Slur the Ends of Ran's Words(言の葉が聞こえなくても…)

「ご主人さまーっ!らんはご主人さまが、…」
………
春風もようやく温み始めてきた頃のこと…
「らん?」
「くぅ…すぅ…」
「…どうしよう…ま、しばらくいいか」
部屋の中とは言え陽だまりの中、らんはうとうとし始めてご主人さまの膝に頭を預けていた。
「でも、本当に良く寝てるな」
つんつんっ
そんならんの頬を突いてみるご主人さま
「んんっ…」
「やばっ、起きて…」
「すぅ…ふぅ…」
「なかったか。良かった…ってどうしようかな」
「んぅっ…ぐぅ…」
「でもそろそろ起こさないとか、らんっ」
ゆさゆさ
「ん…んんっ…あれっ…あっ…」
「おはようらん、よく眠ってたね」
「ご、ご主人さまっ!申し訳ありませんっ!」
「え?何からんは悪いことした?」
「ご主人さまの膝で寝てしまうなんて…」
「いいんだよ、眠たかったんでしょ?それならかまわないさ」
「でも…」
「いいんだってば、気持ちよかったでしょ?」
「はい、とっても…優しい香りがしてて…」
「優しい香り…か」
「気持ちよくて、それでつい…」
「何だかそう言われると、嬉しいような恥ずかしいような感じがするよ」
「えっと…あの、それで私に何かあったんでしょうか?」
「あ、そうだったそうだった。21日だけどさ、どうしたいかなって」
「今年の21日はお休みではないですよね」
「そうだよ、だけど金曜日だから夜から翌日まででもかまわないけど…」
「そうですね…」
「一日一緒のほうがいいならさ、22日でもいいんだよ」
「ご主人さまはどちらの方が良いですか?」
「僕?僕はらんの好きな方でかまわないよ、らんの誕生日だからね」
「私は、えっと…22日でも…いいですか?」
「かまわないよ、と言うことはどこか行きたい所があるんだね?」
「はい。デ、デートでもいいですか?」
「ら、らん…いいよ、そうしよっか」
「お、お願いします…」
「それで、どんなところに行きたいの?」
「それは当日お話ししますね」
「ん、分かったよ」
………
そして当日、その日は少し春の風が吹き荒れる日となっていた。
「今日はちょっと風が強いね、らん」
「そうですね、ちょっといつもよりは」
「寒くない?」
「大丈夫です、ご主人さまこそ大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫さ。それでどこに行くの?」
「えっと…まずはショッピングにしましょう」
「そうだと…この辺?それとも大きな街にする?」
「せっかくですし、大きな街に出たいです」
「それだとまずは電車か。よし、駅まで行こう」
「はい、あの…ご主人さま」
「ん?」
「もし良かったら、その…あの…」
らんは何かを言いたそうにして口を噤んだ。
「ほら、らん」
ご主人さまはそれを察して右手を差し出した
「ご主人さま…はい」
ぎゅっ
らんはその差し出された手をしっかりと握り締めた。
 
「最後に、あの…丘に行きたいんです」
「丘って、あの家の近くのかな?」
「はい、ダメでしょうか?」
「ダメってことはないさ、らんの誕生日だろ」
「はい、それじゃあ行きましょう」
………
「ここも風が強いかな」
「はい…でもそれでもいいです」
「今日の最後はどうしてもここにしたくて…」
「え?どうして…」
「一つやりたかったことがあるんです」
ととととと
と、らんは丘の上の方へと駆け上がり
「ご主人さまーっ!らんはご主人さまが…」
びゅうんっ
その刹那、凄い強風が吹き荒れた。
「…………………!!!」
らんの顔は紅くなりながらも笑顔であった。
たたたたたたたたた
そんならんにご主人さまは近付き…
ぎゅうっ
二本の腕でしっかりと抱き留めた。
「らん、僕もだよ。風のせいで聞こえなかったけどさ、どんなことかは分かってるよ」
「ご主人さま…」
二人の唇の距離は自然と零になっていき…
チュッ
「温かいです…とっても」
「らんもだよ、伝わってくる」
二人はしばらくそのまま動くことは無かった…
………
「ご主人さま、今日はありがとうございました」
「お礼されることもないさ、らんの誕生日なんだしさ」
「それじゃあ帰りましょう、みんなが待っている家に…」
二人の帰り道、夕日が二人を照らし続けていた…
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あとがき
雅です。2007年度最後になりました。
最後は久々のデートネタ、ほのラブにしてみました。
あ、ここで発表します。
2007年度完結の今作で、一旦誕生日SSを終了します。
2008年度以降は書きたいキャラだけ書こうかと思います。(次のみどりは書きますけど。)
と言うわけで6年間という長い間、読んでいただきありがとうございました。
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2008・03・21FRI
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