Believe Clossing(想いの交差)

「はあ…」
溜息もでちゃうよ、本当に…
「みー、ご飯よー」
「今食べたくないから、後にするー」
親の呼びかけにも気だるい返事しか出来ないよ…
「冷めちゃうから早くしなさいねー」
「うーん」
アタシは飛宮神子、高校2年生。
「はあ…」
溜息を出すと幸せが逃げるって言うけど、しょうがないよね…
え?どうして親が「みー」って言ったかって?
実はうちの女系の長女って、代々「みこ」って名前だから呼び分けないとダメなんだ。
何か、7代で名前を回しているらしいんだけど。
「しょうがない、ご飯でも食べに行こっと」
アタシは気だるくベッドから起き上がり、部屋を出た。
 
「ごちそーさまでした」
カチャンカチャカチャ くしゅっくしゃっ
最近一番最後に食べ終わる事が多くて、皿洗いがアタシの仕事になっちゃってるんだ。
「はあ…司則さん…」
溜息の原因、長月司則(つかのり)さん。アタシの2年上で部活の先輩だったんだけどね。
「まーた姉ちゃん、あいつの話かよ」
「ふわあっ!大樹、いつからいたのっ」
「姉ちゃんが台所に食器を置いた時から、何か飲む物を取りに来たらこれだしさ」
「いいじゃない、アタシの好きでしょ」
「ま、俺には関係ない話だからいいけどさ」
「はい、それじゃあさっさとあっちに行く!」
「分かったよ、ったく…」
今日もこうして夜が更けていく…
 
翌日…
「あと3日でまた休み、がーんばるぞっと」
いつもと変わらぬ朝、平日のバスでしか会えない司則さんに会う。それだけで一日が楽しくなるんだ。
「おはよぉ、お姉ちゃん」
「ん…おはよ、詠子」
「ご飯出来てるから早く食べてだって、お母さんが言ってたよ」
「分かってるって、用意できたらすぐ食べに行くって」
「あと昨日の皿洗い、一枚割ったのバレてるよだって」
あっちゃー、妄想に浸ってた時に落として割っちゃったの、綺麗に片付けたし一枚くらいバレないと思ったのに。
「分かった…すぐに行くからって言っといて、詠子」
「うん、分かったよ」
………
「行ってきまーす!」
はあ…やっぱり怒られちゃった。朝からついてないなぁ…。
いつものバス停にいつも通りの時刻。このバス通学ももう2年目だな…
………
「よし、いつもの席に座れたっと」
アタシの特等席、二人掛けの一番後ろの席なんだ。司則さんにはいつも隣に座ってもらうの。
そして2つ先のバス停、アタシの大好きな司則さんが乗って…きたっ!
「おはよう、神子ちゃん」
「お・おはようございます…司則さん」
こうして通うのも2年目だけど…やっぱり緊張しちゃうよ。
「どうしたんだい?今日は少ししょんぼりしているように見えるけど」
「やっぱりそう見えます?朝からちょっとお母さんに怒られちゃって」
「また何か割っちゃったのかい?」
「はい…」
やっぱり司則さんにはお見通しだったみたい。
「まったく、おっちょこちょいなところは相変わらずだな」
「あう…どうせアタシはそうですよーだ」
「ご・ごめんごめん、神子ちゃん」
「別に怒ってるわけじゃないです、かわりに今週末何かおごってくださいね」
「やっぱり怒ってるじゃない、いいけどさ」
「それじゃあ約束ですよ…ってもうアタシ降りなきゃ」
「ほんとだ…うん、じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます、司則さん」
まさかこの次に会えるのがバス以外でだって、その時のアタシは想像もしなかったよ。
 
翌日…
「あと2日か、週末が楽しみだなっ」
いつもと変わらぬ朝…この時はまだそう思ってたんだけど…。
………
「行ってきまーす!」
今日もいつものバス停にいつも通りの時刻。
………
「よし、いつもの席に座れたっと」
アタシの特等席、今日もここまではオッケーだった。だけど…
そして2つ先のバス停…あれ?何で通過したんだろ?司則さん…どうしたんだろ?
いつもとの歯車はここで既に狂い始めていたようだった。
 
