Book Oratorio(本の聖譚曲)
それは、彼女たちの街に初雪が降り始めた頃のお話…
「あら…雪ですわ…」
その日、あゆみは家で一人お茶を飲んでいた。すると…
ガチャッ
「ただいまー」
「お帰りなさい、ご主人さま。あら…」
「ん?どうしたんだい?あゆみ」
「ご主人さま、こんな所に雪が付いておりますわよ」
「あ…ほんとだ。うん、さっき急に降り出してきたからね…」
「フフ…外はお寒かったでしょう、早く中にどうぞ」
「うん、そうさせてもらうよ」
あゆみはご主人さまのためのお茶を淹れて差し出した。
「あ、ありがとうあゆみ」
フーフー ゴクッ
「あー、生き返るよあゆみ」
「そ…そんな大層なものではないですわ」
少し顔を紅く染めるあゆみ。
「いや、寒いところから帰ってきて、こんな温かくて美味しいお茶だもん。そんな言葉も言いたくなるさ」
「あ…ありがとうございます」
それから他愛の無い話をして5分くらい経ったとき…
「あ、そういえば…」
「何でしょう?ご主人さま」
「明日って確か、あゆみの誕生日だよね」
「あ…そういえば…もうそんな季節なのですわね…」
「それで、何かして欲しい事とかあるかな?」
「はぁ…そうですわね…」
「そうじゃなかったら、どこか行きたい所でもいいからさ」
「あ、それでしたら…一緒に美術館とか図書館とか…静かなところなんていいですわね…」
「そっか…それじゃあ美術館は前にももと行ったから、図書館にしようか」
「はい、それでいいですわ」
「じゃ…お弁当も持って向こうで食べようよ」
「はい…あれ?図書館に食事用のスペースなんてありましたっけ?」
「えっと…あの図書館には確かあったはずだけど…」
「まぁいいですわ、それでは明日は図書館ですわね、ご主人さま」
「うん」
その夜…
いつものように守護天使みんなは快く承諾してくれたが…
「うーん…なんかねぇ…」
「なんですか?みかちゃん」
「どうしてそんなに静かな場所を選ぶわけ?誕生日だったら、もっとパーっといけばいいでしょ」
「そんなの私の勝手ですわっ!私はみかちゃんとは違うのですわっ!」
「………………」
「………………」
「あらあら、また始まってしまいましたね」
「そうだね、らん。まあ、いつものことだしすぐ終わるでしょ」
「フフフ…そうですわね」
「ま、喧嘩するほど仲がいいって言うからね」
二人の馴れ合いの様な口喧嘩は、すぐに勝負がついていたようであった。
翌日…
「ふわ〜あ」
「まあ、大きなあくびですわね」
「あ、あゆみおはよう。もう起きてたんだね」
「おはようございます、ご主人さま」
「あ…もしかしてお弁当の為の早起きかい?」
「はい…お口に合えばいいのですが…」
「大丈夫さ、僕の大好きな天使が作ってくれた物なら何でも口に合うさ」
「そんな…そこまで言われると、少し恥ずかしいですわ」
あゆみは少しだけ顔を紅くした。
「んーっ、何だか朝からお熱いわね、あゆみとご主人さま」
「ふわあっ!みかちゃんっ、何てことを言うんですっ!」
「なぁに?あゆみ。みかが何か間違ったことを言ったとでも?」
「いえ…別にそう…ま、まあいいですわ…みかちゃん」
「まあまあ二人とも。それじゃあそろそろ朝ごはんにしようよ」
「そうですわね」
朝ごはんも終わり…
「それじゃあみんな、行ってくるよ」
「それでは、行ってまいりますわ」
「「「「「「「「「「「いってらっしゃーい」」」」」」」」」」」
バタン
「それでは行きましょう、ご主人さま」
「うん」
二人は少し遠くにある図書館へと歩みを進めていった…
「ご主人さまは何を読まれるんですか?」
図書館内に入った二人。
「うーんそうだなあ…僕はじゃあこれにしようかな」
「では私は…これにしますわ」
ご主人さまは「ブリザード・ミュージック」を、あゆみは「嵐になるまで待って」を手に取った。
「ご主人さま、あの席で読みましょう」
と、あゆみは2人がけ用の椅子を指した。
「う…うん、そうだね」
二人は少し相手を意識しながら本を読み始めた。
時は回ってお昼過ぎ、二人は小声で…
「ご主人さま」
「何だい?あゆみ」
「そろそろお昼にしませんか?」
「うん、そうだね」
二人は本を戻し、図書館内からロビースペースへと出た。
「それじゃあここにしようか」
「そうですわね」
そのロビーは広く、少し広めのテーブルがあるところを昼食の場として選んだ。
トントン
あゆみはロビーにあるテーブルの上に弁当を置いた。
「「いただきます」」
ぱくぱく もぐもぐ
「うん、美味しいよあゆみ」
「そんな…でも嬉しいですわ、美味しいと言っていただけて」
「あ、飲み物ある?」
「はい、どうぞ」
ごくっごくっ
「はー、美味しい。やっぱりあゆみの淹れてくれるお茶は最高だよ」
「そんなに褒められると…何だか恥ずかしいですわ」
「うん…ごちそうさま、あゆみ」
「おそまつさまでした」
その後二人は、図書館内へと戻って読書を続けた。
しばらくたって…
「あゆみ、そろそろ帰るよ」
「………………」
「…あれ?もしかして…」
すぅ…すぅ…
あゆみはご主人さまに少しもたれかかって小さく寝息を立てていた。そんなあゆみにご主人さまは…
カチッ チュッ
黒い珠の付いたチョーカーを首に付けて、そっと口付けをしてあゆみが起きるまで彼女の温もりを感じていた…
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あとがき
お久しぶりとなりました、P.E.T.S.のSS…39本目になりますね。
今回のSS、144日前です。ちなみに4ヶ月半前になります。
ただいま管理人は企業実習(企業で1〜3週間、実務体験をする)中です。
毎日疲れますが楽しいです。あ、そうだ。このSS中の書名で検索するとおそらくある劇団が出てくるかと思います。
ま、勘のいい人はすぐに分かるかもしれませんがね…。
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2003・07・25FRI
雅