Lemon Yellow's Ball(黄蘗色のボール)

時は朝の6時。他の守護天使はまだ寝息をたてている時間帯に、ご主人さまの耳元に一人の娘の囁き声が聞こえていた…
「ご主人さまー起きてよー」
「うーん、あと5分ー」
「ご主人さまーでも約束ー」
「だからもう少しー」
「よーしこうなったら奥の手だ!」
「(え…な…何をするんだろう…)」
 
フーッ
 
ななはご主人さまの耳に息を吹き掛けた。
「うわっ!あ、おはようなな。で…でもいきなり息を吹き掛けるのは反則だよぉ」
「ごめんなさいご主人さま、だってなかなか起きてくれないんだもん」
「それはごめんねなな、寒くってなかなか起きれなくってさ」
「だから早くー、みんなが起きる前にー」
「そうだね、それじゃぁみんなを起こさないように行こっか、だって約束だもんね」
「うん」
こうしてご主人さまとななはジージャンを着て、「朝霧」で木々の葉に「珠」のような朝露が付く街へと歩みを進めていった。
 
その頃の家では…
「ななとご主人さま行ったみたいだわね、あゆみ」
「どうやらそのようですわね、みかちゃん。それでは準備を始めましょうか」
「そうね」
実は昨日ななが眠ったあとに、ご主人さまと中高生でパーティーについて相談をしておいたのであった。
 
「ご主人さま〜、早くーこっちこっちー」
「待ってよーなな、そんなに急がなくっても時間はたっぷりあるんだからさ」
「えー、でもー」
「今日はななのために時間を取ってあげてるんだからさ、たまにはゆっくり行こうよ」
「うー…うん分かった、それじゃあ手をつないでね!ご主人さま」
「いいよなな、ほら」
ぎゅうっ
ななはご主人さまの差し出した腕を両腕で思いっ切りつかんだ。
「え?な…なな?」
「いいよね、ご主人さま」
「え…うん…でもどうして?」
ご主人さまは少し顔を紅くした。
「あー、もしかしてご主人さま恥ずかしがってるの?」
「う…うん、ちょっと…いきなりだったからね」
「だってご主人さまの匂い…大好きだもん」
スリスリスリスリ
そう言いながらななはご主人さまの腕に頬擦りをした。
「(可愛いなぁ…こういう時のななは…)」
「ご主人さま、なな今度はあっちの方に行きたいな」
「うん、それじゃあ行こうか」
ななとご主人さまは改めて手をつなぎ直して、さらに朝の街を歩いていった。
 
それから1時間後…
「そろそろ休もうよなな、僕疲れちゃったよ」
「うん、ななも疲れちゃった」
「それじゃあそこのコンビニで飲み物でも買ってこようよ」
「うん」
ウィーン
「いらっしゃいませー…あれ?もしかしてななちゃん?」
「あ、あの時のお姉ちゃんだぁ」
「なな、あのお姉さんの事知ってるの?」
「うん、なながデパートで迷子になった時に、一緒にあゆみお姉ちゃん達を探してくれたんだ」
「すみませんお姉さん、そんなにお手数をおかけしてしまって」
「いえ、いいんですよ。私が好きでやった事ですし」
「でも本当にありがとうございました」
「ご主人さまージュースー」
「あ、そうだったね。それじゃあどのジュースが飲みたい?なな」
「ななねー、オレンジジュースがいいな」
「うん、じゃあオレンジジュースとレモンティっと」
「はい、それでは294円です」
「はいじゃあ300円っと」
「それでは6円のお返しです、ありがとうございましたー」
「また来るね、お姉ちゃん」
「うん、ななちゃんまた来てね」
ウィーン
こうして二人は買った飲み物を持って近くの河原へと向かった。
 
そして河原で…
「ご主人さま、カンパーイ」
「乾杯、なな」
ゴクッゴキュッゴクッ
プハー
「おいしいねー、ご主人さま」
「うん、そうだねなな」
「ありがとっ、ご主人さま」
「どういたしまして」
「あー、そういえば出る時から持ってきたその袋は何が入ってたの?」
「あ、これ?これはななへのプレゼントだよ」
「えー、中身はなーに?」
「じゃあはい、袋を開けてみて」
がさがさがさ
そのビニール袋に入っていた物は…
「あー、ボールにフリスビーに遊び道具がいっぱいだぁ、こんなにいっぱい貰ってもいいの?ご主人さま」
「いいんだよ、なな。だって今日はななの誕生日なんだからさ」
「じゃあこれ使って遊ぼうよ」
ななが袋から取り出したのは「黄蘗色[きはだいろ]のボール」であった。
「そうだね、じゃあ遊ぼっか」
こうして二人はそのボールを使ってしばらく河原で遊んだ。
 
その後…
「ご主人さまー、ななお腹がすいちゃった」
「そうだね、ご飯食べてないのにずいぶん運動したからね。じゃあそろそろ帰ろうか、みんなが準備してくれてるはずだからさ」
「うん」
と言いながら駆け寄ってくるなな、それを受け止めようと体勢を低くしたご主人さま。
しかしながら人間も物理法則には逆らえず…少しよろめいていたご主人さまは、ななの勢いそのままに倒れてしまい…
 
チュッ
 
倒れ込んだななの唇がそのままご主人さまの唇に重ねられた。
「あっごめん…ご主人さま」
ななは少し顔を紅くした。
「…いいよ…なな、だって僕の大好きな天使だもん」
「あ…ありがと、ご主人さま」
「うん、じゃあ帰ろっか」
「うん!」
ななは満面の笑みで答えた。
 
そしてご主人さまとななの早朝デート(?)は、ななの笑顔と唇の感触とともにご主人さまの心のアルバムの中にまた新たな1ページを刻み込んだ…
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あとがき
いやー疲れた。今回のSSは初PHS完全執筆作品となりました。
今までもPHSで執筆した事はありましたが、どれも途中でPCに転送していたので本当によく完成できたなと思いましたよ。
しかしながらこのPHSはすごいなぁ、全角10000文字まで大丈夫だなんて…(後書き・改行含めて全角で2388文字)
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2002・10・20SUN
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