てます。一緒に食べましょう」
「うん、じゃあ僕がテーブルを出すよ」
「お願いしますね、ご主人さま」
「「いただきまーす」」
二人の楽しい朝食が始まった。
「このおみそ汁美味しいよ、たまみ」
「ありがとうございます、ご主人さま。よかった…ご主人さまの事を思って作ったかいがありました」
「えっ…僕の事?」
「はい、ご飯もおみそ汁も焼き魚も、みんなご主人さまの事を思って作りました」
「うん、どれも美味しいよ、たまみ」
「ありがとうございます、ご主人さま。そう言ってもらえると嬉しいです」
「あ、たまみ」
「え、何です?ご主人さま」
「ほっぺにご飯粒が付いてるよ」
「えっ、どの辺ですか?」
「取ってあげるよ」
サッ パクッ
たまみの頬に付いていたご飯粒は、ご主人さまの口の中へと場所を移した。
「ご…ご主人さま!」
たまみは少しだけ顔を紅らめた。そんな事を知ってか知らずか…
「ごちそうさまでした、たまみ」
ご主人さまはただそう言った。
「それじゃあバイト、行ってくるね。今日は土曜日だから早く終わると思うから」
「はい、ご主人さま。いってらっしゃいませ」
ご主人さまが見えなくなったことを見計らって、
「ご主人さまが帰ってくるまでに、家の仕事を済ませておきましょうか」
たまみは家に入った。
…4時間後…
「ふー、これで終わりました」
洗い物、洗濯、掃除、昼食作りとたまみはそつなくこなしていった。すると…
「ただいま、たまみ。お、美味しそうな香りだね」
「お帰りなさい、ご主人さま。今、昼ご飯が出来たところですので一緒に食べましょう」
「そうだね、このために何とか午前中に終わらせてきたからね」
「あ、その前にご主人さま、手を洗ってきてください。冬場なので風邪をひきやすくなってますのでね」
「うん、分かった。大事な天使に風邪なんかうつしたら大変だしね」
「あ、ご主人さまうがいもですよー」
ジャー ガラガラペッ
「うん、いってきたよ。あれ?昼ご飯は朝とは違って洋食かい?」
「はい、たまみの好きな料理です…ご主人さまのお口に合えばいいのですが」
「天使が心をこめて作った料理だもん、口に合わないわけが無いよ」
「それでは食べましょ、こんな事を話している間にせっかくのお料理が冷めちゃいますので」
「そうだったね、それじゃぁいただきます」
「どうぞ召し上がってください、ご主人さま」
こうして昼食も終わり、
「ご主人さま、夕方になったら買い物を手伝ってもらえませんか?」
キュッキュッ
洗い物を終えたたまみがご主人さまに聞いた。
「え、買い物かい?それくらいならいいよ」
「それでは4時半に出掛けましょう」
「うん、分かったよ。でも何で4時半なの?」
「それは…特売の時間ですから」
「あ…なるほどね」
それから3時間後…
「ご主人さま、そろそろ行きましょう」
「うん、そうだね」
ガチャッ バタン
二人は街へと出掛けていった。
「今日は何が安いんだい?」
「えっと…卵と牛乳とそれから…そうそう、あとは玉ねぎが安いです」
「そういえばたまみやななって、玉ねぎとかねぎは大丈夫なのかい?」
「え、大丈夫ですけど?」
たまみは頭の上に大きな?を浮かべた。
「猫や犬って、ねぎの酵素が血液の細胞を壊すって聞いた事があったからさ」
「な〜んだ、そういう事だったんですか。大丈夫ですよ、もう人間の姿に転生しているんで」
…そんな事を話しながら二人は仲良く買い物をした。
「「ただいま〜」」
二人が家に戻る頃には、もう太陽は空から消えかかっていた。
「ご主人さま、すぐに夕食の準備をしますね」
「あ、ゆっくりでいいよ。確かお風呂、沸いてたよね」
「はい、確かこの時間に沸くようにしてあります」
「じゃあ、先に入ってくるよ」
「着替えの方をお持ちしましょうか?」
「いいよ、それくらいは自分でやるからたまみは夕食を作っててよ」
「分かりました、ご主人さま」
「あ〜、いい湯だった」
「ご主人さま、お上がりですか。ちょうど夕食も出来たので、今そちらにお運びしますね」
「あ、何か手伝おうか?たまみ」
「えっとじゃあ、おみそ汁をお願いします」
「ここでいいかい?」
「はい。ご主人さま、ご飯です。あとおかずがこれとこれです」
「ありがと、じゃ食べようか」
「そうですね、それではいただきます」
「いただきます」
夕食も食べ終わり…
「ご主人さま、ちょっといいですか?」
「何だい?たまみ」
「ひざ枕…してくれませんか?」
「いいよ、こっち来て」
ポフッ
たまみはご主人さまの膝に頭をあずけた。
「ご主人さま、今日は色々とありがとうございました」
「こちらこそ、今日は一人で大変だったんじゃない?」
「はい、久しぶりにこれだけ働きました」
「お疲れ様、たまみ」
「ありがとうございます、ご主人さま」
しばらくすると…
スースー
ご主人さまの膝の上で、いつのまにかたまみは寝息をたてていた。
サラサラサラ
ご主人さまはたまみの髪を優しくなでてあげた。
「おつかれさま…たまみ…」
ご主人さまはそう言って、
チュッ
キスをした、そして…
「誕生日おめでとう…たまみ」
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あとがき
今回のSSはPHS完全執筆の4本目です。
たまみはそんなに好きなキャラでもなかったんで短くなると思いきや…
結果的に今までのBSSで最長になってしまいました。
今回、このパターンを使ってしまったので、さてどうする?私。(笑)
あと、今回はタイトル付けにかなり苦しみました。
心残りな事は…ゆきさん以上の記録にならなかった事(39日前)…かな。
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2003・01・14TUE
雅