Winter Capriccio(冬の綺想曲)

「ううっ…今日も寒いなぁ…」
ご主人さまは冬空の街を、少しだけ早足気味になって家に向かっていた。
「そうですわね、ご主人さま」
「早く冬が終わらないかな、ゆきさん…ってうわっ!ゆきさん、いつの間に…」
「いえ、ちょうど買い物が終わったところに、ご主人さまがいたものですから…」
「あ、そうなんだ。でもゆきさんは暑いよりは寒い方がいいでしょ」
「はい、でも…フフフ…うちには寒いのが駄目な子も居ますわね」
「あ…そうだね、ハハハ」
二人はどうやら着膨れ姿のるるを思い出したようだ。
「あ、荷物少し持ってあげようか?」
「え、いいですわ。ご主人さまの手を煩わせるわけにはいきません」
「え…そんなこと気にしなくたっていいのにさ」
「そうですか…あ!一つ買い忘れてた物がありました」
「それなら僕も付き合うさ」
「ご主人さまお疲れでしょう、お先にお帰りください」
「ゆきさん、そうやって自分だけで抱え込むのは悪いくせだよ。たまにはさ、甘えたっていいんだからさ」
「…それもそうですね…今日だけは甘えさせてもらいます」
二人は足早に商店街の方へと戻っていった。
………
買い忘れの物を買って、再び家路につく二人。
「そうだ、ゆきさん。明日はどうする?」
「え…明日とは?」
「だって明日は、ゆきさんの誕生日でしょ」
「あ…もう…そんな時期なのですね…」
「何だ…忘れていたのかい?」
「はい、最近は色々と忙しかったですし」
「ま、いっか。それでどうしたい?明日は」
「そうですね…ご主人さま、どこか遠くに行きたいです」
「そっか…それじゃあドライブでも行こうか」
「へ…ご主人さま、車の免許をお持ちなんですか?」
「うん、多分みんな知らなかったと思うけどね。車は後輩に言えば軽だけど借りれるし」
「そうですか…それならお願いできますか?」
「うん、それじゃあ明日はどこか遠くに行こうね」
「はい」
ゆきはいつもより子供っぽい笑みで、その言葉に応えた。
 
その夜…電話口で…
「お…お久しぶりです、どうしたんです?」
「すまんな晶、突然かけて。あのさ、明日車貸してくれない?」
「え…いいですけど、どうしたんです?いきなりなんて」
「いやな、僕の守護天使の一人が誕生日でさ、どこか遠くに行きたいって言ったからさ」
「分かりました、では明日そちらに持って行きますね。何時くらいにしましょうか?」
「それじゃあ、9時に持ってこれる?」
「はい、それなら何とか」
「それじゃあお願いね」
ピッ
「ご主人さま、明日はどちらかへお出かけされるんですか?」
「うん、あゆみ。ゆきさんと出掛けてくるよ」
「いいなあ、みかもご主人さまとドライブしたかったぁ」
「みーかーちゃんっ!…でもそうですわね…ご主人さま」
「分かった、今度レンタカー借りてみんなでどこかに行くことにしよっか(やっぱりそうなるわけか…)」
※普通運転免許は11人まで。但し小学生までは3人で2人換算なので、6×2÷3+3+3+1=11(P.E.T.S.時換算)なので大丈夫である。※
 
翌日…
「おはよーございますー」
ご主人さまの前には、黒っぽい緑色の軽自動車が横付けされた。
「おはよう晶。すまんな、こんな日にこんなことをさせたりして」
「いいですよ、他ならぬ先輩の頼みですし」
「ありがとう、恩に着るよ」
「それでは、私はこれで失礼します」
バタン
晶はそのままどこかに去っていった。
「ゆきさーん、大丈夫かい?」
「はい、準備はOKです」
「それじゃあ行こう」
ばたん ばたん ブルルルン
2人を乗せた車は発進した。
「それでどこに行く?」
「え…ご主人さまが行かれる場所なら…どちらでも…」
「うーん…じゃあせっかくのドライブだし…海岸線を走ろうか?」
「はい」
車は海へと進路を変えていった。
 
びゅうぅぅんっ ざばーんざざざざざ
車は冬の海岸に着いた。車の中で昼食を済ませた二人は、車から降りて波打ち際へと向かった。
「やっぱり冬の海は寒いね、ゆきさん」
「はい、でも…」
ぎゅうううっ
「ゆ・ゆきさん!?」
と、ゆきはご主人さまを抱き締めた。
「こうしていれば…とても暖かいです…」
「…そうだ、もっと暖かくなる方法があるけど」
「え?」
「この中に…入りなよ…」
ご主人さまは自分のコートの中を指した。
「…え…いいのですか?ご主人さま」
「悪いのならそんなことは言わないよ、それにこっちの方が温かいしさ」
「それならば、お言葉に甘えます…」
すすすすす
ゆきはご主人さまのコートの中に入って、首だけをコートから出した。
「温かいです…ご主人さまの温もりをこんなに近くで感じることが出来るなんて…」
「ゆきさんも…とっても温かいよ…」
しばらく二人は向かい合わせになって抱き合っていた。そして…
チュゥゥゥッ
どちらからともなく、互いの唇を求めあった。
カチッ
「…ご主人さま…これは…?」
ゆきの首に付けられたのは、青色の珠の付いたチョーカーであった。
「僕とゆきさんとがいつまでも繋がっていられるように…そのための物さ」
「あ…ありがとう…ございます…」
すすすすす
ゆきはその紅潮した顔を見せないようにか、コートの中に顔を隠してしまった。二人はそのままの体勢でしばらくいたあと、帰路についたという…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
すみません、タイトル変更いたしました(みかBSS)。夜想曲だとこのSSに合わないと思いまして。
真夏の盛りを思わせないSS(笑)です。
ちなみに作中に出てきた「晶」と言う人物は、ご主人さまの後輩という設定で苗字は「紫水(しみず)」です。
※印の文はあくまでP.E.T.S.時の換算です。特にしぽChu!は計算が合いません。
ちなみに165日前、5ヵ月半前です。
あ、ここで予告です。もう一年分、誕生日SSは書きます。ちなみにタイトルは全員分がすでに決定してますので…。
裏SSはもう少しお待ちください、色々と平行して書いてましたので…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2003・08・21THU
短編小説に戻る