Tenuto Brilliant Feel(持続した光輝く想い)

「どうしたんだい?ゆきさん。そんな怖気づくなんて」
「そうは言いましても…」
「そんなことを言ったって、これを言い出したのはゆきさんの方じゃないか」
「怖いんです…もう幾年が経っているというのに…」
「僕だってそうだから、一昨年のあかねの時も同じことを感じたよ…」
ここはとある場所にある石段の前。
「ここまで来たんだし…じゃあ僕だけが行くから待っててよ」
「えっ…い、行きます。待ってください…」
「本当にいいんだね?」
「はい…覚悟は出来ました」
「よし、じゃあ上がろう」
二人はその石段を一歩ずつ登り始めた…
………
「あの時の…ままですね…」
「…うん」
「何もかも変わらなくて…」
「…本当に…」
「ご主人さま…一つだけよろしいですか?」
「何だい?ゆきさん」
「あの時出来なかったことを…していただけますか?」
「あの時出来なかったこと?」
「私を…抱きしめていただけませんか?」
「…いいよ。ここに居た頃は逆だったからさ」
「ゆきさん…ですね」
「うん…僕にとっては最初のお姉さんみたいな存在だったな」
「私の…モデルになった方…」
「思い出の奥底に封じ込めて居たんだっけか…」
「でも…それでもご主人さまは思い出して下さいまし…」
ぎゅっ
ゆきはご主人さまへと力の限り抱きついた。
「ううっ…怖かったんです…本当はここに来ることが…」
ぎゅうっ
ご主人さまはゆきを抱きしめ返した。
「僕もだよ…良い思い出も怖い思い出も全てここにあったから…」
「しばらく…こうして下さいますか?」
「うん…」
二人は焼け跡の前で時が止まったかのようにしばらく抱き合っていた…
………
「ご主人さま、ここはあれからあのままなのですよね?」
「確か消火作業の後は、現場検証で亡骸を出した以外は何も動かしていないって聞いてるけど」
「あの…一つだけ探したい物があるのですが」
「いいけど、何か憶えてるの?」
「はい…手伝ってもらえませんか?」
「いいよ。どの辺なの?」
「確か…ゆきさんの部屋がある場所なので…左の奥の部屋でした」
「分かった、探してみよう。ここまで来たら乗りかかった船だしね」
 
「あ!ゆきさん、これのこと?」
「それです!ご主人さま、ありがとうございます!」
二人が探し始めて20分、ご主人さまは土の上で光る物を見つけた
「あの炎で燃えなかったんだ…」
「嬉しいです…ゆきさんが生きていた証…」
「ゆきさんの指に入るかな?」
「いえ、無理でしょう。やはり多少変形してますし」
「それじゃあどうしよう?街に戻った時に直してもらう?」
「思い出として、このままの形で取っておきたいですが…」
「いや、それはやめようよ」
「えっ?」
「それは確かにゆきさんが生きていた証かもしれないよ。でも、今ここに生きているのは…」
チュッ
「ご・ご主人さま!?」
「ゆきさんなんだよ。だからそれはゆきさんが着けるべき物だと思う」
「ご主人さまがそうおっしゃるなら…そうですね」
「その方がゆきさんも喜んでくれる、と僕はそう思うよ」
「はい…」
「まだあるかな?」
「いえ、確かあとは無いと思います」
「いや、心残りだよ。ここで遣り残したこととかはあるかなって」
ゆきは確かな眼差しでご主人さまを見つめて
「いえ、ありません」
「ゆきさんがそう言うなら、行こうか…」
「はい、ご主人さま」
「あ、そうだゆきさん」
「何でしょう?ご主人さま」
「手、繋ごうか」
「…そうですね」
ぎゅっ
二人の手が重ねられて、そしてしっかりと握られた。
………
場所は変わって、ここは二人が泊まっている旅館の家族風呂…
「やっぱり、何だか色々と思い出しちゃったな」
「そうですね…」
「でもさ、今思うと来れて良かったって思うよ」
「私もそう思います。あの頃のゆきさんの想いも分かった気がしますから」
「ゆきさんの想い?」
「ご主人さまのことが好きだったという想いです」
「えっ…ど、どうして…?」
「感じたんです…あの指輪を受け取った時に」
「そうなんだ、ゆきさんが…か」
「でも、それは今も続いています…ね」
「そうなのかな?」
「私がご主人さまを好きでいることが…何よりの証拠です」
「そう言われると、何だか少し恥ずかしいな」
「ご主人さま」
「何だい?ゆ…」
チュウッ
「ゆきさんっ!?」
「証拠…ですからね」
「…うん…」
二人は寄り添って湯船へと浸かり続けていた…
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あとがき
雅です。残すところオリジナル守護天使を入れて3本となりました。
今作は過去への回帰をテーマとしてみました…ちょっと暗くなってしまいましたね。
あ、そうそう連絡です。
ちょっと今、来年度までやるかどうかを検討しています。決まったら報告しますので。
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2008・02・02SAT
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