hesitation(ためらい)
それは6月も最終日となる夜のこと…
「ご主人さま…」
ももは一人、ベランダにいた。
「ももは…ご主人さまのお役に立てているんでしょうか…」
するとそこに…
ガラガラガラ
「ご・ご主人さま!?」
「どうしたんだい?もも、こんな夜に一人でベランダに居るなんて」
「え、な・何でもないです…」
「そんなわけないでしょ、そんな切なそうな顔をしてさ」
「………」
「黙っていちゃ分からないよ、それとも僕には話せないようなことなのかな?」
「ももは…ももは、ご主人さまのお役に立ててるんですか?」
「えっ!?」
「ももは電気が苦手で…るるちゃんでも…ななちゃんでも出来ることだって出来ません…だから…」
ぎゅうっ
ご主人さまは突然、もものことを抱きしめた。
「キャッ!ご主人さまっ!」
「ごめんねもも、何だか僕のことでそんなに悩んでるなんて…僕のことでそんなに困ってるなんて知らなかった…これじゃあご主人さま失格だね…」
「そ・そんなことないですご主人さま…悪いのはももです。ももがご主人さまを困らせるなんて…守護天使失格です…」
「でもさ…」
チュッ
「ご・ご主人さまっ!?」
「あ、ちょっと待ってて、中に行ってくるねもも」
「は、はい」
がらがらがら がらがらがら ファサッ
ももの膝元に綿毛布が掛けられた。
「ありがとうございます…ご主人さま…」
「どういたしまして、もも」
「温かいです…何だか悩みなんか忘れてしまいそうなくらい…」
「そうかい?それはよかったよ。でもさ…」
ぎゅうっ
ご主人さまは再び、ももの事を思いきり抱きしめた。
「ご主人さまっ!?」
「こうした方がもっと温かいだろ、もも」
「はい、ご主人さまの身体、とっても温かいです」
「ももも、温かいよ…」
二人はしばらく何も言わずに抱き締め合っていた…二人の心が共鳴しあうまで…。
「そういえばもも」
「はい、何でしょうか?ご主人さま」
「ももってさ、電気のどんな所が駄目なんだい?」
「電気の…ですか?」
「うん、それが分からないとさ、何にも出来ないしさ」
「電気の…ビリビリするところなんです…」
「あ、そうなのか…でもさ、大丈夫だよ。だってさ、冷蔵庫とかが大きな口を開けて、襲ってきたりするわけじゃないんだからさ」
「でも…駄目なんです…」
「だって去年だって大丈夫だったでしょ?電車だって、自動改札だって」
「それは分かってるんです…でも…でも…」
ぎゅうっ
ももはご主人さまを抱きしめている腕の力を一層強めた。
「あ、でも僕思うんだけどさ、もも」
「え?何ですか?」
「そりゃあ僕だってトラウマってあるんだよ」
「はい」
「だから思うんだ、トラウマって個性なんじゃないかな?」
「個性…ですか?」
「ゆきさんが暑いのが駄目なことも、つばさが高いところが駄目なところもさ」
「は…はい…」
「だってるるだって寒いのが駄目だし、ななだって方向音痴でしょ。ももの電気が駄目なところっていうのもそれは一つの個性なんじゃない?」
「で…でも…もものトラウマは…」
「ん、ももの言いたい事は分かっているよ。もものトラウマは普段の生活で支障が出るから、ご主人さまをしっかりお世話できないとかいうことでしょ?」
「はい…」
「それでもいいじゃない」
「え!?」
「雪の結晶に例えてみるよ。雪ってさ、小さな核の周りをこれまた小さな水がくっ付いてできてるんだよ」
「はい…」
「つまりはさ、僕という核を12人の水分で守ってもらっているんだよ。その一人一人は小さかったりトラウマを持っていて不完全なところがあってさ、それをみんなでカバーしあっているんだよ」
「………!?」
「それは核が無くても出来ないし、それだけの水分…つまりはみんながいなくちゃ出来ないものなんだからさ」
「はい…」
「だからさ、自分が役に立たないなんて思うことが間違いだと思うよ。いてくれるだけ…それだけで僕の支えになってくれている、それがみんななんだからさ」
「分かりました…ご主人さま…。何だか気持ちが楽になりました…」
「うん、その気持ちが大切だよ」
「もう悩みません、一生懸命ご主人さまのお世話をします」
「じゃあそんなももに、誕生日プレゼントだよ」
「えっ!?」
「忘れていたのかい?だってもう7月1日になってるよ、ほら」
ご主人さまはももの目の前に腕時計を差し出した。その時計の短針はすでに1の時を指していた。
「こんな時間まで起きているなんて…初めてです」
「そうだろうね、だっていつも10時になる前には眠ってるしね。たまに見る寝顔、可愛いよ」
「そんな…恥ずかしいです…」
「そんなことよりはい、これ」
「あ・ありがとうございます」
「開けてみていいよ」
「はい…」
ガサガサガサ
その紙袋の中には…
「えっ!?こんなものももがもらっていいんですか?」
一つのオルゴールが入っていた。
「もちろんだよ」
ジージージージー カチッ
タタタタタ タタタタンタン タンタタタンタン…
そのオルゴールからは優しげな音色が流れ始めていた。
「ご主人さま…大切にします…」
チュッ
そのままももはご主人さまへとキスをした。
「それじゃあそろそろ寝よっか、もも」
「はい」
そうして二人は家へと戻っていった。そんな二人を照らしていた月は、いまだぽっかりと空に浮かんでいた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
2004年度誕生日SSの3作目です。
何気にテスト明けの第1作目となりました。いかがだったでしょう?
今回のタイトルで共通点、分かる人は分かったでしょう。
今月…もう一作いけるかな?(くるみBSS)
これで今月12作目ですか…書きも書きたりですね。
あと今月も残り2日、頑張ってみるとしますか!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2003・09・28SUN
雅