Promised Land(約束の地)

葉月の初日、梅雨の合間の晴れた日のこと…
「もも、じゃあ行こうか」
「はいっ…」
ももはご主人さまに向けて笑顔で答えた。
そんなももの手にはバスケットがあり、頭には麦わら帽子が載っていた。一方ご主人さまの手にも、色々と荷物が入った袋がぶら下がっている。
 
それは昨日のこと…
「ご・ご主人さま…」
「ん、何だい?もも」
「ご主人さま…明日は…」
「あ、うん。ももの誕生日だったね」
「えと…あの…」
「いいよ焦らなくても、ゆっくり落ち着いて話してね」
「はい…あのご主人さま…もも、明日は行きたいところがあるんです…」
「えっと、どこだい?」
「森に…ピクニックに行きたいです…」
「いいよ、もも。ももがそれを望むならね」
「ご主人さま…」
ぽふっ ぎゅぅっ
「おっと」
ももは座っているご主人さまへと抱きついた。少し気恥ずかしかったのであろう。
「何だい?もも、今日はいつも以上に甘えん坊さんだね」
「は・恥ずかしかったんです…」
「そんなに恥ずかしがる事なんてないじゃない」
「でも…ご主人さまのことが好きだから…余計に恥ずかしくなっちゃいます…」
「そっか…」
ぎゅっ なでなで
ご主人さまはももを抱き返して、その頭を撫でてあげた。
「はぁ…気持ちいいです…」
「そうかい?もも」
「ご主人さまの匂いと…ご主人さまの温もりと…ご主人さまの手が…とても気持ちいいです…」
すりすり
ももはご主人さまの胸に一層顔を埋めていった。
「そっか…んっ、くすぐったいよもも」
「あっ…ごめんなさい…ご主人さま」
「ま、いいさ。ももがやりたいなら、してもいいさ」
「えっと…はい…」
すりすりすりすりすり
ももは気持ち良さそうに微睡みながら、ご主人さまの胸へと頬擦りをした。
「そんなに…んっ…気持ちいいかい?」
「はい……とっても……」
そんな取り止めの無い時間を、二人は過ごしていった…。
 
そして翌朝…
ゆさゆさゆさ
「ご……さま……しゅ……ま…」
ご主人さまの蒲団を揺らす二つの腕と、小さく聞こえる声。
「ん…ん?誰かな…?」
その揺れに目を覚ますご主人さま。と、そこに覆いかぶさってくる誰かの顔…
チュッ
その顔の唇によって、ご主人さまの唇は覆い被された。
「!?」
そして明るくなったご主人様の瞳に映ったのは…
「おはようございます…ご主人さま…」
「もも…だね?」
「はい…」
と、ももが一瞬見せたスキをご主人さまは見逃さなかった。
チュゥッ
さっきよりちょっと長めの口付け、そしてご主人さまは笑顔で答えた。
「うん、おはようもも」
「……………あっ…ご主人さま…おはようございます」
ももは暫くポーッとした表情になった後、顔を紅らめてこちらの世界へと戻ってきた。と、そこに…
「おはようございます、ご主人さま」
「おはようゆきさん」
「今日は晴れてくれましたね、見事に」
「うん、せっかくのももの誕生日に水が差さなくて良かったよ」
「そうですわね、晴れたのでお弁当もはりきって作りましたわ」
「あ、そっか…お弁当か。美味しくできた?もも」
「はいっ」
ももは笑顔でそう答えた。
「じゃあそろそろ起きようかな」
「はい、ご主人さま。一緒に朝ご飯です…」
 
「よし、じゃあバスケットここにいれて」
「はい」
ももは自転車の籠へと、バスケットを入れた。
ガチャッ ガタンッ
「もも、後ろに乗って」
「はい…」
ぽすっ ぽふっ
ご主人さまはサドルに、ももは横向きに後ろの荷台へと乗った。
「よし、しっかり掴まっててね」
こくんっ ぽふっ ぎゅうっ
ももは唯一つ頷き、ご主人さまの背中にくっついてお腹の方へと手を回した。
「行くよ、よっと」
二人を乗せた自転車は街とは反対方向へと進んでいく…
 
チチチチチ チチチチチ
時はもうお昼前、二人は家から数十分の森の中に居た。
「風が…気持ちいいです…」
「うん…でももうすっかり夏の風だなあ」
「ご主人さま…」
「何だい?もも」
「もも…そろそろお腹が…」
と、そこに…
きゅぅぅぅぅ
「きゃっ!恥ずかしいです…」
「可愛いお腹だね」
「ご主人さま…」
ぎゅうっ
ももは顔を赤らめてご主人さまへと抱きついた。
「よし、じゃあお昼にしよう」
「はい」
ご主人さまは敷物を敷いて、二人はその上へと腰を下ろした。
「ご主人さま…おしぼりです…」
「ありがと、もも…それじゃあ…」
「「いただきまーす」」
ももが持ってきたバスケットの中には、サンドイッチにサラダ、卵焼きにデザートなどが入っていた。
「このサンドイッチはももが作ったのかな?」
「はい…ご主人さまのことを思って作りました…」
はむっあむっ んぐっ
「…どうですか?ご主人さま…」
「うん、美味しいよ。でも…」
「え…?でも…?」
チュッ
「これで甘さもOKだね」
「ご主人さま…」
ももの顔はすっかり紅くなっている。
「そ・それじゃあ他のも貰おうかな」
「はい…」
………
「そろそろ帰ろっか、もも」
「はい…」
夕方の時間といえど、7月なのでまだ明るい。二人は森の中を沢山散策して、ちょっと泥が付いた顔になっていた。
「よし、じゃあ乗って」
「はい」
二人の乗った自転車は家への道を走り出す…
 
そしてその夜…
「ご主人さま…」
「ん?どうしたんだいもも」
そのももの腕には枕がある。
「ご主人さま…一緒に…」
「ん、いいよ。プレゼントもまだ渡してなかったしね」
すすすすす
ももはご主人さまの蒲団へともぐりこんだ。
「温かいです…ご主人さま…」
「そうかい?」
「はい…とっても…」
ぎゅうっ
ご主人さまはももを抱き寄せた。
「はあ…」
「あ、もも。プレゼントだよ」
「これって…口紅ですか…?」
ももに手渡されたもの、それは小さな筒状のものであった。
「あ・ありがとうございました…」
かちゃっ ぬるぬるる かちっ
「ご主人さま…今日はありがとうございました…」
チュウッ
ももは口紅を塗ったその唇で、ご主人さまへとキスをした。
「もも…」
「おやすみなさい、ご主人さま…」
ももは今一度、ご主人さまの頬へとキスをした。
「…ま、いっか。おやすみ、もも」
ご主人さまはももの唇の感触を胸に留めながら、眠りへと就いた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
構想は出来ていたものの、書くのにだいぶかかりました。
忙しかったんです、言い訳になっちゃいますけどね。
これで4曲目、あと残す所13曲です。
何の曲だか分かった人、そのまま気に留めておいて下さい。
今日は疲れてるんで…うー……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2005・06・18SAT
短編小説に戻る