Until Get Across a Crosswalk...(横断歩道を渡るまで…)
急な寒の戻りがありつつも、春の花があと少しで芳しく咲き誇る頃のこと…
「らん?らーんっ?」
ご主人さまの肩に頭を預けて、電車に揺られるらんの姿があった。
「寝ちゃってるのか、やっぱり。しょうがないか、いっぱい歩き回ったし」
………
ここは行きの電車の中…
「それにしても珍しいね」
「はい?何がでしょう?」
「らんの方からこうして誘ってくるなんてさ」
「いえ、せっかくの誕生日ですから。こんな時くらいでしか…」
「まあ確かにそうかもしれないね、えっと…あの駅だからあと2つくらいかな」
「今通過した駅からすると…あと3つです」
「と言うことは快速だしもうすぐ着くのか…でも、何が欲しいんだい?」
「えっと…特に何がと言うわけは…あ、でも…」
「ん?」
「それはこんなところでは言えません、恥ずかしいですっ」
「何かは分かった気がするけど…でも特に何が欲しいってのは無かったんだ」
「はい、こうしてご主人さまと二人っきりで過ごせる時間が欲しかっただけです」
「確かにたまの買い物でしか二人きりになるってことはないしなあ」
「だから今日くらいしか独り占めに出来ないですし」
「やっぱりみんなそう思ってるのかな?」
「あかねちゃんや、つばさちゃん以上の皆さんはやっぱりそう思ってるみたいです」
「そうなんだ…あ、もうすぐかな」
「はい。降りたら十分ほど歩きますけど、よろしいですか?」
「いいよ、今日はらんにとことん付き合ってあげる日なんだから」
「それならば…」
ぎゅうっ
「らん!?」
らんはご主人さまの腕へと抱き着いた。
「え?今とことん付き合うって…」
「くっ付き合うってことじゃなくって…ま、いいか」
「いいんですね?ご主人さま」
「いいよ、それにしても今日のらんは何だか積極的なような気がするよ」
「せっかくの二人きりですから、こんな日くらいこうしていたいんですっ」
「(こういうらんも、何だかいいな…)」
「あ、着きましたね。行きましょ、ご主人さま」
「あ、う、うん」
らんとご主人さまはくっ付きながら改札を出て、街の方へと歩き始めた。
「えっと…さすがに僕は入りづらいな、ここは」
「ご主人さまはここで待っててください、ちょっと選んできます」
ここは、複合商業施設のある店。どんな店かは言わずもがな。
「しかし、こんな店が出来たのか…いろんな店が入ってるんだなあ…」
パンフレットを見ながら呟くご主人さま。
「んー…らんが戻ってきたらここに行こうかな。いや、こっちの方にするべきか…」
「ご主人さま?」
「それとも、こっちのフロアのここか…」
「ご主人さまっ」
「ああっ!ゴメンゴメン、買うのが決まったの?」
「はい、それで…」
「そういうことか。やっぱりそれなりにするんだね…はい、さすがに買ってくるのは恥ずかしいし」
「ありがとうございます、それでは行ってきますね」
「うん」
ここは所変わって食器が多めな雑貨屋さん。
「カップ…ですか?」
「うん、どうせだったらお揃いのなんかどうかなって」
「え、え…ええっ!?」
少し顔が紅くなっているらん。
「らんが嫌なら別にいいんだけどさ、何となく言ってみただけだし」
「ご主人さまは、らんと一緒の物で本当に良いのですか?」
「別に構わないけど…まずいかな、それってやっぱり」
「みんなからの視線が何だか…いつかの枕だってそうだったじゃないですか」
「あー…そんなの気にすることはないさ、あくまでプレゼントなんだからね」
「ご主人さまがそこまで言ってくれるなら…買いましょ」
「うん、デザインはらんが選んでくれるかな?」
「おまかせください、ご主人さまは何色がお好きでしたっけ?」
「んーと、割と何でも好きだけど青っぽいのがいいかな」
「それだと…そうですね…」
こうして二人のデートのような時間は、帰りの電車まで続いていった。
………
つんつんつん
「ほら、起きてよ。もう着いちゃうからさ」
「ん…んんー…え?あ?こ…ここは…?」
「ここはって、電車の中だよ。良く寝てたね、らん」
「え、そ、そんな…もしかして…」
「うん、ずっと僕の肩に頭を乗せて…ね」
「は・恥ずかしいです…」
「僕は気持ち良かったかな、いい香りがしてさ」
「そんな…でもご主人さまにそう言ってもらえるなら…」
「ら、らん。もう降りるからさ」
「は、はい」
そう言い合った二人の顔は、少し紅く染まっていた。
………
改札を出て、家への道を行く二人。
「ご主人さま」
「何だい?らん」
「最後に一つ、わがままを言ってもいいですか?」
「別に構わないけど、どうしたの?」
「家の近くの横断歩道まで…手をつないでてもいいですか?」
「それくらいなら、家まででもいいけど…」
「え、えっと…みんなに見られたら少し恥ずかしいので…」
「そっか…そこまでらんが言うなら、そうしよう」
サッ
ご主人さまはらんの手元へと手を差し出した。
ぎゅうっ
らんはその手をしっかりと握り締めた。
「帰ろう」
「はい」
二人の手は仲睦まじく握られ続けていた、家の近くの横断歩道を渡るまで…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
2006年度ファイナルになりました。
明日は大学の卒業式、前日に何やってるんだか(苦笑)。
しかし今年度も長かった…でも、辛い中にも楽しさがどこかありましたよ。
来年度は3月中にやるかやらないかは決めておきますね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2007・03・21NAT/WED
雅