ひゅうんっ |
一陣の風が駆け抜けていく。 |
真美 | 「ううっ…さーむーいー!」 |
律子 | 「ほら、もうすぐ事務所に着くから我慢しなさい」 |
やよい | 「これだけ買えばしばらくは大丈夫ですよね?」 |
律子 | 「どうかしらねえ…そこの頭の色が茶色いネズミさんが食べたりしなければね」 |
真美 | 「むー、真美のこと?」 |
律子 | 「それもこれも真美と亜美がお菓子を全部食べちゃったからじゃないの」 |
真美 | 「う…痛いところ突かれたー」 |
やよい | 「あー、もしかしてあれ全部食べたのって真美達だったの?」 |
真美 | 「あれって?」 |
やよい | 「律子さんと私が貰ってきたあのお菓子だよ」 |
真美 | 「あ…あれってやよいっち達のだったの?」 |
やよい | 「そうだよ。うー、あれ楽しみにしてたのにー」 |
真美 | 「ゴメンっ、やよいっち」 |
律子 | 「今日の買い物はその罰なのよ」 |
真美 | 「えー、じゃあ亜美は?」 |
律子 | 「亜美もちゃんと罰は受けてもらっているわ」 |
真美 | 「そうなの?」 |
律子 | 「ええ。今回のイベントでお土産のお菓子を自腹で買ってくることになってるの」 |
真美 | 「うへぇ、じゃあこっちで良かったー」 |
律子 | 「ほら、入るわよ」 |
ガチャっ |
事務所のドアを開けた律子。 |
三人 | 『ただいまー』 |
小鳥 | 「お帰りなさい、律子さん、やよいちゃん、真美ちゃん」 |
やよい | 「寒かったですー」 |
小鳥 | 「まずは荷物はこっちに置いて。3人とも洗面所で手洗いとうがいをしてね」 |
三人 | 『はーい』 |
……… |
律子 | 「ふう、温まったわ」 |
やよい | 「ココア美味しいですー」 |
真美 | 「今日は本当に寒いもんね」 |
小鳥 | 「3人ともご苦労さま。ソファでゆっくり休んでてもらっていいわよ」 |
律子 | 「小鳥さん、あれは大丈夫でした?」 |
小鳥 | 「ええ。ちゃんと代引で受け取っておいたわ。お釣りは律子さんの机の上にあるから」 |
律子 | 「ありがとうございます、代理で受け取ってもらってすみません」 |
小鳥 | 「いいのよ、こういう時こそ頼ってもらって構わないから」 |
真美 | 「律っちゃん、何か買ったの?」 |
律子 | 「そうなの。通販だったんだけど未成年はダメって書かれてて、小鳥さんに頼んだのよ」 |
やよい | 「この前言ってた、あの別バージョンですか?」 |
律子 | 「それよそれ。それが通販限定だったの」 |
やよい | 「そうだったんですか。あとで見せて欲しいですー」 |
律子 | 「まあ減るもんじゃないから、今見せてあげるわね」 |
真美 | 「あ、真美が持ってくるよん」 |
律子 | 「それならお願いするわね」 |
|
真美 | 「律っちゃんの机の上にあったこれっしょ?」 |
律子 | 「たぶんそれね。さってと…」 |
ベリベリベリ |
箱のテープを剥いでいく律子。 |
パカッ |
中に入っていたのは… |
真美 | 「律っちゃん、何?これ」 |
一つの何やら重厚そうなケースだった。 |
パカッ |
そのケースを開けるとようやく買った物が正体を現した。 |
律子 | 「これよこれ」 |
真美 | 「あー、メガネだったんだ」 |
律子 | 「レンズは一緒に買うのは合いにくいからフレームだけよ、ほら。」 |
律子はフレームの中に指を通した。 |
小鳥 | 「律子さん、それ凄い値段なのね」 |
律子 | 「はい。落としても大丈夫なように、それなりのフレームを選びましたから」 |
やよい | 「律子さん、かっこいいですー」 |
律子 | 「フフフ、ありがとうやよい」 |
やよい | 「この前は大変だったですからね、律子さん」 |
律子 | 「あのイベントで急に落として踏みつけかけた時に、フレームが若干歪んじゃってね」 |
真美 | 「あー、律っちゃんのメガネが昔のになってたのってその時だっけ?」 |
律子 | 「そうよ。昔のも見つからなくてかなり前のでしばらく間に合わせてたけど、やっぱり度が合わなくて大変だったわ」 |
やよい | 「律子さんがあのメガネの時って、ちょっと目つきが変わっちゃって怖いです…」 |
律子 | 「やっぱり…そう見えるのね」 |
やよい | 「メガネだけじゃなくて、よく分からないですけど…うーん、何なのかなあ」 |
律子 | 「…どうしたの?やよい」 |
やよい | 「何だか分からないけど、あのメガネの時ってちょっと嫌って感じがします」 |
律子 | 「どうしてかしら?目つき以外は同じように接しているはずだけど…」 |
真美 | 「やよいっち、どしたの?」 |
やよい | 「雰囲気だけじゃなくて、えと…えと…」 |
小鳥 | 「分かるわやよいちゃん、それはね…」 |
律子 | 「やよいじゃなくてどうして小鳥さんが分かるんです?」 |
小鳥 | 「律子さん、私は律子さんがいる前からいるのよ?」 |
律子 | 「そうですけど…」 |
小鳥 | 「じゃあ聞くわね、そのメガネっていつ次のに変えたかしら?」 |
律子 | 「確か…えっと…いつ頃だったかしら?アイドルに入れられてからなのは確かだけど… |
小鳥 | 「変えたのは、ラジオが始まってしばらくした頃ね。履歴書の写真と一緒だから憶えてるわ」 |
律子 | 「確かにその…」 |
やよい | 「あーっ!」 |
やよいがようやく閃いたのか声を上げた。 |
真美 | 「どうしたの?やよいっち」 |
やよい | 「その頃のメガネと一緒ってことは、まだ律子さんと仲良くなかった頃ですっ」 |
小鳥 | 「そういうことよ。その頃の印象がやよいちゃんにきっと根付いていたのね」 |
律子 | 「そうだったのね…何か昔のこと思い出させちゃってゴメンねやよい」 |
やよい | 「いいんですー、私も変に意識しちゃったからでしたからっ」 |
真美 | 「やよいっちと律っちゃんにもそんな頃があったんだねー、しみじみ」 |
律子 | 「真美はどうなのよ?そういうのとかないの?」 |
真美 | 「どうかな、あるのかもしれないけど分からないなー」 |
小鳥 | 「亜美ちゃんとかとは?」 |
真美 | 「あー、竜宮小町になった時はそれがあったかも」 |
律子 | 「むしろ亜美が真美に対して思ったんじゃないかしらね。髪型とか急に変わっちゃったから」 |
真美 | 「あ、そっかも。でもこの髪型気に入ってるからもう替えられないなー」 |
その後も真美とやよいと律子は小鳥を交えて昔の思い出に花を咲かせていたという… |