Summer Tradition(夏の恒例行事)

ここはある日の音楽スタジオ…
貴音「そうですか…ではしばし休憩の時間といたしましょう」
「ああ、悪いな貴音。折角の収録だっていうのに機材トラブルに巻き込んじゃってさ」
貴音はCDに入れる曲の収録に来ていたようだ。
貴音「しかし…いったい何がどうされたのですか?」
「よく分からないんだけど、録音に物凄いノイズが乗るらしいんだ」
貴音「ノイズ…ですか」
「ああ。ブースの外で聴いていると始めから少しずつ出てきて…ちょっと流してもらおうか」
貴音「はい…」
貴音のために収録した曲を少し流した。
貴音「確かにこれは不可思議な…」
「原曲の方には何も無いってことは、収録機材のトラブルだろうってさ」
貴音「分かりました。では…」
そこに…
コンコン
部屋をノックする音が響いた。
「ん?何だろう…はーい」
ガチャっ
ドアを開けるとそこにいたのは…
まなみ「こんにちは、○○さん」
「こんにちはっ!」
「あ、お久し振りですまなみさん。日高さんも久し振りだね」
「はいっ、お久し振りです貴音さん、765プロのプロデューサーさん」
貴音「お久し振りです。愛、岡本嬢」
まなみ「そっちも中断されているということは、機材トラブルですか?」
「はい…あ、日高さんの方もですか?」
まなみ「ええ…まったくどうしたんでしょうね…」
「ここだけのトラブルじゃなかったんですね…これは長引きそうだなあ…」
貴音「何やら話を聞くからに、ただならぬ状況のようですが…」
「そうだな貴音、これは全体のトラブルかもしれないな」
「大丈夫なんですか?まなみさんー」
まなみ「発売まではまだ余裕があるし、いざとなったら日を改めて他のスタジオにするから」
「でも心配ですねっ」
まなみ「ここはいつもお世話になってるし、気心が知れてるからあんまり変えたくないわよね…」
「まなみさんの方もですか?うちも実はそうでして」
貴音「貴方さま、愛、岡本嬢、時間もまだ掛かりそうですので、今は座ってお話を…」
「それもそうだな。日高さん、まなみさん、こちらへどうぞ」
まなみ「あ、ありがとうございます」
貴音「愛はこちらへ…」
「ありがとうございます、貴音さん」
まなみ「………」
「………」
プロデューサーとまなみは二人だけの会話に入ったようだ。
貴音「しかし…愛も不運でありましたね」
「はい。まさかこんなトラブルに巻き込まれるなんて」
貴音「愛はこのようなトラブルは初めてですか?」
「んー、収録の時のトラブルは初めてかなあ。貴音さんはどうですかっ?」
貴音「わたくしもさすがにこのような大規模な物は初めてになりますか」
「このまま今日は無理なのかなあ…」
貴音「しかし今日が無理となると…スケジュールがどうなるか…」
「予定が詰まってるんですか?やっぱり人気アイドルは違いますねっ」
貴音「愛が思っているほど…フフフ、予定は空いておりますよ」
「でも大変ですよね、こういうのでオフも急に潰れちゃうし」
貴音「そうですね…愛も大変でしょう?」
「アハハっ、夏休み中に収録できればいいけどなあって思ってます」
貴音「夏休みですか…懐かしい響きであります」
「ああ、宿題終わらせられるかなあ…」
貴音「もう残り少ないのではないのでは?」
「最初の方遊んじゃって、アハハっ」
貴音「今頃は765プロの方でも律子嬢の指導の下で何人かが宿題をしておりますよ」
「そっかー、アタシも行こうかなあ…律子さんちょっと怖いかもだけどっ」
貴音「と言うならば、今その宿題は持ってきていると」
「はいっ。事務所でやろうかなって思ってたんです」
貴音「それならば今こちらでわたくしが…いかがです?」
「いいんですかっ?!貴音さん」
貴音「はい…まだ作業は難航しているようですので」
ソファーの周りではいつの間にかプロデューサーやまなみを含めたスタッフがバタバタ動き回っていた。
「それならお願いしまーすっ」
貴音「では…ソファでは低すぎますから…他の机のある部屋がお借りできたらお借りしましょう」
………
ここはスタジオにある二人が借りた会議室。
「貴音さん、ここがどういう意味かちょっと教えてくださいっ」
貴音「こちらですか?………なるほど、和訳すると………でしょう」
「なるほど…ってことは、こうかな?」
貴音「いえ、文脈からしたらこちらではないかと。次の文が………となりますゆえ」
「えっとこの単語は…そういう意味で使ってるんだ」
貴音「ここは複数の意味が取れる単語ですから、前後からきちんと読み解く必要がありますよ」
「やっぱりこの先生の宿題は鬼だよぉ…」
貴音「しかし良い課題かと思われますが。こういう間違い易い点をきちんと突いてくるというのは」
「うう…こんなことだと夏休み明けのテストは大丈夫かなあ」
貴音「テストですか?」
「はいっ。この夏休みに出た宿題から出るって言われてるんです」
貴音「それならば余計にきちんと課題をこなさないとダメでしょう」
「それがまだこんなにあるんですっ」
愛は横にある40枚ほどの束を指した。
貴音「もう…これは一気に片を付けてしまわないと…」
「家だと誘惑が多くて、だからこういう違う環境でやろうかなって持ってきたんです」
貴音「それは良い心掛けですが…それでどのくらい終わったのでしょう?」
「えっと…10枚くらいかな」
貴音「愛!」
「え?ええっ?」
いきなりの貴音の怒声に驚く愛。
貴音「ここは心を鬼にいたしましょう。あと20枚ここで終わらせるまでこの部屋は出られないと思っていただきましょう」
「え?えーーっ!?!?」
貴音「愛は意思が薄弱なようですので、これくらい行わないと無理でしょう」
「え、え、でも収録は…」
貴音「この分だと今日のところは夜まで無理でしょう。それまでみっちりと仕上げていただきましょう」
「うええ…やだよー!」
貴音「それは今までやらなかった愛が悪いのですよ、さあ続けましょう」
何とか残りの半分である20枚近くを終わらせた頃には、真っ白な灰になりかけた愛の姿がそこにはあったという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
夏休みといえば…嫌なこれが待っているものですね。
きっと愛のことですから、遊んだりして後々にまとめてやる派…な気がします。
愛のために結果的に心を鬼にした貴音。それはそれは恐ろしい姿だったんでしょうね…
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2012・08・25SAT
飛神宮子
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