水銀柱も鰻上りに30度を余裕で突破した日のこと… |
P | 「…暑いですね、小鳥さん」 |
小鳥 | 「ほんとに暑いですねぇ」 |
P | 「こんな時に何か涼しくなる話無いですか?」 |
小鳥 | 「ありますけど…聞きたいですか?」 |
P | 「え…?」 |
小鳥 | 「実はこの765プロにはですね…あ、やっぱりやめときます」 |
P | 「え?どうしてですか?」 |
小鳥 | 「プロデューサーさんはオカルト話は得意な方ですか?」 |
P | 「…特に苦手にはしてませんけど」 |
小鳥 | 「それじゃあ話しますけど…どうしてうちのプロダクションは夕方の仕事をあまり入れてないか分かります?」 |
P | 「どうしてって…若い子が居る関係上、夜にかかったら問題だからじゃないんですか?」 |
小鳥 | 「それはもちろん大前提にありますけど、それだけじゃないんです」 |
P | 「ええっ!?」 |
小鳥 | 「美希ちゃんが来るまでは結構入ってたんですけど、美希ちゃんが来てからしばらくして、少なくなったのは分かります?」 |
P | 「それは、仕事なんで分かりますけど」 |
小鳥 | 「実は少なくしろと言う、社長からのお達しなんです」 |
P | 「…ど、どうしてなんですか?」 |
小鳥 | 「美希ちゃんが入った後に、その時間の仕事で怪我が多くなかったですか?」 |
P | 「そういえば…春香は盛大に転んで腕を擦ったし、千早は急に喉を痛めて仕事をキャンセルしたよな…」 |
小鳥 | 「亜美ちゃんと伊織ちゃんがぶつかって頭を打ったのもその時間でしたよね?」 |
P | 「確かに、あとやよいが火傷したのもその時間帯か…」 |
小鳥 | 「だからちょっと調べてみたら、恐ろしいことが分かりまして…」 |
P | 「恐ろしいこと…ですか?」 |
小鳥 | 「はい、まさかとは思って調べてみたんです」 |
P | 「それって…」 |
小鳥 | 「あ、まずはウィキペディアでこの項目を見てください」 |
P | 「これって、薄明ですか…ちょうどこの時間帯ですね」 |
小鳥 | 「この『名称』の項についてよく読んでください」 |
P | 「はあ…宵の時間帯で、化け物や妖怪に出会いやすい時間帯だと」 |
小鳥 | 「さて、ここで作業をしてもらいたいんです」 |
P | 「はい…」 |
小鳥 | 「プロデューサーさんは私と真美ちゃんを含めた全員のローマ字表記は分かります?」 |
P | 「一応、色々書くとき使わなくちゃいけないんで」 |
小鳥 | 「それならいいです、分からなかったらお教えしたかったんで」 |
P | 「はあ…」 |
小鳥 | 「じゃあ次の順に、ローマ字で一人ずつ上から書いてみてください」 |
P | 「順番があるんですか?」 |
小鳥 | 「はい、怪我をした順なんです」 |
P | 「怪我をした順…って本当にオカルトチックになってきましたね」 |
小鳥 | 「私だって信じたくなかったんです…けど。それではいきますよ」 |
P | 「あ、その前に。苗字が先ですか?それとも名前ですか?」 |
小鳥 | 「苗字が先です。あと空白は入れないでください」 |
P | 「分かりました。それじゃあお願いします、小鳥さん」 |
小鳥 | 「まずはやよいちゃん、真ちゃん、美希ちゃん、私」 |
P | 「え?小鳥さんもこの時期に怪我をされてたんですか?」 |
小鳥 | 「ええ。美希ちゃんが看板にぶつかっちゃった日の次の日に、カッターで指を…」 |
P | 「…大丈夫でした?」 |
小鳥 | 「傷は浅かったんで何とかなりましたけど…じゃあ続けますね」 |
P | 「は、はい。話の腰を折ってすみません」 |
小鳥 | 「いえ、では続きいきますね。真美ちゃん、………律子さん」 |
P | 「えっと、T・S・U・K・Oっと。これでいいんですか?」 |
小鳥 | 「確かにこれで大丈夫です」 |
と、プロデューサーの前に一つの表が出来上がった。 |
P | 「これが…今回の件と何か関係があったんですか?」 |
