Autumn Requiem(秋の鎮魂曲)

「もう…すっかり秋だね…」
秋風たなびく公園に、あかねはいた。
「そうだね…みかの誕生日の頃はまだ暑さも残ってたけど、さすがにもう暑くはないね」
ご主人さまはその後ろに立っていた。
そう、今日は秋分。ここからいよいよ日は短くなり、本格的な秋が呼び込まれてくる。そんなことを感じさせる日であった。
びゅうんっ
そんな二人の横を一陣の風が猛スピードで駆け抜けていった。
「うわっ!すごい風だ、ご主人さま」
「うん。…あれ?なんで僕たちはこんな所に来てるんだっけ?」
「なんだいご主人さま、忘れたのかい?今日は私の誕生日だから一緒に出掛けているんじゃないか」
「あ、そうだった。ゴメン、あかね」
「まったく…まぁいいか…。こうして…ご主人さまと過ごす時間を貰えたのだから…」
「あ、こんなところで立ちっぱなしもなんだからさ、そこのベンチに座ろうよ」
「そうだね」
 
そうしてベンチに座った二人。
「あかね、これからどこに行きたい?」
「え?私が行きたいところ?」
「うん、あかねの行きたい所ならどこでもいいよ」
「そんなこと急に言われても…ご主人さまと一緒にいられるだけで…それだけでいいよ」
「でもさ、どこか行きたい所ってないの?」
「だったら…そうだな…少し静かなところがいいかな」
「静かなところ…じゃぁ海岸なんてどう?」
「うん…もう秋だし…いいかな…」
「じゃぁ行こう、あかね」
「うん…」
二人は近くの海岸へと向かっていった。
 
ザザーン
そこはもう秋の風が吹き抜ける海岸、二人以外に沖のサーファーを除く人影は無かった。
「潮風が気持ちいいね、あかね」
「うん、ちょっと風が強いけど」
「でもいいね、この時期の海岸ってさ」
「あ、うん。この雰囲気は好きだな…」
二人はしばらく何も話さず海岸を歩いていた。無論、ご主人さまが差し出した手をあかねはぎゅっと離さずに…。
 
「あ、あれ…」
「どうしたんだい?あかね」
「あの光ってるもの…何だろう…」
「本当だ、いったい何かな?」
ざっざっざっ
二人はそれに駆け寄った。
「あ…これって…ビー玉だ」
「本当だ…なんでこんな所に落ちてる…あ!そうか…これも夏の名残だな…」
「え…どうして?」
「だってこれは多分、ラムネに入っていたビー球だと思うよ」
「そっか…夏ももう…終わったんだね…」
「うん…今日はもう秋分だしね」
「それも寂しいものだね…ちょっと…」
「でも、これが日本の四季ってやつだから」
「それも…そうだね…。あ…ご主人さま…」
「なんだい?あかね」
「手…繋がせて…」
「…うん、いいよ」
ぎゅっ
あかねは手を通してご主人さまの温もりを感じていた。
ぽっ
その温もりにあかねは少しだけ顔を紅くした。ふと、あかねがご主人さまを見上げると…
かぁっ
ご主人さまも頬を少し紅くしていたのだ、気恥ずかしさがやっぱりあったのだろう。
「(ご主人さま…少し顔が紅くなってる…こうなったら…えいっ!)」
ぎゅうっ
「うわっ!ちょっ…ちょっとあかねっ!」
あかねはご主人さまの腕にしがみついたのだ、無論ご主人さまが驚くのを想定しての事。
「ご主人さま…私がこういうことをするのは嫌だったかい?」
「いや、そうじゃないけど…いきなりだったからね」
「じゃ、いいんだね」
「もちろんさ、あかね」
ぎゅうっ
あかねはしがみついた腕の力をさらに強めた。その二人の光景はまるで、恋人のようだったという。
 
さて、場所は変わってここは水族館。二人はそのまま近くの水族館へと入っていったのだ。
「…ご主人さま…綺麗だね…」
「うん…久しぶりに来たけど、やっぱりこういうところに来ると落ち着くね」
二人はしばらく無心になって魚を見ていた、こんなとき見る魚はやはり周りも暗い所為か神秘的なものである。
「まるで…海に散りばめられた…宝石みたい…」
「そうだね…本当に…」
 
水族館に入り、時計の短針も1を指し…
「あ、あかね」
「なんだい?ご主人さま」
「そろそろお腹すかない?」
「もう…そんな時間だっけ?」
きゅるるるる
そんな折、あかねのお腹が鳴ってしまった。
「あ…恥ずかしい…」
あかねは顔を赤らめて俯いてしまった。
「…じゃ、食べに行こうか、ご飯を」
「うん…」
あかねは少し顔を赤らめたまま、ご主人さまにぴったり寄り添うような形で飲食店へと向かっていった。
 
そうして時は過ぎ去り、二人は最初の公園へと場所を移していた。
「あれ?何でまたこんな所に来たの?ご主人さま」
「それじゃぁプレゼントはいらないのかい?」
「…意地悪だね…ご主人さまも…」
「ゴメン、あかね」
「いいよ、謝らなくても…」
「じゃぁ…」
チュッ
ご主人さまは軽くあかねの頬にキスをした。
「う…いいのに…ご主人さま…」
「ま、いいじゃない。はいこれプレゼント、開けてみて」
そうしてご主人さまから差し出されたのは一つの小箱であった。その中には…
「ご主人さま、いいの?私がこんなのを貰っても…」
「うん、だってそれはあかねの為のだからさ」
それは紫色の珠が付いた指輪であった。
「はめてみて、多分サイズは合ってるはずだから」
ツツツツ
その指輪はあかねの薬指へと収まった。
「ありがとう…ご主人さま…」
チュゥッ
あかねはご主人さまの唇へとキスをした。そして…
ぎゅぅっ
ご主人さまへと思い切り抱きついた。多分紅く染まった頬を見せたくなかったのだろう…。そして二人はみんなの待つ場所へと帰っていった…
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あとがき
超えられないと思っていたみかを超えてしまいました、それも僅差で。
夏も始まったばかりどころか、始まってもいないのに秋のSS…まずいですな…。
それにしてもアイディアが出ればやっぱり早いなぁ…。
今回、ちょっと心配でした。みかとあかねのSSの執筆の間にちょうど修学旅行が挟まっていて…
えっと…次回SSはオリジナル守護天使SSを予定していますが、どうなることやら…
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2003・06・10TUE
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