Wish of Sunset(夕日の願い)

3月の桜がもうすぐ咲きそうな頃のこと…
「おつかれさま、やよい。どうだった?卒業式とライブは」
やよい「楽しかったですー、ちょっと名残惜しかったですけど…」
ここはやよいが卒業する学校で、控室として借りている音楽室の中。
「でも答辞はかっこよかったな、緊張はしなかったか?」
やよい「緊張はちょっとしましたけど、その後のライブに比べたら大丈夫でした」
「しかしなあ、もうやよいも今度の誕生日で18か」
やよい「そうですね、アイドルを始めてから5年…です」
「そうだよな、最初の頃はどうなるかと思ってたけどな」
やよい「んー、今思い出すと大変でしたね…」
「でもあの頃があったから今のやよいがあるわけだけどさ」
やよい「懐かしいけど、全部がとてもいい思い出です」
「お、その気持ちは大切だな」
やよい「そういえばプロデューサー、ライブの方はどうでした?」
「おう、ばっちりだったぞ。なかなか泣かせてくれるじゃないか」
やよい「今日は卒業式だったので、最後はちょっと大人っぽく歌ってみちゃいました」
「ああ、もう最後の『my song』で体育館の半分くらいが号泣だったからな」
やよい「でもいい思い出になりました、思い出になる場所で歌えたから」
「でもこっちはびっくりしたんだからな。聞かされたの3週間前だったしさ」
やよい「ごめんなさい、決まったのがつい一ヵ月前だったから…それにあの頃は忙しくて話す機会が無くって…あと…」
「いいよ謝らなくても、他ならぬやよいのためだからさ。ん?あと?」
やよい「実は当日まで秘密のサプライズライブにしてたんです、なので先生方と本当に一部の人しか知らなかったんです」
「あー、それはしょうがないか。どうりでみんな驚いてたわけだ」
やよい「はい、みんなびっくりしてくれて嬉しかったです」
「何せあの卒業式のプログラムが突然裏返る演出だったからなあ」
やよい「でもありがとうございましたプロデューサー。突然だったから衣装の手配とか…」
「いや、倉庫に全員分入ってたしそれは問題なかったさ。むしろ大丈夫だったか?」
やよい「え?何ですか?」
「制服の下にあれ着込んでたわけだからさ、それが心配だったんだよ」
やよい「何とか大丈夫でした。色付きだったのでちょっと聞かれちゃいましたけど、色付きのシャツって誤魔化しました」
「そっか…でもまあそれにしても、あの曲構成は見事だったぞ」
やよい「あれは親友と考えたんです、もう口だけは堅くしてくれました」
「GO MY WAY!!にshiny smile、思い出をありがとうにまっすぐとmy songだったっけ」
やよい「はい。新曲も入れてくれて、本当に歌いがいがありました」
「確かになあ、まだ発売されてそんなに経ってなかったよな、『my song』は」
やよい「でも最後の曲はこれだって、二人ですぐに決めた曲なんですそれ」
「うん。今まで出した曲の中だと、一番最後にふさわしいかもな」
やよい「あの曲で私まで泣きそうになっちゃいました。あ、でももう『まっすぐ』くらいから涙が出そうで…」
「やっぱり寂しい?」
やよい「寂しいです…ちょっと…んっ…」
「やよい、こっち来て泣いていいぞ」
やよい「え、プロデューサー…」
「ほら、俺の胸で泣いてもらっても構わないから」
やよい「プロ…デューサー…」
プロデューサーはやよいの頭を抱え込むように抱きしめた。
 
「落ち着いたか?やよい」
やよい「はい…ごめんなさい、プロデューサー」
「いや、いいんだよ。それがプロデューサーの俺の役目なんだから」
やよい「でももうプロデューサーと一緒に活動を始めてから、5年なんですね…」
「5年なんだよな…短いようで長いもんだな」
やよい「もうプロデューサーの居ない生活なんて考えられないかもです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
やよい「でもプロデューサーは何でずっと私のプロデューサーをしてるんですか?」
「それはどういうこと?」
やよい「だって、本当は1年だけだったって聞いてたから…」
「んー、何て言うかな…やよいの魅力に惹かれて行ったからかな」
やよい「魅力…ですか?」
「ああ、子供っぽさの中に秘めた大人になっていく部分に」
やよい「私…子供っぽいですか?」
「いや、もう充分大人っぽいよ。少なくとも俺にとってはな」
やよい「プロデューサー…」
「今のやよい、俺は大好きだから」
やよい「えっと…何だか照れちゃいます…」
「俺だって…何だか恥ずかしいよ」
やよい「でも…」
「でも?」
やよい「私もプロデューサーのこと、大好きです」
「嬉しいこと言ってくれるな、ありがとうやよい」
やよい「ん…やっぱりちょっと恥ずかしい…です」
「それはそうさ。こんなこと普段面と向かって言ったこと無かったし。あ、そうだ…」
やよい「何ですか?プロデューサー」
「今日は時間あるのか?」
やよい「時間ですか?何時くらいまでですか?」
「そうだな、夜前くらいまでだけど」
やよい「はい、それくらいまでなら大丈夫です」
「あ、友達とかと約束してるならそっちを優先してもらって構わないから」
やよい「大丈夫です、それは明日と明後日に予定してるから」
「家族の方は大丈夫か?」
やよい「今日は何かあるかもだったから、夜までは帰らない予定だったんで大丈夫です」
「それならいいか。それまでちょっとドライブしようか、卒業記念にさ」
やよい「え?いいんですか?プロデューサー」
「ああ、せっかくの卒業なんだからさ」
やよい「うっうー!楽しみですーっ」
「おっ、久々にそれが聞けたな」
やよい「だってもう、うきうきしてきちゃったから」
「とりあえず帰れる準備してきてくれ。できたら裏から行くぞ」
やよい「はい、それじゃあ行ってきまーす」
………
そしてここはドライブ途中の夕刻のうみ○たる…
やよい「綺麗ですね…プロデューサー」
「ああ、綺麗だな」
やよい「私、ここに来るの初めてだったんです」
「俺も数えるほどしか来てないな、でもやっぱりいいな」
やよい「プロデューサーと来れて…本当に良かったです」
「ああ、俺もだ」
二人の間には言葉など必要は無かった。
「あのさ、やよい。真剣な話があるんだ。聞いてくれ」
やよい「な、何ですか?プロデューサー」
「ずっと考えてたんだ、今日までさ」
やよい「………」
「やよいの家のことは全て俺が責任を持つ、だから…」
やよい「えっ…」
「だから、やよいの特別な元気と笑顔を、俺だけのためにいつも見せてくれないか」
やよい「え…プ、プロデューサー…」
「プロデューサーじゃなくて、一人の男として…」
やよい「………」
「俺と…一緒になって欲しい、やよい」
やよい「こ、こんな私でも…い、いいんですか?」
「やよいでもじゃない、やよいだからだ」
やよい「プロデューサー…ううん、○○さん…」
ぎゅうっ
やよいはプロデューサーへと抱きついた。
やよい「私でよかったら…もらってください…私の全て…」
二人の姿は夕日に照らされて一本の影を伸ばしていた…
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あとがき
飛神宮子です。
とあるサイトの投稿ネタを昇華させてみました。
これも小鳥さんや律子とはパラレルワールドと思ってください。
いやー、一日で仕上げるのはなかなか難儀だ…
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2008・06・22SUN
飛神宮子
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