Wind Landscape 02(風の風景その2)

ひゅうんっ
一陣の風が駆け抜けていく。
「ううっ、寒いけど終わるまでは我慢さー!」
土手沿いを歩いていた一人の少女が何やら叫んでいた。
わんわんっ
それに呼応するかのような鳴き声。
「イヌ美も散歩が久し振りだもんなー」
わんわんっ
「それにしても、ここってことはあと5kmかー。ううっ寒ーっ」
響はその身を震わせた。
「さーって、早く家に帰ってみんなの夕食を用意するかー」
駆け出そうとしたその時だった。
ファーー
何やらクラクションの音が響の耳へと届いた。
「ん?」
響が鳴った方角へと振り向くと…
「誰だろ?あの車は…」
窓が開いて顔を出したのは…
………
「だ、大丈夫なのか?こいつも乗せちゃって…」
わんっ…
何だかイヌ美も少し声を潜めている。
伊織「いいの、大丈夫じゃなきゃ乗せないわ」
「でもどうしてあんな所に来たんだ?伊織」
伊織「いいじゃない、夕日が綺麗な場所に来たらたまたま響がいたのよ」
「そっか…それで自分を送ってくれんだよな?」
伊織「ええ…あ、そうね…」
「ん?」
伊織「響は明日まで時間あるかしら?」
「時間か?明日はオフになってるし、みんなの朝ご飯は自動でも何とかなるけどな」
伊織「それなら…私の家にどう?」
「え?自分がか?」
伊織「そうよ。今日は家の人がいないから…どうかしら?」
「うーん…自分は別にいいけどさー」
伊織「じゃあ決まりね。響の家に寄るから、準備が終わったら連絡を頂戴」
「分かったぞ」
………
「よしっと、これで明日の昼間では大丈夫だな。じゃあちょっと行ってくるからなー、おやすみさー、みんな」
バタンッ ガチャンッ
響はドアの鍵を閉めた。
「さってと…ってそういえばこういうのは初めてだなー」
Pi♪
Trrrrr… Trrrrr…
「もしもーし」
伊織『もしもし、もう大丈夫かしら?』
「ああ、もう大丈夫だぞ」
伊織『5分くらいでそっちに着くわ。入り口で待っていてもらえるかしら?』
「入り口か?分かったぞ」
Pi♪
「さーて、入り口まで急ぐかー」
響はカバンを持って入り口へと歩みを進めた。
………
執事『では何か御用がありましたらご連絡を戴ければ。夕食はもう出来ておりますのでいつでもお越しを』
伊織「分かったわ、下がって」
バタンッ
伊織「…ふぅ…」
「しっかしやっぱり凄いなー、自分の家とは大違いさ」
伊織「そうかしら?…って何そんなにキョロキョロ見回しているのよ」
ここは伊織の家の伊織の部屋。
「だってこういう所に突然来るとか、心の準備も出来ていなかったんだぞ」
伊織「もう…今日はお客さん…じゃないのよ」
「へ?」
伊織「お客さんというより…友達としてなんだから」
「そっか…」
伊織「まずは夕食よ。別の部屋だから付いて来て」
「ほいほーい」
………
シャーーーーー
「本当にどこもかしこも広いさー」
伊織「これでも普段使っている部屋の一部分だけなのよ?」
「でも気持ちいいぞー」
伊織「湯加減はどう?」
「ちょうどいいぞ。こうやって足を伸ばせるっていいな」
キュッキュッ
伊織「お風呂はやっぱりゆったり入りたいわよね」
チャプンッ ザプンッ
伊織も身体を洗い終わって湯船へと入っていった。
伊織「はぁっ…」
「何だか蕩けそうだぞ伊織も」
伊織「気持ちいいなら誰だってそうなるでしょ」
「でもこんなに広いのに、今日一人じゃ寂しいと思うさ」
伊織「…ええ…」
「ん?どうした伊織」
ふと響が伊織の方を向いて一つ気が付いた。
伊織「な、何でもないわ」
そう言いながらも響の近くへと動いてくる伊織。
「何でもないわけ…ないんじゃないか?」
伊織「………」
ぴとっ
ついには響に寄り添う形へとなっていた。
伊織「ゴメンなさい…私のわがままだけでこんなことになって…」
「別に…構わないぞ。自分でもいいなら、仲間なんだからさ」
伊織「ありがと…響。誰かに甘えたかったの…ちょっと寂しかったから」
「伊織も意外とこういうとこあるんだな、でも分かるぞ」
伊織「そうなの?」
「自分も伊織と同じ、妹だからな」
伊織「そうね…響もこういうことあるの?」
「たまにさ。自分はこっちに一人で来てるけど、動物も一杯だからあまり考えないけどな」
伊織「ねえ、今日だけはちょっとだけ…いいかしら?」
「自分で…良かったらな」
そしてベッドの中、伊織は響に包み込まれるような寝姿で、安心したように静かに寝息を立てていたという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
風の風景その2は伊織と響。
一人だけの家、風の吹きぬける音はさびしさも感じてしまうことでしょう。
響も伊織も「妹」。何か通じ合う物があったのかもしれません。
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2012・11・30FRI
飛神宮子
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