The VENUS Unsnarls the Chaos(混乱を収める女神)

キョロキョロキョロ
何やら周りを見渡している真。さてここはどこなのだろうか…
伊織「何してんのよ、真」
「何だかボク、場違いな感じがしてさ」
伊織「もう…」
「でもまさかボクがこういうパーティーに呼ばれるなんてなあ」
伊織「しょうがないわよ。私が出るとなれば相方のアンタも出なきゃじゃない」
「確かに仕事だけどさ、ボクはこんなとこ初めてだもん」
水瀬グループのパーティーにゲストとして伊織と真が呼ばれたのだ。
そしてここは控室代わりの伊織の自室である。
伊織「だからちゃっちゃとやって、あとはパーティーに適当に紛れ込むわよ」
「ボクの分の着替えもあるんだよね?」
伊織「当然じゃない。それくらいこっちで用意したわよ」
よく見ると壁掛けには大小のパーティードレスが2着掛かっていた。
「さっすが伊織。ボクを女の子扱いしてくれるのはプロデューサーと伊織くらいだよ」
伊織「当然じゃない。真も曲がりなりにも女の子なんだから」
「曲がりなりにって…まあいいや」
伊織「時間は…あと10分くらいかしら」
「うわあ…少し緊張してきた」
伊織「そう?」
「だっていつもとお客さんが全然違うじゃないか」
伊織「確かにいつもはファンの人だけど今回ばかりは違うから、そこは考えなきゃよね」
「MCとかも変に外せないしさあ」
伊織「大丈夫、私がちゃんとフォローするわよ」
「だけど伊織は半分ホームみたいなもんだからいいよなあ」
伊織「さすがに完全にアウェーってわけじゃないけれど緊張はしてるわ」
「へえ、伊織でもそうなんだ」
伊織「そうよ。グループ当主の親類が変なことしたら信用に関わるじゃない」
「そっか、なるほどなあ」
伊織「お偉いさんも多いから、ここから私たちの評判が広まっちゃうかもしれないのよ」
「良ければ良い評判だけど、悪ければ…」
伊織「そういうこと。だから今回失敗はあまり許されないの」
「そんなこと言われると余計に緊張してきたんだけどさ」
伊織「いつもどおりやればいいじゃない。この前のテレビ出演みたいにやれば問題無いわ」
「そういえばあれも結構緊張したっけ」
伊織「だからその時の感じでいけば大丈夫よ」
「うん」
伊織「それにしても遅いわね…そろそろ呼ばれてもいい頃じゃない?」
「そうだよなあ…」
そこに…
コンコン
担当『伊織様、菊地様、少しお話よろしいでしょうか?』
どうやら担当の人のようだ。
伊織「どうぞ、入って」
ガチャッ
その人は何やら随分と息を切らせている。
担当「遅くなりまして…すみません」
伊織「まったく…どうしたのよ」
担当「伊織様方の前に余興を行なった者が色々と問題を起こしまして、現在事態の収拾に…」
伊織「…はあ、どうりで来なかったわけね。それで今はどういう状況なの?」
担当「現在三人ほどが、お連れ様と医務室へ行っております」
伊織「それ以外は?」
担当「その周りの方々も何が何やらで混乱しておりまして、収拾の目途が…」
伊織「一つ聞いていいかしら?」
担当「何でしょうか」
伊織「私たちのステージはすぐにでもできる状況かしら?」
担当「今確認いたします。少々電話よろしいでしょうか?」
伊織「別に断らなくてもいいわよ」
 
担当「…分かりました。伊織様、すぐにでもできるそうです」
伊織「分かったわ。じゃあ行くわよ真」
「ええっ!?いいの?」
伊織「この事態を収拾するのも含めて、こういう時こそ出番なのよ」
「うん。伊織がそこまで言うなら行くか!」
伊織「5分後に始められるようにって伝えて」
担当「了解です。すみませんがお願いします、伊織様、菊地様」
………
幕が閉じているステージ上。何やら会場はガヤガヤしている。
伊織「真、大丈夫ね」
「分かってる、伊織」
何やら伊織が目配せを行なったその刹那…
スッ
会場の照明が落とされた。そして…
パッ パッ
二人だけを照らすスポットライト。幕の向こう側には影だけが映る。突然のことに会場が静まり返る。
伊織「遅くなっちゃったわね!」
「ボク達は水と地の間に輝く女神」
伊織「明星、人は私達をそう呼ぶの」
真・伊織『私達はそう…VENUS!』
幕が開き、二人のステージがまさに幕を開けた。
MC無しのいきなりの登場に多少のざわめきはあったものの、会場の雰囲気の変化に事態は収束を見せていた。
………
ライブも終わり、伊織の部屋へと戻った二人。
伊織「何とかなったわね」
「本当に伊織はよく思いついたと思うよ」
伊織「こういうのは勢いっていうのが大事なの」
「でもどうするの?これからパーティーに行く?」
伊織「シャワーも浴びたから着替えて行ってもいいけど、さすがに私も疲れたわ」
「ボクも疲れちゃったからなあ」
伊織「料理は見繕って持ってきてもらって、もう休んじゃった方がいいわね」
「そうだなあ」
伊織「真は今日は泊まっていくんでしょ?」
「そうさせてもらう予定だけど?伊織が良いって言ってくれたからさ」
伊織「狭いけど、ここでいいわよね?」
「これで狭いって…この部屋、充分に広いじゃないか」
伊織「ベッドよベッド。ベッドはさすがにこれしかないのよ」
「そっか…別にこの部屋だったら床でもいい感じがするけどなあ」
伊織「…まったく、お客にそんなことさせるわけないじゃない。だからいい?って聞いてるの」
「これだけ広いベッドなら大丈夫じゃないの?」
伊織「真は寝返りとかしないわよね?」
「そればっかりは寝ているから分からないけど…」
伊織「まあいいわ。話はお腹を満たしてからにしましょ」
結果的に二人の評判は良い方に傾き、CM出演依頼などが舞い込んでくるようになったのはまた別の話である…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
最近、真で書いていない(3月の『あなたへの想いシリーズ』以来)なと思いまして…
ユニット名ですが、『水』瀬と菊『地』の間の星が『金星』だからです。
この二人って相手を呼び捨てにする同士で、言葉遣いも仲間内では殆ど「ですます調」にならないと似通っているんですよね…
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2010・06・19SAT
飛神宮子
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