ひゅうんっ |
一陣の風が駆け抜けていく。 |
春香 | 「寒っ…」 |
一人の少女がふと呟いた。 |
春香 | 「もう…冬も近いんだよね…」 |
コートの襟をさらに絞っていく。 |
春香 | 「今日はもう終わりだから…あっ、あのショップに寄ってから帰ろうっと」 |
その少女は視線の先の一つの店に狙いを定めた。 |
……… |
ガチャっ |
アクセサリーショップへと足を踏み入れる少女。 |
店員 | 『いらっしゃいませー』 |
春香 | 「ふふんっ、今日はいいリボン入ってるかな?」 |
その少女が店内を見回すと… |
春香 | 「あれ…?あの人って確か…」 |
視線の先にいたのは… |
貴音 | 「む…?」 |
その女性も少女の方へと振り向いた。 |
貴音 | 「あなたは…765プロの…」 |
春香 | 「は、はいっ」 |
急にかしこまってしまうその少女。 |
春香 | 「えっと確か…四条さん?だったかな?」 |
貴音 | 「はい…。そちらは…天海…春香?」 |
春香 | 「そうですっ」 |
貴音 | 「天海春香は、何ゆえにこちらへ…?」 |
春香 | 「わ、私は新しいリボンが見たいなって」 |
貴音 | 「そうですか…」 |
春香 | 「四条さんは…(うう…何だか話しかけづらいよぉ…)?」 |
貴音 | 「わたくしはこちらを…」 |
貴音はそう言いながらヘアバンドを頭に着けた。 |
春香 | 「うーん…」 |
貴音 | 「何でしょうか、その怪訝そうな言い方は」 |
春香 | 「何だか似合わないって思っちゃ…ああっ!ゴメンなさい。私なんか関係ないのに…」 |
春香が踵を返そうとしたその瞬間に… |
貴音 | 「待ちなさい!天海春香」 |
ぎゅうっ |
そう言いながら向こうに行こうとした春香の腕を掴んだ。 |
春香 | 「えっ…うわあっ!?」 |
その急な反動でバランスを崩し… |
どんがらがっしゃーん |
盛大に転んでしまう春香。幸いにも通路に転んだので被害は最小限で済んだ。 |
春香 | 「あいたたたぁ…」 |
貴音 | 「申し訳ありません…天海春香」 |
春香 | 「あ…えっと…」 |
貴音 | 「急にわたくしが腕を掴んだが故の事故、いくら敵方とはいえこれは謝らねば気が済みませぬ」 |
春香 | 「いや、大丈夫ですけど…どうしたんですか急に」 |
貴音 | 「先ほどそこまで言われたのが少し気にかかりました」 |
春香 | 「え?」 |
貴音 | 「わたくしにこれが似合わないと言ったではありませんか」 |
春香 | 「…あっ、で、でも…」 |
貴音 | 「敵方の言葉とはいえ、学ぶべきことは学びたいのです」 |
春香 | 「わ、分かりました」 |
貴音 | 「まずなぜこれを似合わないと言ったのですか?」 |
春香 | 「それは…四条さんの髪の色にはどうしても合わないかなって」 |
貴音 | 「わたくしの髪の色…ですか?」 |
春香 | 「銀色に近い髪の色だから、あまり青系は寒色系で合わないって思ったんです」 |
貴音 | 「そうですか…」 |
春香 | 「薄い紫だと特に色が似ちゃってて、ダメかなって見てて思いました」 |
貴音 | 「なるほど…参考にいたします」 |
春香 | 「あのっ、もういいですか?」 |
貴音 | 「…どういたしましょうか…」 |
春香 | 「えっ…?」 |
……… |
春香 | 「こくっ…こくっ…はぁ…」 |
貴音 | 「ごくんっ…ふぅ…」 |
春香 | 「…って、どうして私がこんな所に!?」 |
春香は貴音にそのまま引かれるがまま喫茶店に来た。 |
貴音 | 「それは一瞬の気の迷いであると言いましょう」 |
春香 | 「………(うう…でも逃げられる雰囲気とかじゃないよね…)」 |
貴音 | 「どうされたのです?天海春香」 |
春香 | 「え、えっと…その…」 |
貴音 | 「帰りたければそれで構いません。連れて来たのはわたくしですので」 |
春香 | 「でも…」 |
貴音 | 「しかしいくらわたくしに連れられたとはいえ、途中で離れなかったのは何ゆえなのです?」 |
春香 | 「離してくれる雰囲気じゃ無かったじゃないですか」 |
貴音 | 「いえ、貴女が嫌と言えばすぐに解放いたしましたが」 |
春香 | 「だけど、何て言うか…」 |
貴音 | 「はい…?」 |
春香 | 「こういう機会があっても良いって…」 |
貴音 | 「それは…」 |
春香 | 「前に響ちゃんと逢った時も…961プロ自体は敵かもだけど、所属しているアイドルは仕事の外では敵じゃないんだって」 |
貴音 | 「なっ…」 |
春香 | 「だから、さっき四条さんがショップで私を止めたのも…そういうことかなって思ったんです」 |
貴音 | 「確かに…そのようなことになりましょう」 |
春香 | 「だから一度こうして…じっくり話してみようって…」 |
貴音 | 「わたくしも…ですわ」 |
春香 | 「こうやって過ごして…四条さんのことが少し分かりました」 |
貴音 | 「フフフ、そうですか」 |
春香 | 「美希のことだって今でも考えたりすることがあったりするし…」 |
貴音 | 「美希ですか…」 |
春香 | 「あまりにこっちも突然のことだったから…」 |
貴音 | 「今はこちらでまだ、貴女方のことを倒して奪いたいと言っておりますが」 |
春香 | 「美希…」 |
貴音 | 「いずれわたくし達と貴女方は雌雄を決する時が参りましょう」 |
春香 | 「その時は…全力で戦います」 |
貴音 | 「こちらも全力で迎え撃ちますゆえ覚悟願います」 |
春香 | 「はい…」 |
貴音 | 「ただ、今だけは…」 |
春香 | 「…そうですね、今だけは…」 |
二人は何か今までと違う確かな繋がりを心に感じていた… |