Moon Nocturne(月の夜想曲)

そこは誕生日パーティー前夜のベランダ…
「はぁ…」
そこにいたのはみか。一つため息をつきながら、満月の浮かぶ空を一人座って眺めていた。
「みか…明日で17になっちゃうのね…」
くしゅん
残暑であるとはいえ、夜の風はもう秋の臭いを漂わせていた。そんな冷たい風に、みかは一つくしゃみをした。
「ご主人さま…」
「何だい?みか」
「えっ!?何でご主人さまがここに?」
「だって、ベランダの鍵が開いてるから出てみたら、みかがいたから…」
「べ…別に…何でも…」
「でもそんな顔には見えないよ…」
「やっぱりご主人さまには、隠し事は出来ないわね。うん…ちょっと色々と考えちゃってね…」
「ちょっと…どうしたんだい?」
「うさぎの頃のみかが…死んじゃったのも、ちょうどこんな満月の日だったなって…」
「みか…」
「それを思い出してたらちょっと…ね」
「ゴメン…あの時、みかにあんな寂しい想いをさせちゃって…」
「いいのよ、もう。だってこんなに温かい家族がいるから」
ギュッ
ご主人さまの腕はいつの間にか、みかの背中の方へと伸びて抱き締めていた。
「ゴメン…本当に…独りにしちゃって…こんな僕を許してくれるかい…?」
「ご主人さま…いいわ…もう…だって…こうやって…再び出会えたんだから」
ギュゥッ
ご主人さまは腕の力をさらに強めた。それに加わるかのように、みかの腕もご主人さまに絡んだ。二人がその腕を放したのは、互いの心のパルスが重なり合ってしばらくした頃であった。
 
「あ、ちょっと待ってて」
「うん」
がらがらがら
「はい、みか」
ファサッ
みかにご主人さまの手で綿毛布が掛けられた。
「ありがと、ご主人さま」
ファサッ
ご主人さまも隣に寄り添うように座って、タオルケットを掛けた。
「それで寒くないよね、みか」
「うん…(ご主人さまったら、優しいんだから…)」
「でもこうして見てるとさ、月っていいね…やっぱりさ」
「そうね、ご主人さま」
「今頃、月でうさぎがお餅でも搗いてるのかな…なんてね」
「もう、ご主人さまったらぁ…でもそうかもしれないわね」
「でもさ…こ…やっぱり言うのは止めとこ」
「なぁにご主人さま、気になっちゃうじゃない」
「いや、ちょっと恥ずかしくなっちゃってさ」
「ご主人さまったら純情なんだから。でもいいわ、時間はたっぷりあるから」
「…そうだね」
「あっ!ご主人さま、流れ星っ」
「えっ?どこどこ?」
「あーん、消えちゃったぁ…」
「まぁいいじゃない、さっきみかが言っただろ、『時間はたっぷりあるから』ってさ」
「そうね…」
そうして二人はしばらく何も話さなかった…二人の心の鼓動は通じ合ってるかのように、自然とまた共鳴していった。
 
くしゅん
みかはくしゃみで目を覚ました。どうやら二人はそのまま寄り添って、夢の世界へと落ちてしまっていたようだった。
「ご主人さま…?」
クー スー
「ふふっ…ご主人さまの寝顔って…こんなに可愛かったんだ…」
つんつん
みかは不意にご主人さまの頬を突付いてみた。
「さすがにこれじゃぁ起きないわよね…それじゃぁ…」
チュッ
みかはご主人さまの頬にキスをした。すると…
「う…うーん、僕寝てた?みか」
「え…あ…う…うん、とても気持ちよさそうに寝てたわ」
すこしだけ取り乱すみか。そんなみかを不思議そうな顔で見つめるご主人さま。
「えっと…今、何時くらいかな?」
「そうね…もう日付は変わったくらいだと思うけど…」
ちょうど月は空の真ん中にぽっかりと浮かんでいた。
「うん、確かにそのくらいだね」
「え?どうして分かるの?」
「だって、満月が南中してるじゃない。満月ってさ、夕方に東から出て、真夜中に南中して、朝方に西に沈むって、学校で習ったからね」
「ご主人さまって物知りなのね」
「いや、そうでもないよ。それよりみか、誕生日おめでとう」
「ありがと、ご主人さま」
「これ、プレゼントだよ」
「開けてみていい?」
「いいよ…きっと似合うはずだから…」
ぱかっ
「これって…チョーカー?」
「うん。ちょっと特別なね」
それは金属の十字架の真ん中に橙色の珠をあしらったチョーカーであった。
「付けてみてもいい?ご主人さま」
「いいよ、だってそれはみかのための物だからさ」
かちっ
チョーカーがみかの首へと付けられた。
「ご主人さま…似合ってる?」
「うん、とっても似合ってるよ」
「どのくらい?」
「えっと…」
チュッ
ご主人さまは咄嗟にみかの唇を奪った。
「このくらい…さ」
「ご主人さまったらダ・イ・タ・ンっ!」
「本当だよ…良く似合ってる、みか」
「ありがとっ!ご主人さま」
チュゥゥッ
みかはご主人さまに口付けをした。互いの腕は自然と相手の肩口へと向かっていった。
 
「さっきどもった言葉、聞かせて、ご主人さま」
「うん…いいよ…『この月や星の光をどんなに集めても、みかの輝きには勝てないさ』…ってね」
「そんな素敵な言葉だったのね…ありがとっ!ご主人さま」
「でもなんだかやっぱり恥ずかしいな…」
「あっ!また流れ星っ!」
「本当だ…(みんなとずっと…一緒にいられますように…)」
「ご主人さま、どんなことお祈りしたの?」
「それは秘密だよ、みか。それじゃぁそろそろ寝よっか、もう夜も遅いしさ」
「それもそうね、ご主人さま」
こうして二人だけの秘密の時間は終焉した…
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あとがき
え…えぇ…すみません、こんなに早くて。
書いていたら自然と筆が進んで…1日で書き上げてしまいました。
私が思うに、前のくるみのよりはいい出来だと思います。
さて、今回はついに3桁になっちゃいました。
103日前…やり過ぎましたな…これは。
これ以上は出せない…でしょう、さすがに…。
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2003・06・01SUN
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