In the Clearness Air(清澄な空気の中で)

「んー…空気は気持ちいいけどちょっと寒いね、ご主人さま」
「ちょっとね、まさか昨日雪が降るなんてね…」
「昨日は確かに寒かったからね、寒いけどこんないい天気だよ」
「うん、本当に今日は晴れてくれて良かった」
「ボクの日頃の行いが良かったのかな?」
「そうかも、ここのところつばさはよく頑張ってたよ」
「え…そ・そうかなあ。あ、だけどご主人さまって…これやったことあるの?」
「そういうつばさこそどうなんだい?」
なぜか少し震えている二人の足元、それもそのはず…
「ボクはめいどの世界以来かなあ、ご主人さまと一緒になってからやってなかったし」
「僕だってかなり前だよ、その時もあんまり出来なかった気がするなあ」
「それじゃあご主人さまってほとんど初心者ってことなの?」
「うん、たぶんつばさより出来ないと思うよ」
「それなら今日はボクが鍛えてあげるね」
「え?うん…お願いするよ」
「でもご主人さま、立てるならすぐに上達するよ」
「そうかな?まあ今日はゆっくり教えてね」
「うん、ほらご主人さま掴って」
そう、ここはスケート場。つばさの誕生日である今日、スケートをやりに来ていたのだ。
 
それは元日のこと…
「あけましておめでとうだよ、ご主人さま」
「ん、んー…つばさ、今何時?」
「えっと…今は朝の5時くらいだと思うけど…」
「つばさは…こんな日でも起きるのが早いんだ」
「えっ、あ…ご主人さま、まだ眠たかった?」
「昨日は遅かったし…もうちょっと眠りたいかな」
「あ、ゴメン…眠たいのに起こしちゃって」
「うーん…どうしようかな。ただで許すわけにもなあ…」
「えっと…ボクはどうすればいいの…?」
少し不安顔になるつばさ。
「そうだな…入って」
「えっ…?入るってボクがご主人さまの蒲団の中に入るってこと?」
「もちろんだよ、罰はそれからゆっくりと考えてあげるからさ」
「う・うん、分かった…入るね」
スススススス
少し顔を紅くしながらご主人さまの蒲団の中に入っていくつばさ。
「ん…ご主人さま、いい匂いがする」
「そ・そうかな?」
「それにご主人さま、とっても温かいよ」
「んっ…確かにちょっとつばさの身体冷たいかも」
「ゴメンご主人さま、ちょっと蒲団の外に出てたから…」
「でも、つばさもいい香りだな…女の子の香りって感じが出てるよ」
「そうかなあ、でもそう言ってもらえると嬉しいな」
「あ、そうだ。今のうちに決めちゃおうか」
「へ?何をなの?ご主人さま」
「もう4日後じゃないか、忘れてるのかな?」
「4日後って…あ、もうボクの誕生日が来るんだっけ」
「つばさが望むものが一番いいんじゃないかって思ってさ」
「ボクが望むものって…今こうしていられるだけで幸せだけど、うーん」
「ゆっくり考えてていいよ、まだ6時前なんだしさ」
「で、でもゆっくり考えてるとゆきさん達が起きちゃうし…」
「いいんだよ、早く起きたつばさの特権だよ。それにこの状況にしたのは僕じゃないか」
「それはそうだけど…」
「ゆきさんには僕が言えば良い話だしね、じっくり考えててよ」
「それじゃあご主人さま、ちょっといいかな?」
「え?どうしたの?つばさ」
「ちょっとご主人さまに抱きついていい?ボクの身体、まだ冷えてるから」
「いいけど…何だか罰ゲームになってない気がするな…」
「え・えっと罰ゲームって何のことだったっけ?ご主人さま」
「ん?シラを切るつもりかな?つ・ば・さ・ちゃんっ」
つんっ
「んっ!」
つばさの頬を一突きするご主人さま。
「ゴメンゴメンご主人さま、ちゃんと覚えてるってばあ」
「本当かな?何か怪しいなあ…」
ご主人さまの手はいつの間にかつばさのわき腹の辺りに移動していて…
びくうっ
「ひゃんっ!ご主人さまくすぐったい!くすぐったいってっ!」
「え?これくらい耐えてくれなくちゃ、罰ゲームにならないじゃないか」
「ご主人さま、もう、もう許してよお…ご主人さまぁ」
「どうしようかな、誕生日のことを言ってくれるまで続けようっか」
「そんなこと…きゃうんっ…うぅぅ…あ、ご主人さま」
「何だい?つばさ」
「アイススケートってだめかなあ?んひゃんっ!」
やっとのことでご主人さまのくすぐりから開放されたつばさ。
「アイススケートかあ、つばさがそれでいいなら僕はかまわないよ」
「それじゃあそうしよう、ご主人さま」
「そうだね、これで誕生日の件はよしっと」
「ご主人さま、これで罰ゲームは終わりだよね?」
「そうだけど…それがどうしたの?」
「だって、抱きついていいって約束だったよね?」
「う…忘れてた…いいよ、つばさ」
ぎゅうっ
蒲団の中のご主人さまに抱きつくつばさ。
「ご主人さま…温かあい…それにいい匂い…」
「何だか恥ずかしいな、それと…」
「んー?どうしたのご主人さま」
「その…成長してるんだな、つばさ」
「う…ボクだって女の子だもん…」
「そうだよな、守護天使とは言ってもつばさも女の子だしな」
二人はそのまま寝過ごして後でゆき達にこっ酷く怒られたのは言うまでもない。
………
「もう手を離しても大丈夫そう?ご主人さま」
「う、うん。たぶんもう大丈夫だと思う」
「でもとっても飲み込みが早いよ、勘がいいんだねご主人さまって」
「そう言ってもらえると何だか照れちゃうけど…ありがとうつばさ」
「それじゃあ行こっ!あの端っこまで競争だよっ!」
「あっ!待ってつばさー!」
二人は清澄な空気の下、恋人のようにアイススケートを笑顔で楽しんでいた…
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あとがき
2006年度BSS12本目です。
今年最後のSSとなってしまいました。今年は本当に遅筆となってしまい、申し訳なく思っています。
あ、そうそう。今年の18連作のテーマは、1文字目が全て今年のJ1の地名1文字目ということでした。
あ…今回のSS。受験生が見ても良いように禁句は入れてないですから。難しかったですけど。
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2006・12・31SUN
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