Ruby's drop(真紅の雫)
それは春を分ける日の事。
「う〜ん、朝だ朝だ」
ご主人さまはいつもと同じように目を覚ました。すると台所から一つの声がした。
「ご主人さま、お目覚めですか?」
「あ、らんおはよう」
「おはようございます、ご主人さま。今日はお休みですのに随分と早いですね」
「え、あれ?そうだっけ?」
カレンダーを見てみるご主人さま、そこには赤い数字と「春分の日」という文字、そしてその下に「らん誕生日」という言葉が書かれていた。
「そっか…もう春分の日なんだ…そういえば随分と暖かくなったなぁ」
「そうですね、もう春ですし」
すると突然ご主人さまが…
「大空に 雀が数羽 鳴いていて 旭が光る 春を分ける日…って感じだね」
「ご主人さま、詩人ですね」
「そ…そうかなぁ?」
「そうですよ、そんなに素晴らしい短歌を即興で作られるなんて、とても素敵です」
「(作者よ、いきなり何を言わせるんだよ…)」
「ご主人さま、何かお考え事ですか?」
「いや、何でもないよ」
「そうですか、ならばいいのですけど」
「あ、そういえばらん、今日はどうする?」
「え、今日は何の日でしたっけ?」
「何の日って…今日はらんの誕生日でしょ」
「え…あっ…そうでした…」
どうやら自分の誕生日を忘れていたご様子のらん。
「で、何をして欲しいのかな?それとも何かが欲しいのかな?」
「え…その…それじゃあ…」
「それじゃあ?」
「今日一日を…一緒に…過‥ご…し…」
バタッ
「え、どうしたんだい?…らん‥らん…」
ゆさゆさ スッ
ご主人さまはらんの体を揺らした後、額に手を当てた。
「あ…らん…凄い熱じゃないか。これはすぐに寝かさないと」
バタン
ご主人さまは自分の蒲団を出して、らんをそこに寝かせた。
その後みんなが起きたのだが、この諸事情を話し今日は一日らんのそばに付く旨を付け加えておいた。みんなはらんの誕生日ということもあり、了承してくれた。
「すみません…ズズッ…ご主人さま。本来ならご奉仕するはずのらんが逆にご奉仕されてしまうなんて…」
ご主人さまが作ったお粥を口にしながらそう話すらん。
「まぁそういうことは気にしなくていいよ。だって、大切な天使が倒れたんだからさ」
「でも…」
「いいんだって気にしなくてさ、それに今日はらんの誕生日だろ」
「そこまでおっしゃるのならば、今日はご主人さまに甘えさせてもらいます」
「うん、そうしたらいいよ。まぁ今はよく眠ってさ、早く治した方がいいかな」
「そうですね、とりあえず今は眠らせていただきます」
「うん、はいこれお薬だよ」
「ありがとうございます、ご主人さま」
ここでご主人さまに少し悪戯心が芽生えた。薬をあげようとした手を急に引っ込めて、らんに背を向けてあることをし始めた。
「???」
振り向いたご主人さまは薬を唇で甘噛みしていた。
「そんな…恥ずかしい…けど…」
らんは少し顔を紅くして躊躇しながらも、
チュッ
キスで薬を受け取った(もちろん水も口移しで)。
「まぁ、早く治るためのおまじないってとこ」
「そんな…ご主人さまにまで風邪がうつってしまいます…」
「その時はその時さ。今度はらんが看病してくれればいいじゃない」
「それはそうですが…」
「ま、今はゆっくり寝てればいいよ」
「はい、そうします。それではおやすみなさい」
「おやすみ、らん」
らんはとりあえずの眠りについた。その間ご主人さまは額のタオルを換えたりしていた。
まぁそんな悶着が昼もあったりなんかして、夕方…すっかり体調を回復させたらんは…
「ご主人さま、色々とありがとうございました…おかげでらんはここまで回復できました…あれ?ご主人さま?」
うつらうつら
ご主人さまは看病疲れからか、あぐらをかいたたまま船を漕いでいた。
「ご主人さま…そんなにお疲れになるまでらんのことを…」
チュゥゥ
らんは自然とご主人さまに口付けをしていた。すると…
パチッ
まるでキスをしているところを、狙いすましたかのようにご主人さまは目を覚ました。
「ん?」
眼前にはらんの顔、しかもキスを交わしている状態…ここでご主人さまは、
ギュッ
「!?」
らんが驚くのも無理は無い。ご主人さまは、らんの腰に腕を絡めたからだ。
「ご…ご主人さまっ!」
突然のことに顔を紅くするらん。
「ごめん、目の前にいたから…ついね…」
「いいんです、ただ…」
「ただ?」
「ただ…もう少しだけ…このままで…」
「うん…いいよ…それをらんが望むのならね」
ご主人さまは慈愛の心を込めてそう言った。互いの温もりを感じ合う為に、らんもご主人さまの背中に腕を廻して強く抱き締めあった。
「ご主人さま…大好きです…」
「僕も…だよ…」
二人とも顔を紅潮させてそう言った。自然とまた二人の顔は近づいて…
チュッ
再度のキス…それはまるでNとSが自然と引き合う磁石のように…。二人が離れたのは、他の守護天使に冷かされたときだった。
夕ご飯も食べ終わり眠る前の蒲団の中、
「ご主人さま、今日は本当にありがとうございました」
「どういたしまして、でも治ってよかったね、らん」
「はい、ご主人さまの看病のおかげです」
「そこまで言われると照れるなぁ」
「それでご主人さま、最後に一つだけらんのお願いを聞いてくれますか?」
「いいよ…何だい?」
「らんと同じ蒲団で…寝てもらえませんか?」
「…うん、いいよ。誕生日プレゼントもまだ渡してなかったし」
「じゃぁ、こちらにどうぞ」
「…でもらんの布団じゃちょっと狭いからさ、らんがこっちに来なよ」
「はい、じゃあそっちに行かせていただきます」
スッ
らんはご主人さまの蒲団に移った。
「ご主人さま…温かいです」
「らんも…温かいよ」
らんはご主人さまの蒲団の中で微睡み始めた。
「らん…らん?」
「は…はい、何でしょう?ご主人さま」
「え、何ってプレゼントだよ」
「あ、そうでしたね」
「じゃあ付けてあげる」
「はい…お願いします」
カチッ
ご主人さまはらんの首の後ろに手を入れて、ネックレスを付けてあげた。そのネックレスには紅い雫型の硝子が付いていた。
「ご主人さま…ありがとうございます…」
らんは蒲団の中でご主人さまのパジャマに涙を零した。ご主人さまに涙と紅い顔を見られるのがよっぽど恥ずかしかったのだろう。
「今日は何も出来ませんでしたけど、これはお礼の気持ちです」
チュッ
らんはご主人さまにキスをした。そしてご主人さまの温もりを感じながら眠りについたという…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
今回のSSはPHS完全執筆の5本目です。
この作品の内容が微妙にHくなってるのにはちょっと訳があります。
正直に白状いたしますと、これとほぼ同時進行で別の小説も書いておりました(18禁)。
ただそれだけです。(かなり妄想が暴走気味になってます。)
まぁとりあえずこれで12人分の誕生日小説は終了いたしました。
ここまで読んでくれた皆さん、本当に御礼を申し上げます。ありがとうございました。
2年目は3月までに気が向いたら書こうかと思いますがその可能性は低いです。(今度は季節ものかな?)
ちなみに誕生日小説の最速記録はこの作品となりました。(44日前)
それでは皆さんまたの機会に〜。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2003・02・05WED
雅