Your mind Trembling in the Wind(風に揺らぐ貴女の心)

ここは春のある夜の961プロ事務所…
貴音「ふう…風が良い季節ですわ…」
窓の桟に手を突きながら夜風を浴びる一人の女性。
カチャっ ガラガラガラガラ
その横の窓を開ける一人の少女
貴音「何奴!?」
美希「貴音、どうしたの?」
貴音「美希でしたか…どうされました?」
美希「貴音こそ、こんな所で何してたの?」
貴音「少し…夜風に当たろうかと思いまして…」
美希「そうなんだ」
貴音「それで美希はどうされたのですか?」
美希「ちょっとね…貴音がここにいたから来てみただけだけど?」
貴音「そうですか…しかし何か悩んでおられる様子に見られますが…?」
美希「え?」
貴音「美希の表情…悩んでいるようにしか思えません」
美希「そう言われると…」
美希は窓の外に向き直って…
美希「そうかもしれないの」
貴音「やはり…」
美希「どうして分かったの?」
貴音「あのお方のことでしょう?」
美希「………うん」
美希は少し黙った後、一つ頷いた。
美希「やっぱり分かってるんだ」
貴音「何となく…あの方の話の時に美希は雰囲気が変わりますので」
美希「そうだよ…だって…」
美希は窓から少し離れた場所に移動した。
貴音「今でも愛している…そうですね?」
貴音もそれに追随するように移動していく。
美希「今でも考えてるんだ、どうやったらハニーをミキの物にできるかなって」
貴音「しかしそれにはまずはこちらが上回らないとどうにもなりませんよ」
美希「そうだよね…」
貴音「しかしなぜミキはこちらの事務所に移られたのですか?」
美希「移ったっていうより飛び出したら拾われたってカンジなの」
貴音「黒井殿にですか?」
美希「うんっ」」
貴音「そもそも飛び出したのは…」
美希「ハニーが振り向いてくれなかったんだもん」
貴音「あのお方がですか…」
美希「いっつも他のみんなばっかり気にかけてて、ミキのことなんか全然…」
貴音「それは…美希の思い過ごしなのでは?」
美希「え?」
貴音「美希が思っているほど、あのお方は美希のことを気に掛けてないわけではないかと」
美希「そんなことないもん」
貴音「美希はあのお方からの愛情が少ないということですが、プロデューサーという立場ゆえ仕方ないことでは…」
美希「そんなことないもん」
貴音「皆に愛情を等分に注がなくてはならない、それは仕方ないことでは…」
美希「そんなことないも…」
と美希が言い掛けた瞬間…
パンッ…
貴音の右手が美希の左頬を鳴らした。
美希「んっ!」
貴音「美希!貴女はなぜそう言うのです…」
美希「えっ…」
貴音「そんなことがないというのはありえません」
美希「どうして…」
貴音「貴女が言っておられるのは全て独占欲からではないですか」
美希「…そうだけど…」
貴音「プロデューサーという立場から、博愛主義となるのは当然でしょう」
美希「でも、ミキは…ミキは、ミキだけを見てほしかったんだもん」
貴音「美希、一つ言っておきます。それをやったらあの事務所はどうなりましょう?」
美希「………」
貴音「美希だけではなく、他の方にも気を注いでいるからこそ成り立っているのです」
美希「むう…」
貴音「特にあの事務所は全員の力で成り立っている事務所ゆえ、貴女一人だけというのは考えれば分かることでしょう」
美希「だけど…」
貴音「だけど?」
美希「じゃあどうしたらいいの…!」
貴音「なぜ貴女はこちらの事務所に移ったのです?」
美希「それは…」
貴音「だから、奪ってしまえばいいではないですか」
美希「奪う…ミキが…」
貴音「あの事務所を潰して、そしてあのお方を引き入れてしまえばいいのでしょう?」
美希「それが…ミキにできるかな?」
貴音「黒井殿は貴女の力があれば潰せると見込んで貴女をスカウトしたのでしょう?」
美希「きっとそうなのかな」
貴音「もう…分かりますね?」
美希「ミキの力で765プロを潰して、ハニーを奪い取ってしまえば…いいんだ」
貴音「そう…それが黒井殿…そして貴女の求める答でしょう」
美希「貴音と響は…協力してくれるの?」
貴音「わたくしも…響も…向かう方向は同じ…」
美希「それなら…ミキ、頑張ってみようかな」
貴音「ええ…やらなくては何も始まりません」
美希「そうだよね」
貴音「それにはまず目の前の物を片付けていきましょう」
美希「そうだね、まずはアイドルアルティメット予選かな」
貴音「はい…わたくし達の実力ならば何という事はないでしょう」
美希「うん、三人とも絶対にいけるよね」
貴音「そして一番高いところまで上り詰めて…」
美希「コテンパンに潰しちゃえばいいんだね」
貴音「美希、ただこれだけは忘れないように…」
美希「え?」
貴音「貴女の心にはまだ765プロの頃の心が残っているということを…」
美希「………」
貴音「特に貴女の心は未だにあのお方に向かっているほど、貴女はまだあの事務所のことを忘れきってはいないのですから」
美希「そうだね…何だか分かった気がする」
貴音「では…わたくしはこれで…」
美希「貴音、今日はありがと」
貴音がその場を去った事務所に一人残った美希、その瞳には目指す物がどことなく写り込んでいたと言う…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
961SS、今回は美希と貴音の二人にしました。何気にこの組み合わせは初だったりします。
美希が961に来た頃、やっぱり悩んでいたとは思うんです。
誰かの言葉が切欠で…方向性が定まるってありますよね。
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2012・05・21THU
飛神宮子
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