Sunlight get out of Verdure(新緑の木洩れ日)

「さて…どうしたものか…うーん…」
6月も終わりそうな頃のある日のこと、ご主人さまはあることを悩んでいた。
「今年で5年目か…どこに連れてってあげようかな…」
そう、もうすぐももの誕生日。今年で5年目となるとどこに行くか迷うのも無理は無い。
「うーん…これは本人に直接聞いてみたほうがよさそうだな」
と、ご主人さまはももの許へと向かった。
 
………
「そういうわけなんだけどさ、ももは今年どこに行きたいかな?」
「ももがですか…?えっと…うーん…」
と、張本人のももでさえすっかり閉口してしまった。
「じゃあ何か、この誕生日にしてみたいことはある?」
「え…あ…それなら一つだけあるんです、けど…」
「ん?だけど何なの?もも」
「ちょっと…ご主人さまに迷惑かけたくないです…」
「でも、言ってみなくちゃわからないよ。僕に迷惑が掛かるかなんて」
「でも…」
「言ってごらんよ、もも。行けない場所なら無理だって言うからさ」
「あの…ご主人さま、やっぱり行ってみたい場所なんですけど…えっと…」
「ん?別にいいよ。ももが行きたい所ならどこでも案内してあげる」
「ご主人さまの学校に…行ってみたいです…」
「え…僕のかい?」
「はい…ご主人さまが行っていた学校を…見てみたいです…」
「うん、でもちょっと遠いから…ちょっと待ってね」
ピッピッピッピッピッ
「もしもし、晶」
『はい、何でしょう?先輩。』
「車、出せないかな?今度の土曜日なんだけど」
『今度の土曜日って…1日ですよね?』
「ああ、ダメかな?」
『んー、たぶん大丈夫かと思います。1日だけでいいんですよね?』
「うん、今回は泊まりの用事でもないからさ。2日に何かあるのか?」
『はい、30日までちょっと遠出してて、2日にまた出なくちゃなんで』
「良かった、ちょうど空きなんだな」
『はい、それじゃあ1日に持って行きますね。何時がいいですか?』
「そうだな…それなりに早い時間にしてくれないか?」
『そうですね…じゃあ8時くらいでいいですか?』
「ああ、じゃあ頼むよ晶」
『はいー、分かりましたー』
ピッ
「うん、もも。大丈夫そうだよ。ちょっと遠いから、当日は8時に出るよ」
「はい…分かりましたご主人さま」
「でもどうして僕の学校なんて見たいの?もも」
「え…あ・あの…ご主人さまの昔の場所を…見てみたいからです…」
「僕の昔の場所かい?そういえば誰にも見せたことはなかったっけ」
「えっ…そうだったのですか?」
「確かそうだったはずだな、僕が覚えている限りはね」
「何だか嬉しいです…ももがご主人さまの場所の初めてになれるなんて…」
「そう言われると何だか照れちゃうな。よし、じゃあ土曜日は一緒にね」
「はい、ご主人さま」
こうしてこの日は暮れていった…。
そして当日…
「もも…もも、起きて」
「ん…んんーっ…あ、おはようございます、ご主人さま」
「おはようもも。今日のももはお寝坊さんだね」
「え…今何時ですか?ご主人さま」
「もう7時半だよ。昨日6時に起きるって言ってなかったっけ?」
「…あっ…ごめんなさいご主人さま。せっかくご主人さまのために…んっ…お弁当を作ろうって思ってたのに…」
「う…泣かないでよもも。ご飯なんか近くで買っていけば良いんだしさ」
「でも…っく…でも…」
「僕はもものその気持ちだけで嬉しいからさ。ほら、早く行けるように準備しようよ」
「う…は・はい…」
………
その後、車に乗り込んでもまだももの気分は沈んだままだった。
「もも、いつまでも落ち込んでないでさ、元気出して」
「え・えっと…はい…」
「そんな風にいつまでも落ち込んでいると、もものこと嫌いになっちゃうよ」
「ご・ご主人さま…」
「もう終わっちゃったことを悔やんだってしょうがないんだからね」
「は・はい」
「だからせっかくのももの誕生日なんだからさ、涙を見せるのはやめよ」
「そうですね、ご主人さま」
ももの顔に少しではあるが笑顔が取り戻されてきた。
「よし、それじゃあそこのコンビニに寄って朝ご飯と昼ご飯を買って行こう」
「はい、ご主人さま」
ももの顔にさっきまでの悲しみは無くなっていた。
………
「…ここがご主人さまの学校なんですね…」
「うん。僕が居た頃に比べたら外も中も、だいぶ改装されてるみたいだけれどさ」
「ご主人さまが子供の頃って、どんなだったんですか?」
「僕がここに居た頃かい?今と同じだよほとんど。でもあの頃はもうちょっとアクティブだったかもね」
「アクティブ…ですか?」
「うん、いつもこの近くの森とか山に行ってたかな。近くだから連れてってあげるよ」
「はい…」
「ついでにさ、ご飯を持ってってそこで昼食にしよう」
「はい…ご主人さま」
………
そして着いたのはこの学校近くの森。
「ここはね、みんなとよく来ることもあったけど、一人で来ることも多かったんだ」
「どうしてですか…?」
「とっても静かだったからさ、ゆっくりできる場所だったんだ」
「はい…本当に静かですね…」
「だから、ここは僕の原点なのかもしれないな」
「ご主人さまの…原点…」
「よし、そろそろ昼ご飯にしようよ。この森の中でさ」
「そうですね、ご主人さま」
二人だけの誰にも邪魔されないお昼ご飯が、新緑の木漏れ日が差し込む中で静かに始まった…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
2006年度BSS3本目です。
ももSS、久し振りに書いたらちょっと微妙になっちゃったかも。
これから本格的に忙しくなってくる6月下旬。
それでもまだまだ止まりません、そして止めませんっ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2006・06・22THU
短編小説に戻る