Heart Vicissitude(心の浮き沈み)

伊織「ふう…これで全部終わりね」
千早「ええ…こういう仕事は慣れていないから緊張したわ」
カポーン
そこでの仕事が全て終わったのか、二人の少女が温泉に浸かっているようだ。
伊織「それにしてもどうして今回千早となのよ」
千早「それは私に聞かないでよ水瀬さん。私にだって分からないのよ」
伊織「まあ…騒がしくない分だけ亜美とかよりマシだったわ」
千早「そう?」
伊織「でももう少し愛想よくなりなさいよ」
千早「…そんなこと言われても…」
伊織「千早はアイドルでしょ?いくら自分が思っていたところで」
千早「…ええ、そう思われるのはあんまり好きじゃないけど…」
伊織「けれどお仕事なんだから」
千早「分かってるわよ…」
伊織「それにしてもどうしたのよ、いつものアンタらしくないミスも出てたし」
千早「…それは…」
なぜか少し顔を紅くする千早。
伊織「何よ、言えない事なわけ?」
千早「………」
伊織「ははあん、春香ね?」
千早「…っ!どうしてっ?!」
伊織の言葉が図星だったのか、千早の驚きようは凄かった。
伊織「事務所から出た時からその調子だもの」
千早「1日も離れるなんて…」
伊織「そんなの平日ならいつものことじゃない」
千早「でも、仕事で離れることってそんな無かったから…」
伊織「あんたたち人の見ていないところで何しているわけよ」
千早「えっ…普通だと思うけれど…」
伊織「例えば?」
千早「一緒に楽屋の畳で寝転がりながらお喋りしたり、あとは春香の方からだけど抱きついてきたり」
伊織「まあ普通ね」
千早「あとはそのちょっとキ…キスされてみたり…してみ…」
伊織「ああっもういいわよ!惚気話はもうたくさんだわ」
千早「そう言う水瀬さんはどうなのよ」
伊織「私はそういうの無いから」
千早「そういえば聞かないわね。亜美たち以外は結構みんな聞くけれど」
伊織「…まあやよいが律子にベタベタだもの。あの牙城は崩しようがないの」
千早「そうね。あの二人はガッチリと繋がっているもの」
伊織「律子も隙が無いし、響もいるから…」
千早「やよいも大変ね…」
伊織「でもそういうみんなを見ているのが良いのかもしれないわ」
千早「そう…」
伊織「ちゃんとバレないようにしなさいよ」
千早「そういうところは考えてるから大丈夫」
伊織「まあ好きになるのは人の自由だけどねえ」
そこに…
バンバン
「おーい、二人ともまだかー?」
何やらガラス戸の向こうからノックと男性の声。
伊織「何やってるのよ、アンタ入ってこないのー?」
「ほ、本当にいいのか?千早も伊織も」
伊織「千早もいいんでしょ?」
千早「…まあ少し恥ずかしいけど…」
伊織「さっさと入ってきなさいよ!今日は私たちのボディーガードなんだから」
「じゃあ入るぞー」
ガラガラガラガラ ガラガラガラガラ ピシャンッ
ガラス戸を開けて一人の男性が入ってきた。
伊織「もう、何のために家族風呂取ってもらったのよ」
「いやそれはアイドルが普通の風呂に入ると混乱するかもってことだろ?伊織」
伊織「でもアンタが風呂に行っていてる時に私たちはどうしていればいいのよ?守ってくれる人いないじゃない」
「…そこまでは考えてなかったな」
伊織「ほら早く入りなさいよ。別に千早も良いって言ってるんだから」
「…じゃあお邪魔させてもらうか」
ザバッ ザバンッ ジャプンッ
プロデューサーはかけ湯をして二人が入っていた浴槽へと浸かった。
「ふう…気持ちいいな…」
千早「プロデューサー…」
「千早どうした?顔がやけに紅いぞ」
千早「な、何でもありませんっ!」
「え?あ、そ、そう言うなら良いけどな」
千早「先に身体洗ってきますっ」
ザバンッ
千早は顔を紅くしたまま洗い場の方へと行ってしまった。
伊織「にひひっ、千早ったらすっかり赤くなっちゃって」
「何だよ伊織、千早のことからかってたのか?」
伊織「まあそうね、少しカマをかけたらバッチリ的中したってところかしら」
「…あんまりそういうことするなって、千早はそういうのには弱いんだから」
伊織「そこが良いんじゃない」
「あ、そうだ。千早ー、一つ言わなくちゃいけないことがあるんだけど」
千早「な、何ですか?」
「律子とやよいがここ経由で仕事に行くって、小鳥さんの車で向かってるんだけどさ」
千早「それで何でしょう?」
「春香が一緒なんだってさ」
千早「…ええっ!?それってどういう…」
「何かさっき律子から連絡入ってな、明日も休みだから一緒に泊まりたいってことでな」
千早「フフフっ、ありがとうございます」
急に上機嫌になった千早。
伊織「やっぱり…想い人が一番のクスリなのね…」
「あ、伊織。俺と小鳥さん入れ替わりになるから」
伊織「え?アンタ泊まらないで行っちゃうの?」
「秋のま〜ちの仕事がどうしても責任者が必要でな、小鳥さんじゃ無理だって言われてさ」
伊織「分かったわ。もう…千早が春香に付くから私はプロデューサーと過ごせると思ったのに…」
「ゴメンな。じゃあこっち向いてくれ」
伊織「え?」
伊織がこっちを向いた瞬間に…
チュッ
その伊織の唇はプロデューサーの唇で塞がれた。
伊織「もう…仕方ないわね…」
「俺の分は小鳥さんに甘えてくれよ、小鳥さんにもちゃんと言ってあるからさ」
伊織「ええ。小鳥なら…一緒にいても楽しいからそれでいいわ…」
伊織の顔もさっきの千早のように紅く染まっていたという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
何というかこの二人って意外と疎遠な感じもします。
うちは基本的にやよいが律子にくっ付いているので、どうしても伊織が誰ともくっ付かないのです。
だから遠くでみんなを見ていられる、そういうことなのかもしれません…
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2011・09・30FRI
飛神宮子
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