さらに翌日…
「今日さえ終われば週末…かぁ…」
いつもと変わらぬ朝…昨日は会えなかったけど今日は…会えるかな?
………
「行ってきまーす!」
今日も今日とていつものバス停にいつも通りの時刻。
………
「よし、今日もいつもの席に座れたっと」
アタシの特等席、今日こそ来てくれる…よね。
そして2つ先のバス停…あれ?今日も通過?司則さん…どうしたんだろ?まさか…ってそんなことはないよね。
アタシは胸騒ぎを隠し切れなくて、今日の授業も半分以上うわの空だった。
 
その夜、一通の手紙にアタシは青ざめた。その手紙にはこう書かれていたの。
『7と8 11と12が 最初に交わりし点の
 真ん中に近傍の スーパーの駐車場
 君の宝をそこに置いた。
 9と10の時の 間までに一人で来なければ
 首切り役人が 君の宝を奪いに来るだろう。』
「司則さんっ!」
アタシの悪い予感は的中してしまった、やっぱり司則さんは誰かに連れ去られていたんだ。
でも…どうしよう…分かんないよ、こんな暗号なんて…
そして刻一刻と時は過ぎていく…。その夜、アタシは眠ることが出来なかった。
………
朝8時30分、タイムリミットまであと1時間
「分かんないよ…どうしよう…」
この朝もご飯さえ食べずにずっと考えていたアタシ
「もう普段なら学校にいる時間だよ…浜浦町線に乗って…浜浦町線は12A…あっ!?」
そっか、12Aは浜浦町先回りの循環線…そして11Aは信濃町先回りの循環線…最初、つまり始発同士で交わるのは確か…
そして7Aと8Aも、最初に交わるのは確か…ということは真ん中って…
「司則さんっ!今行くからねっ!」
アタシはもうなりふり構わず家から飛び出した
 
「司則さんお願い…無事でいて…」
アタシは走った。街はもう動き出す時間、でも車が来ようがもう関係ないよっ
道を1本越え、2本越え、ただひたすらあのスーパーの駐車場に向かって一目散に、そして…
「えっ…どこ………あっ!」
着いた先の地元チェーン店のスーパー、その駐車場の真ん中にあった一台のミニバン
「鍵は…開いてるっ!」
ガチャッ
「司則さんっ!」
「……あれっ!?ここはっ!?」
「話している暇はないの、早くっ…早くこの車から出てっ!」
「え?あ、うんっ」
と、アタシ達が車から離れて1分も経たないうちに…
ドガーーンッッッ
時限爆弾らしきものが積んであったらしい、それは物凄い爆風だった。
アタシ達は警察とかに連絡して一通り色々と終えた後、現場近くの川岸へと向かった。
「司則さん…司則さぁんっ!」
ぎゅうっ
そこで抱きついた温もり、アタシにはそれだけで涙を催すに充分だった。
「ありがとう、神子ちゃん。助けに来てくれたってことだったんだ」
「うん、怖かったよ。でも…」
「ん?でも…?」
「でもアタシ、司則さんが大好きだから…」
「僕も、だよ。だってこんなに一生懸命に僕のことを想っていてくれてるんだから」
「ねえ、司則さん」
「何だい?神子ちゃん」
「助けたお礼に…」
ぎゅっ チュゥゥゥッ
アタシのファーストキス、それはアタシの大切な人とのキスになってくれた。
「いいよね?」
「いいよね?って、やってから言うかい?普通さ」
「いいじゃない。それに折角のアタシのヴァージンリップなんだから、もっと喜んでよぉ」
「…って神子ちゃんらしいな。ま、僕もファーストキスだったからいいか」
「えっ!?そうだったの!?」
「そうだけど、別に気にしなくていいさ。僕だって好きな人とのキスだしさ」
「司則さん…」
アタシはしばらく、アタシの一番に大切な人を抱きしめ続けていた。
そして連休明け。司則さんの誕生日に、アタシは一人暮らしの司則さんの家へと行った…
 
この事件の犯人?司則さんの知り合いだったみたい。そんなに何か怨まれるような事したのかな?
で、何でアタシに脅迫状を送ってきたかって?犯人たちに司則さんがアタシの事をよく話していたみたい。
でもよかった…これで司則さんのことももっと好きになれたし。
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あとがき
2本目のオリジナルSS、オリジナルSS自体は4年ぶりですね。
最近バスを見てて想う事があって書きました。
…また作品の仕上がりとしては微妙な所かもしれません。
と言うより、自分のHNを使う時点で…ですよね。
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2005・10・07FRI
琴瑞
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