Wind Landscape 03(風の風景その3)

ひゅうんっ
一陣の風が駆け抜けていく。
春香「寒っ…」
一人の少女がふと呟いた。
春香「もう…冬も近いんだよね…」
コートの襟をさらに絞っていく。
春香「今日はもう終わりだから…あっ、あのショップに寄ってから帰ろうっと」
その少女は視線の先の一つの店に狙いを定めた。
………
ガチャっ
アクセサリーショップへと足を踏み入れる少女。
店員『いらっしゃいませー』
春香「ふふんっ、今日はいいリボン入ってるかな?」
その少女が店内を見回すと…
春香「あれ…?あの人って確か…」
視線の先にいたのは…
貴音「む…?」
その女性も少女の方へと振り向いた。
貴音「あなたは…765プロの…」
春香「は、はいっ」
急にかしこまってしまうその少女。
春香「えっと確か…四条さん?だったかな?」
貴音「はい…。そちらは…天海…春香?」
春香「そうですっ」
貴音「天海春香は、何ゆえにこちらへ…?」
春香「わ、私は新しいリボンが見たいなって」
貴音「そうですか…」
春香「四条さんは…(うう…何だか話しかけづらいよぉ…)?」
貴音「わたくしはこちらを…」
貴音はそう言いながらヘアバンドを頭に着けた。
春香「うーん…」
貴音「何でしょうか、その怪訝そうな言い方は」
春香「何だか似合わないって思っちゃ…ああっ!ゴメンなさい。私なんか関係ないのに…」
春香が踵を返そうとしたその瞬間に…
貴音「待ちなさい!天海春香」
ぎゅうっ
そう言いながら向こうに行こうとした春香の腕を掴んだ。
春香「えっ…うわあっ!?」
その急な反動でバランスを崩し…
どんがらがっしゃーん
盛大に転んでしまう春香。幸いにも通路に転んだので被害は最小限で済んだ。
春香「あいたたたぁ…」
貴音「申し訳ありません…天海春香」
春香「あ…えっと…」
貴音「急にわたくしが腕を掴んだが故の事故、いくら敵方とはいえこれは謝らねば気が済みませぬ」
春香「いや、大丈夫ですけど…どうしたんですか急に」
貴音「先ほどそこまで言われたのが少し気にかかりました」
春香「え?」
貴音「わたくしにこれが似合わないと言ったではありませんか」
春香「…あっ、で、でも…」
貴音「敵方の言葉とはいえ、学ぶべきことは学びたいのです」
春香「わ、分かりました」
貴音「まずなぜこれを似合わないと言ったのですか?」
春香「それは…四条さんの髪の色にはどうしても合わないかなって」
貴音「わたくしの髪の色…ですか?」
春香「銀色に近い髪の色だから、あまり青系は寒色系で合わないって思ったんです」
貴音「そうですか…」
春香「薄い紫だと特に色が似ちゃってて、ダメかなって見てて思いました」
貴音「なるほど…参考にいたします」
春香「あのっ、もういいですか?」
貴音「…どういたしましょうか…」
春香「えっ…?」
………
春香「こくっ…こくっ…はぁ…」
貴音「ごくんっ…ふぅ…」
春香「…って、どうして私がこんな所に!?」
春香は貴音にそのまま引かれるがまま喫茶店に来た。
貴音「それは一瞬の気の迷いであると言いましょう」
春香「………(うう…でも逃げられる雰囲気とかじゃないよね…)」
貴音「どうされたのです?天海春香」
春香「え、えっと…その…」
貴音「帰りたければそれで構いません。連れて来たのはわたくしですので」
春香「でも…」
貴音「しかしいくらわたくしに連れられたとはいえ、途中で離れなかったのは何ゆえなのです?」
春香「離してくれる雰囲気じゃ無かったじゃないですか」
貴音「いえ、貴女が嫌と言えばすぐに解放いたしましたが」
春香「だけど、何て言うか…」
貴音「はい…?」
春香「こういう機会があっても良いって…」
貴音「それは…」
春香「前に響ちゃんと逢った時も…961プロ自体は敵かもだけど、所属しているアイドルは仕事の外では敵じゃないんだって」
貴音「なっ…」
春香「だから、さっき四条さんがショップで私を止めたのも…そういうことかなって思ったんです」
貴音「確かに…そのようなことになりましょう」
春香「だから一度こうして…じっくり話してみようって…」
貴音「わたくしも…ですわ」
春香「こうやって過ごして…四条さんのことが少し分かりました」
貴音「フフフ、そうですか」
春香「美希のことだって今でも考えたりすることがあったりするし…」
貴音「美希ですか…」
春香「あまりにこっちも突然のことだったから…」
貴音「今はこちらでまだ、貴女方のことを倒して奪いたいと言っておりますが」
春香「美希…」
貴音「いずれわたくし達と貴女方は雌雄を決する時が参りましょう」
春香「その時は…全力で戦います」
貴音「こちらも全力で迎え撃ちますゆえ覚悟願います」
春香「はい…」
貴音「ただ、今だけは…」
春香「…そうですね、今だけは…」
二人は何か今までと違う確かな繋がりを心に感じていた…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
風の風景その3は春香と961の貴音。
春香もあまりの不自然さについ口を滑らせたのでしょう。
事務所は敵かもしれないけれど、アイドル自身は本当に敵?私はそうは思えないのです。
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2012・11・30FRI
飛神宮子
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