Cluster Amaryllis(曼珠沙華)
ザザーン…ザザーン…
「ふう…着いたよ、あかね」
「うん…ご主人さま…」
二人が来た場所、それは…
「去年の約束…ご主人さまが覚えていてくれて良かった…」
「忘れるはずないじゃないか、大事な天使との約束なんだからさ」
海岸から100mほど離れた無人島、島と言ってもそれほど大きいものではない。
「それに二人きりになりたいって言ったのは、あかねの方じゃないか」
「うん…ご主人さま…本当に嬉しい…」
「でもまあここに居るのもアレだしさ、島の散策でもしよっか」
「そうだね…」
ゴムボートを降りて砂浜に上げ、ボートの紐を木に結わえた二人。
「ご主人さま…」
「何だい?あかね」
「手…繋いでほしいな…」
ぎゅうっ
ご主人さまは差し出された手を受け入れ、しっかりと握り締めた。
「これでいいかな?あかね」
「うん…」
「それじゃあ行こうか」
「そうだね…ご主人さま…」
二人は森の中へと歩みを進めた。
「あ、ご主人さま…」
「何だい?あかね」
「ほら、あの花…」
「あの花のことかい?」
「何て…名前だっけ?」
「確か…そうだ、彼岸花だったな。ちょうど今頃花をつけるんだよな」
「彼岸花…そうだったっけ…」
「うん、他には…そうだ、曼珠沙華って言ったはずだよ」
「あ、そうだ…その名前の方が聞いたことがあるな…」
「この花を見ると、あかねを思い出すんだよ」
「え!?」
少しだけ顔を紅らめるあかね。
「どうしてなの?ご主人さま」
「この花、またの名を狐花って言うんだよ。それにこの花の花言葉の一つに…」
「一つに?」
「悲しい思い出…ってあるんだよ」
「………」
「だから、子供の頃はあかねの命日に毎年供えてたんだ」
「ご主人さま…」
ぎゅうっ
あかねはご主人さまへと自然に抱きついた。
「でもさ、あかね」
「何だい?ご主人さま…」
「この花のもう一つの花言葉は知ってるかな?」
「え?もう一つ…?」
「もう一つの花言葉があるんだよ、この彼岸花にはね」
「そうなんだ」
「でも、あかねには似合わないかもね、この言葉はさ」
「もったいぶらないで教えてよ…ご主人さま」
「もう一つはね、情熱なんだよ」
「…確かに、あんまり似合わないかもね。でも…」
「え・でも?」
ぎゅむっ
あかねはご主人さまに抱きついた腕の力をさらに強めて…
「ご主人さまに掛ける情熱は…ずっと変わってないから…」
「それは分かってるさ、あかね」
なでなでなで
ご主人さまはそんなあかねの頭を静かに撫でてあげていた。
「ご主人さま…温かい…」
「そうかい?あかね」
「うん…安心できる温かさだよ…」
「安心できる、か…」
「だからしばらくこのままで…」
「いいよ、あかねがそれを望むならね」
しばらく二人は、互いの温もりを確かめ合うように抱き合っていた。
………
「あれ?ご主人さま…」
「どうしたんだい?あかね」
「あそこにあるの…さっきの曼珠沙華に似てるけど…」
「えっと、確か彼岸花って赤だけじゃなくて白いのもあるって聞いたことがあるな」
「そうなんだ…」
「でも、珍しいな。こんな隣同士に赤と白が咲くなんて」
「本当だね…まるで私たちみたい…」
「え?聞こえなかったけど何か言った?あかね」
「な・何でもないよ…何でも。ほらご主人さま…行こう」
「あ、うん。それじゃあ行こうか」
二人はまた手を繋いで島の散策に入った。
「大きい樹だね…ご主人さま」
「うん。この葉っぱからして、この木は桜の木かな」
「そう…みたいだね」
「と言うことは、この木が彼岸桜かな」
「え・どうして分かるの…?」
「この島の名前を知らなかった?この島の名前は桜花島、別名彼岸島なんだよ」
「彼岸島…なんだ」
「さっき、あのゴムボートを借りる時に聞いたんだ」
「そうだったんだ…」
「春の彼岸に咲く彼岸桜の桜と、秋の彼岸に咲く彼岸花の花。合わせて桜花島なんだってさ」
「春の彼岸って…らん姉さんの誕生日だよね」
「うん。その頃には島がピンク色に染まるって言ってた」
「またその頃にも…来てみたいな」
「そうだね。時間が許せばまた来てみような、あかね」
そしてどちらからともなく…
チュゥゥッ
二人は口付けを交わした。
「あ、ご主人さま…」
「どうしたんだ…あ…」
二人が見た物、それは…
「「道だ!」」
潮のちょうど引く時間、それは島と向こう岸とを繋ぐ道を作る時間でもあったのだ。
「これなら、来る時ほど苦労せずに帰れるかな」
「そうだね…。でも、ご主人さまが一生懸命ボートを漕いでる姿…格好良かったよ…」
「う・あ、ありがとうあかね」
「ご主人さま…もしかして照れてる…?」
「ちょっとだけね。よし、じゃあ道が出来てるうちに帰ろうか」
「うん…」
ザッザッザッ… ザザーン…ザザーン…
二人はゴムボートを小さくたたんで、潮が引いて出来た道を歩き始めた。
そんな二人を見送るように夕陽に染まった赤と白の曼珠沙華は静かに揺れていた…
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あとがき
当日仕上げじゃないの何作ぶりだろう…管理人です。
誕生日SS9本目(管理人BSS含む)、今回は割とすんなりと書けました。
今回の作品の「桜花島」、実は前に一度、短編連作で出ています。
連作第4期の「島」という作品の島のことを言っています。
そちらを読んでもう一度この作品を読み返すと、また違った想いに…なるかなぁ?なると思います。
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2005・09・20TUE
雅