小鳥 | 「このやよいちゃんから、こう読んでみてください」 |
P | 「………ギャーーーーー!」 |
プロデューサーの悲鳴が、ビル中をこだまするのは言うまでもなかった。 |
P | 「こ、こんなことって…あ、ありえるんですか!?」 |
小鳥 | 「私だって事故は偶然だったと信じたかったんですけど、こうなってしまった以上は…」 |
P | 「これって…やっぱり何か呪術的な罠みたいな物なのでしょうか?」 |
小鳥 | 「分かりません。でも、社長にちょっと話してみたら、社長も少し動転したくらいでした」 |
P | 「なるほど。こういうことだったんですか、夕方の仕事が少なくなってたのは…」 |
小鳥 | 「社長にとっては苦渋の選択だったらしいです」 |
P | 「そうですよね、仕事が減ってしまえばそれだけ入ってくる物も減ってしまうわけですし」 |
小鳥 | 「そこだったんです、でもアイドルみんなの安全には変えられないですから」 |
P | 「預かっている立場としては、そっちを避けないとダメですからねえ」 |
小鳥 | 「でもみんな喜んではくれましたよ、放課後の仕事が少なくなってくれたって」 |
P | 「あ、そういえばそうですね。社会人になるとそういう放課後っていう言葉はすっかり忘れちゃってましたけど」 |
小鳥 | 「私たちがアフター5に仕事するのと同じですよ、プロデューサーさん」 |
P | 「あ、そう考えればいいのか…」 |
小鳥 | 「でも、こうしたおかげでとりあえず事故は減ってくれたんで…」 |
P | 「それもそうですね…でもこれって、本当に寒気のする話ですね」 |
小鳥 | 「はい。私は春に気が付いたんですが、暖かかったはずなのに急に寒くなりました」 |
P | 「そういえばこのことって、アイドルみんなには話したんですか?」 |
小鳥 | 「このことって?さっき喜んでくれたって言いましたよね?」 |
P | 「いえ、この表のことについては言ったのかなって」 |
小鳥 | 「仕事が少なくなると言っただけで、さすがにそこまでは…心配を掛けさせるわけにも行かないですから」 |
P | 「やっぱりそうですよね」 |
小鳥 | 「ただ、みんなこの時間帯のことで怪我をしていることは、お互いに分かってましたから」 |
P | 「んー…さすがに不審に思ってしまいますよね、これだけこの時期に集中しちゃったんですから」 |
小鳥 | 「だからアイドルのみんなの中でも、何かがあるんじゃないかって噂になってたみたいで…」 |
P | 「それで気が付いた人は居たんですか?」 |
小鳥 | 「うーん、もしかしたら律子さんは分析して気が付いたかもしれないけど、本人には直接聞いてないし…」 |
P | 「確かに律子だったら気が付いてるかも…」 |
小鳥 | 「一番最初に、仕事に関して納得してたのも律子さんでしたから」 |
P | 「そういえば…そうでしたね」 |
小鳥 | 「あ…プロデューサーさん、このことはくれぐれも内密にお願いしますね」 |
P | 「分かってますって」 |
小鳥 | 「特にアイドルと記者の方には…負の話題が行くと困りますから」 |
P | 「こういう話題は悪徳記者が大好きそうですからね」 |
小鳥 | 「ですね、幸いまだ気付かれていないので良かったんですが」 |
P | 「少なくしただけだったんで、気が付いてないだけだと思いますけど」 |
小鳥 | 「さすがに、全く無くしたら気が付くかもしれませんね」 |
P | 「ふう…何だかモヤモヤがすっきりした代わりに、新たなモヤモヤが出来たって感じです」 |
小鳥 | 「ふう…私は少しすっきりしました。今までプロデューサーさんに伝えられてなかったんで」 |
P | 「ハハハ、何だか正反対ですね」 |
小鳥 | 「フフフ、そうですね」 |
P | 「さて、仕事の続きでもしますか?」 |
小鳥 | 「そうですね、残務処理がまだ山積みですもんね」 |
二人は書類の山にため息をつきながら、なぜか苦笑しあっていた… |