ひゅうんっ |
一陣の風が駆け抜けていく。 |
響 | 「ううっ、寒いけど終わるまでは我慢さー!」 |
土手沿いを歩いていた一人の少女が何やら叫んでいた。 |
わんわんっ |
それに呼応するかのような鳴き声。 |
響 | 「イヌ美も散歩が久し振りだもんなー」 |
わんわんっ |
響 | 「それにしても、ここってことはあと5kmかー。ううっ寒ーっ」 |
響はその身を震わせた。 |
響 | 「さーって、早く家に帰ってみんなの夕食を用意するかー」 |
駆け出そうとしたその時だった。 |
ファーー |
何やらクラクションの音が響の耳へと届いた。 |
響 | 「ん?」 |
響が鳴った方角へと振り向くと… |
響 | 「誰だろ?あの車は…」 |
窓が開いて顔を出したのは… |
……… |
響 | 「だ、大丈夫なのか?こいつも乗せちゃって…」 |
わんっ… |
何だかイヌ美も少し声を潜めている。 |
伊織 | 「いいの、大丈夫じゃなきゃ乗せないわ」 |
響 | 「でもどうしてあんな所に来たんだ?伊織」 |
伊織 | 「いいじゃない、夕日が綺麗な場所に来たらたまたま響がいたのよ」 |
響 | 「そっか…それで自分を送ってくれんだよな?」 |
伊織 | 「ええ…あ、そうね…」 |
響 | 「ん?」 |
伊織 | 「響は明日まで時間あるかしら?」 |
響 | 「時間か?明日はオフになってるし、みんなの朝ご飯は自動でも何とかなるけどな」 |
伊織 | 「それなら…私の家にどう?」 |
響 | 「え?自分がか?」 |
伊織 | 「そうよ。今日は家の人がいないから…どうかしら?」 |
響 | 「うーん…自分は別にいいけどさー」 |
伊織 | 「じゃあ決まりね。響の家に寄るから、準備が終わったら連絡を頂戴」 |
響 | 「分かったぞ」 |
……… |
響 | 「よしっと、これで明日の昼間では大丈夫だな。じゃあちょっと行ってくるからなー、おやすみさー、みんな」 |
バタンッ ガチャンッ |
響はドアの鍵を閉めた。 |
響 | 「さってと…ってそういえばこういうのは初めてだなー」 |
Pi♪ |
Trrrrr… Trrrrr… |
響 | 「もしもーし」 |
伊織 | 『もしもし、もう大丈夫かしら?』 |
響 | 「ああ、もう大丈夫だぞ」 |
伊織 | 『5分くらいでそっちに着くわ。入り口で待っていてもらえるかしら?』 |
響 | 「入り口か?分かったぞ」 |
Pi♪ |
響 | 「さーて、入り口まで急ぐかー」 |
響はカバンを持って入り口へと歩みを進めた。 |
……… |
執事 | 『では何か御用がありましたらご連絡を戴ければ。夕食はもう出来ておりますのでいつでもお越しを』 |
伊織 | 「分かったわ、下がって」 |
バタンッ |
伊織 | 「…ふぅ…」 |
響 | 「しっかしやっぱり凄いなー、自分の家とは大違いさ」 |
伊織 | 「そうかしら?…って何そんなにキョロキョロ見回しているのよ」 |
ここは伊織の家の伊織の部屋。 |
響 | 「だってこういう所に突然来るとか、心の準備も出来ていなかったんだぞ」 |
伊織 | 「もう…今日はお客さん…じゃないのよ」 |
響 | 「へ?」 |
伊織 | 「お客さんというより…友達としてなんだから」 |
響 | 「そっか…」 |
伊織 | 「まずは夕食よ。別の部屋だから付いて来て」 |
響 | 「ほいほーい」 |
……… |
シャーーーーー |
響 | 「本当にどこもかしこも広いさー」 |
伊織 | 「これでも普段使っている部屋の一部分だけなのよ?」 |
響 | 「でも気持ちいいぞー」 |
伊織 | 「湯加減はどう?」 |
響 | 「ちょうどいいぞ。こうやって足を伸ばせるっていいな」 |
キュッキュッ |
伊織 | 「お風呂はやっぱりゆったり入りたいわよね」 |
チャプンッ ザプンッ |
伊織も身体を洗い終わって湯船へと入っていった。 |
伊織 | 「はぁっ…」 |
響 | 「何だか蕩けそうだぞ伊織も」 |
伊織 | 「気持ちいいなら誰だってそうなるでしょ」 |
響 | 「でもこんなに広いのに、今日一人じゃ寂しいと思うさ」 |
伊織 | 「…ええ…」 |
響 | 「ん?どうした伊織」 |
ふと響が伊織の方を向いて一つ気が付いた。 |
伊織 | 「な、何でもないわ」 |
そう言いながらも響の近くへと動いてくる伊織。 |
響 | 「何でもないわけ…ないんじゃないか?」 |
伊織 | 「………」 |
ぴとっ |
ついには響に寄り添う形へとなっていた。 |
伊織 | 「ゴメンなさい…私のわがままだけでこんなことになって…」 |
響 | 「別に…構わないぞ。自分でもいいなら、仲間なんだからさ」 |
伊織 | 「ありがと…響。誰かに甘えたかったの…ちょっと寂しかったから」 |
響 | 「伊織も意外とこういうとこあるんだな、でも分かるぞ」 |
伊織 | 「そうなの?」 |
響 | 「自分も伊織と同じ、妹だからな」 |
伊織 | 「そうね…響もこういうことあるの?」 |
響 | 「たまにさ。自分はこっちに一人で来てるけど、動物も一杯だからあまり考えないけどな」 |
伊織 | 「ねえ、今日だけはちょっとだけ…いいかしら?」 |
響 | 「自分で…良かったらな」 |
そしてベッドの中、伊織は響に包み込まれるような寝姿で、安心したように静かに寝息を立てていたという… |