Flat White(ミルクの入ったコーヒー)
秋風が秋を少しずつ深めていく、そんな頃のこと…
「熱っ!」
「だ・大丈夫かい?あかね」
「え?あ、うん…大丈夫だよ…ご主人さま。ミルク入ってるのに…まだ熱かったみたいだ」
今日は秋分、あかねはご主人さまと一緒に街へ出ていた。
………
これは一週間ほど前のこと…
「ご主人さま…少しいいかな?」
「あ、あかね。うん、いいけど…どうしたんだい?そんな神妙な面持ちでさ」
「だって…明日のことだから」
「そう言うってことは、決まったんだね?」
「うん…明日はご主人さまと一緒に…街に出たいなって」
「それはつまり…うん、分かったよ」
「あの吉水さんの店にも寄りたいな」
「分かってるって、でもあの店は3年ぶりになるかな」
「そうだっけ…私も最近は余り行けてないよ」
「そっか、じゃあそこはコースに含めるとして…他には行きたい場所はある?」
「えっ…私はご主人さまと一緒に過ごせるなら…それだけで…」
「うーん、でもそう言われると難しいな」
「でも…映画は大きな音が突然来ると…怖いから」
「ま、それは街に出てから考えようか。その時の気分で変わるかもしれないしさ」
「そうだね…」
………
当日の朝…
つんつん
ご主人さまの蒲団の横で、頬を突く少女が一人…
「ご主人さま…ご主人さま…」
「ぐぅ…すぅ…ぐぅ…すぅ…」
「くっ…手強いなやはり…これは奥の手を使わざるを得ないな」
と、徐にあかねはポニーテールを掴みながら
こしょこしょこしょこしょ
「うあっ!あ…あかね?」
「おはよう…ご主人さま」
「おはようあかね…って、やっぱり髪の毛でやってたのか」
「うん…だってご主人さまがなかなか起きないから…」
「そんなことよりさ、そんな近くに居るとな…」
ばさっ ぎゅうっ ばさんっ
ご主人さまはあかねを蒲団の中へと引き込んだ。
「ご・ご主人さまっ!?」
「隙だらけだよ、あかね」
「フフ…確かにそうかも。でもこうしてると…温かいな」
「それじゃあこのままお休みなさい」
「えっ…ちょ・ちょっとご主人さま…今日は…」
「冗談だよ、冗談。でもまだこんな時間だし、もう少しだけいいかな?」
「…そうだね…みんなが起き出すまでは」
「だからもう少しこのまま、ね」
「うん…ご主人さまの…香りだ…」
「あかね…いい香りだよ」
「そんなご主人さまったら…」
ぎゅうっ
あかねは蒲団の中でご主人さまを抱きしめ返していた。
………
「何か欲しいものはあるの?」
「え…あると言えばあるけど…でも今はいいかな」
「それならどうして行こうと思ったの?」
「良く分からないな…ご主人さまと一緒にいたかっただけだから…」
「うーん、そっか。あかねがそれでいいなら、それでいいけどね」
「それに…何か欲しい物が見つかるかもしれないから」
「あまり高くない物にしてね、占いの物って高い物が多いからなあ」
「善処するよ…」
………
買い物を終えて吉水さんの店を出た二人。
「こんな安い物で良かったの?」
「…え?もっと高くても大丈夫だったの?てっきり私…」
「いや、意外と安かったから拍子抜けしただけだよ」
「あとどれくらいまで大丈夫…?」
「んー、6千円は大丈夫かな」
「あ、それなら…着いてきて欲しいところがあるんだけど」
「いいけど、何か買って欲しい物でも思い出した?」
「うん…こういう機会ならいいかな…」
「よく分からないけど着いていくよ、案内してね」
「ああ…行くよ」
………
ここはとある地下モールにあるお店…
「ご主人さまって…何号?」
「え?んーとよく分からないな。測れるのってあるかな?」
「どうだろう…大きいほうからはめていった方が早いかな…」
「それもそうかな、だとすると…一番大きいのはこの23号かな?」
「うん、ご主人さまの指って…太いね」
「さすがに女性とは違うさ、仕事があるからさ」
「これが、私たちを支えてる指なんだ…何かカッコいい…」
「そうかな?ちょっと照れちゃうかな…っとよし、これかな?」
「そうみたいだね…それと同じ私のサイズのは…これだな」
「え?覚えてるんだ、指の太さ」
「たまに占いのときに…付けなくてはダメなのがあるから…」
「なるほどね、これで合わせて…ペアで5千円か」
「買ってくるよ…ご主人さま」
「うん、はいお金。これ終わったらさ、喫茶店で休もうよ」
「ご主人さま…もう疲れたの?」
「それもあるけど…今日はまだ長いんだしさ、ゆっくりいこうよ」
「フフ…そうだね」
………
「こんなコーヒーを飲んでる時のキスも…甘いものなのかな?」
「そこまで言うなら試してみる?」
「えっ…」
二人の顔の距離は零へと漸近し…
チュッ
「ちょっと、苦かったかな?」
「フフ…少し苦いかな」
ご主人さまとあかねの口付けは少しだけ苦く、でもとても甘い物だったという…
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あとがき
祝6周年、雅です。
今回は短文繋ぎ形式、久々に使ってみました。
こうやって場面が転換するタイプが本来十八番だったりするんですけどね。
しかし当サイトも6周年…もう6執念ですから(苦笑)。
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2007・09・03MON
雅