Many flower's Flavor(千紫万紅の芳香)

季節はもうすっかり春めいてきた、ゴールデンウィーク前の頃のこと…
「ご主人さまぁ、ちょっといいれすか?」
「え?みどり。いいけど…どうしたんだい?」
「あの、今週の土曜日のことなんれすけど…」
「今週の土曜日って…29日か。みどりの誕生日だよね、何かやりたいことでもあるのかい?」
「んー、それが何もないのれす。去年は旅行だったれすし…どうしたらいいんれしょう?」
「行ってみたいところとかないのかい?」
「それが全く思いつかないのれす。ご主人さまは何かいい案ないれすか?」
「そうだなあ…ちょっと遠くだけど、あそこならいいかな?」
「え?どこれすか?ご主人さま」
「どこって…それは楽しみにしてて。ちょっと待って、晶に連絡取ってみるから」
ピッピッピッピッピッ トゥルルルルルル
『はいもしもし、先輩どうしました?』
「いつものやつだけど、今週末にお願いできるか?」
『今週末ですか…んー、何とか大丈夫ですけど…?』
「ん?何かまずいのか?無理強いはしないからさ」
『えっと…帰りに迎えに行くくらいならできますけど、ちょっとその日は使いたいんで』
「んー、それならいいや。また必要な時に電話するから」
『はいー、力になれずにすみません。ではまたー』
ピッ
「どうれしたか?ご主人さま」
「んー、ダメみたい。でも電車とバスで行ける場所だし、そうしよっか?」
「みどりさんはそれれいいれすけど…ご主人さまはどうれすか?」
「僕もそれでいいよ。ちょっと遠くに行くから、お弁当も持っていこうね」
「分かったのれす。それれはよろしくれす、ご主人さま」
「うん」
その日はそうして暮れていった…
 
そしてその当日…
「ご主人さまあ、あっされっすよー!」
「ん?んーーっ!あ、おはようみどり。今日は早起きだね」
「はいれす、お弁当を作るために早起きしたれすよ」
「そっか。それでお弁当は、もう作り終わっちゃったの?」
「えっと…おかずは全部入れたのれ、あとはおにぎりだけれすよ」
「そっか、じゃあ一緒におにぎり作ろうか」
「え?ご主人さまも作ってくれるのれすか?」
「いいよ、そのために僕を起こしたんじゃないの?」
「う…そう言われたら返す言葉が無いのれす」
「よし、じゃあ手を洗ってくるね」
「はいなのれす〜」
 
「「行ってきまーす!」」
バタンッ
二人は荷物を持って玄関を出た。みどりの右手には弁当が、ご主人さまの左手にはその他の荷物があった。
「そういえばどこに行くのれすか?ご主人さま」
「それは秘密だよ、でもとってもいい場所だからさ」
「そうなのれすか…んー気になるれすけどガマンするれす」
「そうしてくれるとありがたいかな、まずは駅まで行くからほら」
と、ご主人さまは空いている右手を差し出した。
ぎゅっ
その差し出された右手に、みどりは左手を重ねて握り締めた。そのまま二人は駅へと向かって行った。
 
「はいみどり、この切符を出してね」
「えーっと、どこまで行くのれすか?この切符だと遠くに行けるれすよね?」
「そんなに遠くないよ、この範囲内ならどこまでも使えるからさ。行く場所はここだよ」
と、ご主人さまは切符に描かれていた路線図の一箇所を指した。
「ふえ!?こんなに遠くに行くのれすか?」
「うん、さらにそこからバスで40分くらいの場所だよ」
「ほえー…あ、そろそろ電車の時間じゃないれすか?ご主人さま」
「そうだね、そろそろ快速が来るから構内に入ろう」
二人は改札を通り、快速が来るホームへと移動していった。
………
トントン
「みどり、もうすぐ着くよ」
「ふえ?みどりさん寝ていたのれすか?」
「そうみたいだね、この列車快速だから次が終点じゃないんだ」
「そうなんれすか。いつもの列車と違うんれすね」
「うん。降りなきゃ別のとこ行っちゃうから、降りる準備しておいてね」
「はいれす」
………
「次はバスれすね。どのバスに乗るのれすか?」
「えーっと、あそこに行くのは…あれだな。先に切符買ってくるからバス停で待ってて」
「はいなのれす」
 
プシュー ブワァンっ
二人はとあるバス停でバスを降りた。そこは、とある丘くらいの山の入口であった。
「ちょっと登った先だから、行こうかみどり」
「ご主人さま…いったいここはどこなのれすか?」
「ん?行けば分かるからさ、とっても綺麗な所だよ」
「そうなのれすかっ、それならみどりさん頑張るのれす」
「その意気その意気だよ、すぐ着くからさ」
………
10分くらい登った先にあったもの、それは…
「うわぁ………ご主人さま、綺麗れす………」
もう言葉に出来ないほど千紫万紅の花々が咲き乱れている花畑であった。
「けっこう昔に見つけてたんだけど、まだ残ってて良かった…」
「昔にも来たことがあるのれすか?ご主人さま」
「うん、10年くらい前に一回だけね。また見れて良かったよ」
「本当に綺麗れ、いい香りれす…こんな綺麗な景色、初めてれすよ」
と、そこに…
ぐぅぅぅぅ くぅぅぅぅ
二つの音がどこからか、もちろん二人以外に音を出すものは無い。
「みどり、ちょっと早いけどお昼ご飯にしようか」
「そうれすね、ご主人さま。ご飯食べたらここれゆっくりするれすよ」
「うん、じゃあ敷物を敷くからちょっと待っててね」
昼ごはんを食べた後のゆっくりしている間に、幸せな寝顔を見せていた二人が居た…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
2006年度BSSスタートです。
ちょっと短いですが、こんな感じの話に。
忙しかったのでちょっと微妙な話になってしまった感がありますが、わりとプロット通りにいきました。
今年度は卒研でかなり忙しくなるので、ちょっと予定通りいかないかも知れませんが、
気長によろしくお願いします。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2006・04・07FRI
短編小説に戻る