Dark Navy Paints(花紺色の絵の具)

それは雪が降っていた、あゆみの誕生日前日の事。
「ご主人さま、やっぱりこういう日は火燵で温かいお茶ですわね」
「うん、そうだね。でもあゆみのいれてくれるお茶なら、いつだって美味しいけれどね」
「まぁ、ご主人さまったら言葉がお上手ですわ」
「えっ、そうだった?だって本当の事だしさ」
「そう言って頂けると本当に嬉しいですわ。あ、もう一杯おいれいたしましょうか?」
「うん、じゃあもう一杯貰おうかな」
コポポポポ
「はいどうぞ、ご主人さま」
「あ、ありがとうあゆみ」
ゴクッゴクッ
お茶を飲んでもう一息ついたご主人さまが、ある話を切り出した。
「あ、そうだあゆみ。明日が誕生日だよね、何か欲しい物はある?」
「え…私が欲しい物…ですか?」
「そうだよ、僕もあゆみのために色々と考えたんだけど、なかなか思いつかなくってさ」
「欲しいもの、ですか…」
あゆみはしばらく考え込んだ後、
「あ!そうですわ。欲しいものがありましたわ」
「え、何が欲しいんだい?」
「それは…今日は秘密にさせて頂きますわ」
「だけど秘密じゃ、買いにいけないじゃない」
「だから、明日一緒に買いに行きましょう、ご主人さま」
「なんだ、そういう事だったのね。うん、いいよ」
「ありがとうございます、ご主人さま」
 
そして翌日…
「それじゃみんな、行ってくるね」
「料理の方、期待してますわよ」
「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」
バタン
二人は家を出て街へとむかっていった。
「でも、一体何が欲しいんだい?」
「それは店に着いてからお答えしますわ」
「それって料理とかそういう関係の物?」
「いえ、違いますわ」
「じゃあ、あゆみの趣味の関係の物かい?」
「はい、そうですわ」
「大体分かったような…」
「もうすぐ着きますわ、ご主人さま」
そんな会話をしながらあゆみについていくと、裏通りにある一軒の店へと行き着いた。
「ここですわ、ご主人さま」
「あれ…何だか見たことがあるような場所だなぁ…」
と、言いながら後ろを振り返るとご主人さまは納得をした。実は3軒隣に、あかねの誕生日の時に来た占いの専門店があったのである。
「ここって…画材屋か…」
「はい、そうですわよ」
「あ、そういえばあゆみって絵が趣味だったっけ」
「確かに…最近はあまり描いてはいませんが…」
「それじゃあ中に入ろっか、店の前にいたら邪魔だからさ」
「フフッ…そうですわね」
ガーッ
自動ドアを開き店の中に入った二人、
「お、あゆみちゃんいらっしゃい」
「大内さんお久しぶりです」
「あれ、この方はもしかして…」
「あ、はい。ご主人さま紹介しますわ、この方がこの店のご主人の大内雅裕さん。大内さん、この方が私の大好きなご主人さま」
「こんにちは、大内さん」
「こんにちは、あゆみちゃんのご主人さま」
「そういえば大内さん、あれってまだとっておいてありますか?」
「え、あれって?」
「あのアクリル絵の具セットのことですわ」
「あーあれね、確か店の奥の方に置いておいたはずだな。ちょっと取ってくるよ」
 
バタン
主人は店の奥に入っていった。
「もしかして買って欲しいっていうのは、そのアクリル絵の具セットだったんだね」
「はいそうですわ…ずっと見ているだけで…でもとても欲しくって…今日ならと思って…」
バタン
店の奥から主人が戻ってきた。
「はい、持ってきたよ、あゆみちゃん。これでよかったんだよね」
主人が持ってきた薄いスーツケースの中にはパレットと筆が何本かと120色ものアクリル絵の具が入っていた。
「はい、確かにこれですわ。とっておいてくれていたのですね」
「うん、だってあゆみちゃんがすごく欲しがってたからさ、一つだけ残しておいたんだよ」
「ありがとうございます、大内さん」
「これを…買っていくのかい?あゆみちゃん」
「はい、おいくらでしたっけ?」
「んーと…あれ?値札がどこにもないぞ」
「えっと確か…¥25000だったかと思うのですけど」
「そうだったっけ…でもいいや、まけて2万円にしておくよ」
「え…そんな…いいんですか?大内さん、いつもだって少し安くして頂いてますのに」
「いいってことよ、今日はサービスさ」
「ありがとうございます、ご主人さま…よろしいですか?」
「うん、だって僕の大好きな天使の誕生日だもん」
ご主人さまは財布から2万円を取り出した。それを店の主人は受け取りながら、
「え、あゆみちゃん今日が誕生日だったのかい、それはおめでとうさん」
「あ、ありがとうございます、大内さん」
「これからも頑張ってね。はい、商品だよ」
「それでは、今日は本当にありがとうございました」
「あぁ、また来てよ」
「はい」
ガーッ
そして店を出た二人。
「すみませんご主人さま、こんなに高いものを買っていただいて」
「いいってことよ、それがあゆみの欲しいものだったんでしょ」
「でも…」
「あ、じゃあそれを買ってあげたかわりに、一つお願いがあるんだけど」
「はい、何でしょうかご主人さま」
「僕をその絵の具セットを使った絵の、最初のモデルにする事。いいかな?」
「はい、それなら喜んでお描きしますわ」
「ありがと、あゆみ」
チュッ
ご主人さまは狙いすましたタイミングで、あゆみの唇を奪った。
「う…あ…ありがとうございました、ご主人さま」
 
それから一週間後、ご主人さまの家に一枚新たな絵が加わった。それは花紺色の一色で描かれたご主人さまの絵であった…
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あとがき
今回の店主の名前については…特に何も述べません。
(ほぼ作者の本名だったりして…。)
今回の作品もPHS執筆です。
なかなか難しかったなぁ…あゆみの口調が…。
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2002・11・17SUN
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