Atmosphere of Kyo Spacing(京間の趣)
段々と寒くなってきた初冬の頃のこと…
「今日はお手数をお掛けしまして、本当に申し訳ありませんわ」
「いいんだよ。こんな時くらいお使いに付き合ってあげないと」
「しかし、ご主人さまの手をこんなにも煩わせるなんて、本当はいけないことですわ」
「でも、こんな重いものを女の子に持たせることこそ、男としてダメなことだよ」
「…優しいですわ、ご主人さま…」
「そうかな?よく分からないけどさ」
そんな二人の手には買い物袋が幾つもぶら下がっていた。
「ところでさ、今日のおかずって何なのかな?材料から想像付かないんだけど」
「今日はですね、豆乳キムチ鍋だったと思いますわ」
「そういうことか…どうりで豆乳があったわけだ」
「こんな寒い日には、温かいお鍋を一緒に囲むのがいいですわね」
「うん、そういえばカセットコンロってガスは残ってたっけ?」
「確かまだ、ボンベが一本あったはずですわ」
「それなら大丈夫だね、今日は確かあゆみとらんとくるみと…」
「あとはみどりちゃんとたまみちゃんとももちゃんですわ」
「くるみがいるんだ…今日もなかなかの争奪戦になりそうだなあ」
「フフフ、そうですわね。今日は材料を十人分用意してありますが、どうなりますか…」
「ま、とりあえず寒いし急ごうか。ちょっと手が悴んできちゃったよ」
「私もですわ。それでは急ぎましょう」
二人は早い夕暮れの家路を少し早足になりながら帰っていった…。
「ちょっといいかな?あゆみ」
「は・はい、何でしょう?ご主人さま」
食事の後、まったりしているあゆみの許へとご主人さまがやってきた。
「今週末なんだけどさ、あゆみの誕生日だったよね?」
「今週末と言いますと…16日…あ、はい。そういえばそうですわ」
「いやさ、あゆみは行きたい所ってあるかなと思ったんだけどさ」
「そうですわね…うーん…少しお時間は戴けませんか?」
「いいよ。でも車の手配もあるからさ、なるべく早めにお願いできるかな?」
「分かりましたわ。あ、車の手配だけはお願いできますでしょうか?」
「あ、行きたい所って大体固まってるの?」
「はい。どちらにしてもここからは少し遠い場所ですので…」
「ん、分かった。とりあえず車だけは手配しておくよ」
ピッピッピッピッピッ
『もしもし、晶です。先輩、どうされたんですか?』
「えっと、今週末なんだけど…大丈夫かな?」
『今週末ですか?ちょっと待ってくださいね…うーん、何時頃になりそうですか?』
「ちょっとまだ分からないんだけどさ、時間が分かった方がいいかな?」
『そうですね。朝方にこっちに戻ってくる予定なので、その時間以外なら何とかなるんですけど』
「ちょっと待ってね。あゆみ、何時くらいから出かけたい?」
「あまり早くなくてもいいですわ。9時くらいでいいですわ」
「うん、分かったあゆみ。9時くらいから大丈夫か?晶」
『そうですね、それくらいなら帰ってるので大丈夫です』
「それじゃあお願いな、いつもの通りここに9時な」
『分かりました、それでは失礼しますー』
ピッ
「とりあえず車は確保できたよ」
「ありがとうございます。それでは、なるべく早いうちにお知らせしますわ」
「まあ別に、当日までの楽しみでもいいけどね」
「それもそうですが…そうですわね、それでもいいかもしれませんわ」
「よし、決まりっと。それじゃ、着替えの用意お願いできるかな?風呂に入ってくるよ」
「お風呂ですわね、分かりましたわ。パジャマでよろしいですわね?」
「うん。そうだ、あゆみも一緒に入るかい?」
「え?え・そ・そんなことはいけませんわ。殿方と一緒のお風呂だなんて、ましてはご主人さまとだなんて…」
「いや、冗談だよ冗談。でも、一緒に入りたそうだね?その言葉尻からしてさ」
「ん…それはそうですが…でも…」
「去年のこともあったしさ、別に僕はあゆみのことは知らないわけではないんだけどね」
「もうっ、ご主人さま。早くお風呂に入ってきてくださいなっ」
そんなあゆみの顔は、少しむすっとしているものの、恥ずかしさからかすっかり紅くなっていた。
「ゴメンゴメンあゆみ、それじゃあよろしくね」
ご主人さまはそそくさと風呂場へと去っていった…
そして当日、結局のところ当日までご主人さまは行き先を知らされなかったという…
「それじゃあ、ナビゲーションの方頼むよ」
「分かりました、ちょっと遠いですがお願いしますわ」
「それでまずはどっちに行けばいいの?」
「えっと…この道をしばらくずっとまっすぐですわね。曲がるのはかなり先になります」
「了解、曲がる場所になったら教えてね」
「了解です、今日の行き先は少し山奥になりますわ」
「山奥か…この車なら大丈夫かな」
二人を乗せた車は、一路目的地へと進んでいく…
小一時間ほど経って着いた場所、それは…
「ここって…お寺だよね?」
「はい、今日はちょうどよく開放日でして、一度この中を見てみたかったので…」
「そういうことか、なるほどね」
「ここの建築様式は綺麗で荘厳らしいので、一篇見てみたかったのですわ」
「確かにこんな山奥だと、来るにも来れないか…」
ここに来るまでに九十九折の道を数十分、実にその山の7合目ほどにあるお寺であった。
「中に入りましょう、ご主人さま」
「そうだね、あゆみ」
二人は中へと入っていった…。
「どうして今日はここにしたんだい?」
「誕生日といういい機会ですから、ちょうど良いかと思いまして。それに…」
「え?それに?」
「それにこういう静かな場所で、ご主人さまと二人きりになるのも悪くはないですわ」
「あ・あゆみ…」
確かに開放日とは言え、季節は冬の寒い中で来る人などよほどの物好きでしかないだろう。
「ご主人さま」
「何だい?あゆみ」
「ご主人さまの温もりを少し、私に戴けませんか?」
ぴとっ
あゆみはご主人さまへとぴったりと寄り添った。
ぎゅうっ
ご主人さまはそんなあゆみの肩を抱いてあげた。
「ご主人さま…」
「あゆみ…」
京間の趣と二人の愛は、どちらも広く大きくかけがえの無い物になっていた…
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あとがき
2006年度BSS10本目です。
中間発表も終わり、やっと少し落ち着いたので書いてみました。
今回のも一日執筆、あゆみは書きやすいですよ本当に。
あ…そろそろ年賀状ネタも考えないと…今年も趣向は凝らすつもりです、はい。
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2006・11・16THU
雅